第163話 新年会 -終幕-

唯志が合流してからというもの、新年会はなかなかの盛り上がりをみせていた。

話題が尽きそうになると唯志が適当に話を振るし、各人それぞれに等しく話しかけたりして、場を繋いでいた。

完全にバラエティ番組とかで言うMCのような立ち回りだ。


(ああいうの、俺には出来ないな。)

それを眺めていた拓哉は、自分には出来ないことを平然とやっている唯志が羨ましかった。


頑張って考えた計画はうまくいかず、自分じゃ仕切ったりすることもできず。

唯志がいなかったら、この新年会は完全に失敗だっただろう。

拓哉は悔しさよりも、同い年の唯志との差を思い知って、自分が情けなく感じていた。


何か大盛り上がりをしている女性陣を眺めながら、拓哉はぼんやりとそんなことを考えていた。


「よう、暗い顔してんなよ。新年だぞ。」

そんなことを考えていたら、唯志が隣に座って話しかけてきた。

さりげなく空になっていたウーロン茶も注ぎ足してくれている。


「まぁほら、光のこと。お前には悪かったと思ってるよ。」

唯志は苦笑いしながらビールを飲んでいた。

拓哉の気持ちを知っていながら光と付き合い始めたこと。

唯志は唯志なりに気にしていたようだ。


「良いって。自分で言うのもなんだけど、今思えば当然の結果だと思うよ。」

拓哉も苦笑いしながら答えた。

結果についてはもう受け入れている。

だからこそ、何の恨みも妬みも無い。

それが本音だった。


「誰だって俺より岡村君を選ぶ。それは俺でもよくわかるよ。」

拓哉は何か達観したような、悟ったような表情で、遠くを見ながら言った。


「そんなことはねーと思うけど。」

唯志はビールをぐいっと流し込みながら答えた。

「そんなことあるよ。さっきだって、君が来て声をかけないと会すら始まらなかったよ。食事とか飲み物も足りなかっただろうし。」

拓哉は先ほどの出来事を淡々と話していた。

「へぇ。そうだったんだ。」

唯志は特に何の感情もなさそうに答えた。


「そうだよ。俺には頑張ったってそこまでは出来ない。羨ましいよ。」

「それは俺とお前の性質たちの違いってだけだろ。別になんも凄くないし、俺はお前が羨ましいけどね。」

そういう唯志に、拓哉は怪訝そうな顔をした。


拓哉にとって唯志の発言は、

或いは、単純に嫌味に聞こえるんだろう。


そう思って唯志の顔を見る拓哉。

そして訊ねた。

「どういう意味?」


「人それぞれって良し悪しあるってこと。少なくとも、光に初めて出会ったのがお前じゃなかったら、今こうして新年会なんかやってない。・・・俺はそう思うけどな。」


「唯志くーん、何してんのー?」

唯志が言い終わったところで、光が唯志にまとわりついてきた。

少し酒に酔っているようで、テンションが高めだ。

「ねーねー、私とも話しようよー。」

「はいはい、わかったわかった。」

唯志はまとわりついてくる光を撫でながら軽くあしらっていた。


「ま、とりあえず次は東京旅行だ。お前なりに色々、自分に出来ることを考えてみると良いかもな。」

そう言い残し、唯志は連れ去られていった。


(俺が出会ってなかったら・・・。当然、ってのは野暮だよなぁ。)

拓哉と光が出会っていなかったら今こうしていない。

当たり前のことだが、唯志はそんなことが言いたいんじゃいってことはなんとなくわかった。

そして、じっくりと頭を捻って考えてみた。


(多分、最初に出会ったのが自分じゃダメだったって言いたいのかな。でも・・・。)


でも、だとしたら

今の拓哉にはよくわからなかった。


だが、唯志に言われた通り、次の東京旅行。

自分に何が出来るのかはわからないし、何をしたらいいのかもわからない。


(――だからこそ、色々と考えてみよう。俺に出来ることを。)

拓哉はそう思った。


――

新年会が始まって約六時間。

十九時を回ったあたり。

もうずいぶんと経っているが、相変わらずわいわいと盛り上がっていた。

女性陣と拓哉はゲームをして遊んでいるし、唯志と野村は少し離れた位置で酒を飲みながら話し込んでいた。


そんな頃、唯志が声をかけた。

「おーい、光。それに御子とめぐみんもだっけ。明日仕事だろ?そろそろ時間ヤバくね。」


「あー、ほんとだねー。明日朝からだし、そろそろ帰る準備しなきゃかー。」

唯志に言われ、その中でも自宅に帰る必要のある恵が真っ先に反応をみせた。


「せやな。残念やけど、そろそろお開きにしよか。」

恵の意見に御子も追従した。

「えー、唯志君私の部屋に泊まっていこうよー。」

光はまだ酔っぱらっているようだ。


「はいはい、また今度な。」

光を軽くあしらいながら、唯志はてきぱきと片づけを始めていた。

それを見た拓哉は、その片づけを手伝い始めた。


いつもの拓哉ならボケーッと眺めて、指示待ちだろう。

だが、小さなことからでも見様見真似で始めてみよう。

そう思って唯志の真似をしてみていた。


――

「じゃー、またな。」

「またなー。」

唯志と莉緒が軽い挨拶をして、それに続いて他の面々もぞろぞろと玄関から出て行った。


「唯志君、明日も遊びに行くからねー。」

光は上機嫌でぶんぶんと手を振っていた。


「なー、吉田ー。」

後ろの方で御子が拓哉に話しかけてきた。


「どうしたの?」


「あんた、今日はよく頑張ってくれたな。ありがとな。」

そう言われた拓哉は少し複雑な思いだった。

確かに色々と頑張って考えてはみたものの、蓋を開けたらかなり唯志頼りになってしまった。

そう思って浮かない顔をしていた。


「そんな顔すんなし。あんたはあんたなりに頑張った。うちはそう思うで。」

「・・・ありがとう。」

お世辞かもしれない。

でも悪い気はしなかった。

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