第169話 東京旅行⑤

「俺は・・・、楽しかった。正直、自分には一生無縁かもって思ってた。だから、本当の意味で夢のようだったよ。」

拓哉は正直な自分の気持ちを述べた。

黙っていてもこの子にはどうせバレる。

だから隠す必要なんてない。

そう思うと素直に答えることが出来た。


「じゃあ、よかったやん。うちのおかげやで。感謝してや。」

御子はそう言って拓哉の方に顔を傾けた。

暗くなって夜と夕方の狭間。

薄暗い中で見える御子の顔は、軽く微笑んでるだけだけど、とても楽しそうに見えた。


「って、そうじゃなくて!」

拓哉は元々の質問を思い出した。


「なんや?」

御子はとぼけているのか、本当に忘れているのか。

きょとんとしていた。


「西条さんはどうなの?って話だよ!」

拓哉は必死に訴えた。

いや、これはツッコミだろうか。


「ああ、覚えてたんか。」

どうやらとぼけていたらしい。


(やり過ごそうとしやがった!)

拓哉は内心少しだけ怒った。


「うちは・・・。まぁ、うちも楽しかったで。」

御子は少し困ったように笑っていた。

少なくとも拓哉にはそう見えた。


「含みがあるね。いや、何か隠してる?」

拓哉は素直に質問した。

どうせ隠してもバレるし。


「そんなわけちゃうで。思ってた以上に楽しかった。それだけや。」

拓哉は心なんて読めない。

多分女心に関しては、人並み以上に読めないだろう。

それでもなんとなく本心で言っているのが分かった。


そんな気がした。


「うちな、小さなころから人の心が見えたりするやん?」

御子が急に真剣なまなざしで話し始めた。

「うん。」

「まぁ人によって見えることにも大小あるんやけど、もう癖になってんねん。人の心見るのが。」


拓哉は自分なりに想像してみた。

人の心が読めたらどんな楽だろう。

そう思ったこともあった。

でも多分、そんな単純な話じゃない。


見たくないものだって見えてしまうんだろうから。


「だからな、大阪に出てくるまでは、唯志みたいに心が読みづらい人間が良いなって思ってたんや。」

「恋人がってこと?」

「そう。唯志と会って、そういう人間もいるってわかったから。それならお互いにフェアやし、楽かなって。」

「・・・。」

言いたいことはなんとなくわかった。


(きっと、西条さんも岡村君のこと・・・。)

と、なんとなく思った。


「でもな、それは違った。」

「え?」

拓哉はびっくりした。

てっきりかと思ったのに。


「割とすぐに気づいたで。友達としてならええけど、やっぱり小さいころからの習慣って抜けへんな。心が読まれへん人間といると、もやもやすんねん。」

「あー、なるほど。」

「だからそういうタイプは恋人には出来ないなって、すぐわかった。」


拓哉は御子の言っている意味はなんとなく分かった。

だが、この話の意図が全く分からなかった。

故に黙っていた。


「でな。逆にあんたみたいな、心がダダ漏れなタイプは楽やってことにも気づいた。」

「・・・。え!?」

「あんたは自分が単純だからって思ってるかもしれんけど、ちゃうで。心も言動も同じってことは、ってことやで。」

「え?あ、えっと・・・、俺が?」

「そう。」


御子はそういうと、立ち上がって拓哉の方を見た。


「まぁ何が言いたいかっていうと、今日は心置きなく楽しめたでってこと!」

御子はそう言って笑顔を見せた。


ちょうどその時、御子の背後ではパレードが始まり、御子の笑顔はひときわ輝いて見えた。


----

パレードも終わり、花火が舞い上がる中、拓哉と御子は集合場所に向かっていた。

少し離れたところからでも、既に光と唯志がいるのが見えた。


見えたのだが・・・。


「あの二人、何イチャついとんねん。」

御子は若干あきれ顔で見ていた。

「いちゃつくというよりは、光ちゃんがまとわりついてるように見えるよ。」

「一緒や!まだ夢が覚めてないようやな・・・。」

そう言ってため息をつきながらも、御子は二人のところへと近づいていく。

拓哉も苦笑いしながら後に続く。


「あ、御子ちゃんとタク君だー!おーい!」

二人を見つけた光が大声で呼びかけてきた。

ただ、唯志にまとわりついているのは止めないようだ。


「あんたら、なんかずいぶん仲良くなったな。」

と御子が少し引き気味に言った。

これは嫌味だろうか?

「えへへー。でも元々仲良いけどね。ねぇ、唯志君?」

「え、ああ。そうだな。」

唯志も光のテンションに少し困っているようだが、ちゃんと合わせてあげるあたり偉いと思う拓哉だった。


「お前らも楽しめたか?」

唯志は拓哉たちに向かって質問した。

「まぁな!」

御子は胸を張って、それでいて簡潔に答えた。

拓哉は隣で静かに頷いていた。

「なら良かった。」


「それで、明日はどうするの?夏美さん探しの続きする?」

拓哉は明日の予定が気になっていた。


「いや、それは--」

「もう大丈夫だよー。明日は遊びに行こー!」

唯志が言い終わるよりも早く、光が元気に答えた。


「え、大丈夫ってどういうこと?」

拓哉は驚きながら聞き返した。


「ま、そのうちわかる。それより明日は中華街とか行こうか。」

唯志はまた適当にはぐらかした。

「おお、ええな!行ってみたかったんや!」

だが、御子がに食いついたので、なんとなくこの話は有耶無耶になってしまった。


って言ってたな・・・。解決したってことなのかな?)


少しもやもやはするものの、光と御子の笑顔を見ていると、ここで水を差すのも悪いかと思う拓哉だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る