第167話 東京旅行③

翌日、二月五日。

今は朝の七時前。

ロビーでは光と唯志が拓哉たちを待っていた。


ホテルの部屋は光と唯志が同室。

拓哉と御子は別室で、計三部屋に分かれていた。

その為、朝から機敏に動けるカップルの二人が先に来て待っていた。


数分後拓哉が、最後に御子がやってきた。


「なんや吉田。朝から不景気な顔やな。」

あくびをしながら指摘している御子だったが、その御子と比べても拓哉は寝不足そうな顔だった。


「ちょっと寝付けなくて。」

「遠足前の小学生か!そんなに夢の国が楽しみやったんか?」

ニヤニヤとしている御子に対し、拓哉は明らかに暗い雰囲気だった。


――

前日。

帰りの電車内。


「でも今なら・・・。」

唯志がそう言って光を見つめた。


「えっと、今なら出来ることがある?」

光は唯志を見つめ返して質問した。


「・・・かもな。まぁ後で話すよ。」

唯志はそう言ってその会話を終わらせた。


(後でってなんだよ!?)

拓哉は心の中でツッコんだ。


そして拓哉は、そのことが気になって、夜も寝付けないほど考えさせられてしまった。


――

その結果が、現在の寝不足で不機嫌そうな暗い雰囲気だった。


「ねぇ岡村君、昨日言ってた別のプランだけどさ・・・。」

気になって気になってしょうがない拓哉は、唯志に詰め寄った。


「ん?なんだ?」

「どんなプランなの?というか、確実性はあるの?」

「まぁ夏美探しよりはずっと確率が高いと思う。」

「だったらさ。最初からそれをやれば・・・。具体的にはどんなことをするの?」

拓哉の質問に、光も興味津々とばかりに唯志をじっと見つめていた。


「うーん。当時は責任が持てなかったし。まぁそのうちわかるさ。」

唯志はそう言って話をはぐらかした。


(俺は今知りたいの!)

心の中でそう叫んだ拓哉だったが、御子に「まぁ待ったりーや。」と肩を叩かれ、諦めることにした。


「そんなことより、今から夢の国行くんだし、そっちの方を考えようぜ。」

「確かにー!」

光は唯志の言葉に、パッと表情が切り替わった。


(てか、光ちゃんが莉緒さん化してない?)

拓哉はそう思った。

確かに日に日に言動が莉緒に似てきている。

唯志と付き合い始めてからは、特にそれが顕著だ。


光は光なりに、二人に理想のカップル像とかを描いていたのだろう。

だから徐々に似てきている。

そんなところだと思われる。


――

「えー!?ランドじゃないの!?」

「俺はてっきりシーの方かと思ってたけど。」

行きの電車の中、唯志と御子が揉めていた。

内容は、夢の国のランドに行くか、シーに行くか。


「えっと、どう違うんだっけ?」

光は二人が揉めてる理由がわからず、唯志に助け舟を求めた。

「ざっくり言うと、シーの方が絶叫マシンとかあって、若干大人向け。」

「絶叫マシン!面白そう!」

光はシーの方に乗り気だった。


「うちはランドに行きたい!」

一方、御子はランドが良いようだ。


なお、拓哉はどちら派でもない。

ただ、拓哉もランドに行くものだと思い、ランドを徹底的に調べていた。

故に、どちらかというとランドに行きたかった。


「しゃーない。あんたらカップルはシー。うちと吉田はランド。これでええか?」

「!!?」

拓哉は御子の提案に声にならないほど驚いていた。


「俺は別に良いけど。光も良いよな?」

「うん、いいよー。」

仲良しカップルは即答で了承した。

これにも拓哉は絶句していた。


「たださ、御子。お前の後ろにすごい顔してるやつがいるぞ。」

「あん?なに変顔してんねん、吉田。」

御子は呆れ顔で拓哉を見ながら言った。


「いや、だって!俺と西条さん二人でランド行くの!?」

「せや。しゃーないやろ。音楽性の違いや。」

「いや、でも、だって・・・。」

「あんたは浮気した主婦か。もう決まったんや。つべこべ言わない。」


(いや、でもそれじゃ・・・――)


若い男女が二人で夢の国に行く。

そう、まるでデートだった。


――

「じゃあ、閉園時間後にその辺で。」

「せやな。なんかあったら連絡するわ。」

唯志と御子が後の段取りを話し合っていた。


「タク君、タク君。」

光が拓哉にこそっと話しかけた。

拓哉は相変わらず放心状態だったが、その声でハッと気が付いた。

「ど、どうしたの?光ちゃん。」

「あのね、御子ちゃんのこと、お願いね。」

「お願いって、あの子はああだから、大丈夫でしょ。」

「そんなことないよ。御子ちゃんだって女の子だもん。ちゃんとエスコートしてあげてね。」

そう言うと、光は唯志の横に戻っていった。


(エスコート・・・。出来るのか?俺に。)

拓哉は今日まで念入りにシミュレートしてきた内容を思い出す。


――

ランド内に入り、二人になった。

すると御子が話しかけてきた。


「すまんな、吉田。こういうことになって。」

「え?ううん、別に良いよ。」

拓哉は素直に謝られたことに驚いていた。


「仮にランドに四人で来てたとしても、別行動のつもりやったけどな。」

「そ、そうなの?なんで?」

「二人の邪魔、出来へんやろ。」

「・・・。」

言われてみたら、そうだった。


「でもさ!それだったら、ここじゃなくて、別の場所で観光しても良かったんじゃ?」

「うちはここに来たかってん。」


そして御子は続けた。


「だから、エスコート頼むで。。」

そう言って御子はニコッと微笑んだ。

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