第166話 東京旅行②
横浜駅。
その近くのビジネスホテル。
四人はチェックインを済ませ、ロビーで集合した。
最後にロビーに現れたのは当然――
「遅いで!吉田!」
御子の怒号が響いた。
「いや、しょうがないじゃん。」
「レディーを待たせるなや!」
新幹線で寝ていたためか、元気が有り余っている御様子だ。
「ところで、ここからどう移動するの?」
わーわー御立腹している御子をよそに、拓哉は唯志に質問した。
「あ、確かに!ていうか、ホテル東京じゃないんだね?」
唯志以外の三人は、新横浜駅で降りてから目的地が東京じゃないことに気づいたらしい。
「ここから町田、その後八王子。そう回ろうと思ったら横浜の方が近くて便利なんだよ。東京観光は明日だから別に良いだろ?」
そういう唯志だったが、正直他三人は土地勘も無いので従う他なかった。
――
「どう?」
唯志が御子に訊ねる。
「ハズレやな。」
「そっかー。うーん、当たらないねー。」
現在は八王子市内。
公園を散歩している若い女性と、その腕に抱えられた赤ん坊をこっそりと見ていた。
時刻はもうすぐ十七時になろうというところ。
ここまで町田から八王子まで。
約八組の親子を観察した。
時には家から出てくるのを待ち、時には直接家に押しかけた場合もあった。
今回はちょうど家から出てきたところをつけてきた。
「時間的にもそろそろ厳しいよね。あと何件あるの?」
拓哉の顔色も疲労と心配で、いつにも増して暗かった。
「次がラスト。予想してたよりも順調に回れてるよ。」
「え?次で終わり?」
唯志の言葉に拓哉は驚いた。
「そう。」
唯志は淡々と返事をした。
「うー、やっぱり難しいんだね。」
光はしょんぼりとしていたが、光の頭をぽんぽんと唯志が撫でた。
「まぁそう悲観するな。最初から当たりが出ればラッキーって勝負なんだし。」
「うん、わかってる。次行こっか。」
そう言って明るく振舞っていた光だったが、拓哉の顔色は相変わらず冴えなかった。
「あんたも、そんな気にしたらあかんで。」
それを見かねてか、御子が声をかけた。
「でも、未来に帰れなかった光ちゃんにとって、これは最後の手段なんだよ?全部ハズレでしたなんて可哀想だよ。」
「そうかもしれんけど、本人が明るく振舞ってるんや。あんたが暗くなってどうすんねん。」
(確かにそうだけど。)
理解はしつつも、拓哉はやるせなかった。
当たりが出ない現状というよりも、何も出来ない自分に。
――
最後の一件。
その対象者のマンションの前。
対象者のマンションは一階の部屋の為、その前で全員で張り込んでいた。
「あれが部屋が最後のところ?」
「そうだな。」
「うまく出てきてくれると良いんだけど・・・。」
光は祈るようにその家を見つめた。
もう既に時刻は十八時近くになっている。
あたりも暗い。
一般的な家庭環境であれば、この時間から出歩くことはあまり考えられない。
「やっぱり夕食の準備とかあるだろうし、出てこないよね。また突撃する?」
拓哉は諦めたように提案した。
「まぁもう少し見てようぜ。もしかしたらそろそろ・・・、あ。」
対象の部屋に一人の男が近づいている。
「御子!あいつはどうだ!?」
唯志は急いで御子に見るように言った。
「あれって旦那さんでしょ?夏美さんじゃないよ。」
拓哉は慌てたように訂正を入れた。
「バカ。夏美の父親だったら、結局光と血縁だろうが。」
「あ、そうか。」
拓哉だけかと思いきや、光も目から鱗といった反応をしていた。
やがて、男は部屋のドアを開けた。
そして、御子が口を開いた。
――
帰りの電車。
朝早くからの長距離移動。
そして日中ずっと歩き回っていたせいか。
四人は疲れ果て、黙って電車に揺られていた。
いや、疲れているからじゃないことは誰しもがわかっていた。
その一言に尽きた。
御子が見た最後の男もハズレだった。
もしかしたら赤の他人とか、赤ちゃんは他人の子供って可能性もあった。
あったにはあったが、それも否定された。
何故ならあの後、恐らく新婚であろう若い父親を、嬉しそうな母子が出迎えに出てきたからだ。
結果的に母親も夏美も見ることが出来た。
そして、結果はNO。
最後の一件だっただけに、これで完全に希望は潰えた。
「あはは、でもこればっかりはしょうがないよね。」
光は無理して気丈にふるまって見せた。
そして拓哉にも無理してるのが痛いほどわかった。
故に何も言えなかった。
「まぁそう暗くなるなよ。
「え?」
唯志の言葉に、俯いてた拓哉は顔を上げた。
「ん?そりゃそうだろ。今日回ったのは町田と八王子。時間が限られてたから、人口が多くて距離が近いところを潰しただけ。」
唯志のその言葉に、光の表情もパッと明るくなった。
「なら、まだ他にも候補はいるってこと?」
拓哉が横から質問した。
「まぁな。距離的に今日は行けないけど、あと三件ほど。」
「三件か・・・。」
三件。
正直今日の雰囲気だと心許ない数字だと思った。
「でも、まだ希望はあるね!明後日行くの?」
光はキラキラした目で唯志を見つめていた。
「うーん、それなんだけどな。今日で見つからなかったんだし、
(別のプラン?)
拓哉は初耳だった。
それは光も御子も同様だった様で、
「別のプラン?」
と、首を傾げて聞き返していた。
「今のこの作戦を思いついた時から考えてた腹案なんだけど・・・。当時は話すつもりなかった。というより、言えるタイミングじゃなかった。」
「?」
光は頭に疑問符を浮かべてポカーンとしていた。
「でも今なら・・・。」
唯志はそう言って光を見つめた。
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