第162話 新年会 -幕開け-

初詣を終え、拓哉たちのシェアハウスに集まった面々。

そして・・・


「みんな、あけおめー!」

恵が元気に挨拶をしながら、部屋に入ってきた。


「なんで恵さんまでいるの・・・?」

拓哉は若干冷や汗をかきながら、こっそりと御子に耳打ちした。

「暇やって言ってたから呼んどいたで!」

(なんてことを・・・。)


そして数分後。


「あけましておめでとー。」

今度は野村が部屋に入ってきた。


「え、ちょ、ノムさん!?なんで!?」

明らかに狼狽えている拓哉。

「なんでって、光ちゃんと御子ちゃんに招かれたんだよー。」

と、呑気に話している野村。


「この前のお礼も出来てなかったから、良かったらって。何かまずかった?」

光はきょとんとしながら拓哉に質問した。

「え、いや、まずくないよ!」

相変わらず光に言われると弱い拓哉だったが・・・


(まずい、まずいぞ・・・。)

内心では全く逆のことを考えていた。


と言うのも、本日の新年会の準備をしたのは拓哉だ。

だが、当初の予定通り『三人分』で計画して準備した。

食事や酒など、多少多めに用意したとはいえ・・・。


(岡村君に、莉緒さん。それに恵さんに、ノムさん。人数、倍以上になってるんだが・・・。)

明らかに拓哉の用意した量では足りない。

完璧なはずの計画が完全に狂ってしまった。


(どうすれば・・・。どうすればいい・・・?)

少しずつ食事などの準備を始めながら、拓哉は冷や汗が止まらなかった。


「あれ?ひかりん、唯志は―?」

部屋を物色していた莉緒だったが、ふと気が付いた。

「唯志君なら駅出た時に帰ったよ?用事があるから少し遅れて参加するってー。」

「相変わらず落ち着きのないやつやなー。」

そう言う御子に、光は「えへへ」と笑っていた。

唯志のことを聞かれるのが嬉しいのだろうか。


ピンポーン


そんな頃、インターホンが鳴った。


「あ、唯志君かな?」

光の表情がパッと明るくなった。

「いや、多分俺の注文した料理の宅配じゃないかな。」

そう言う拓哉だったが、顔色は冴えない。


--

食事や飲み物がリビングで並べられ、それぞれが席に着いた。

だが、その物量が・・・


「吉田・・・、少なくね?」

他の面々が口をつぐんで黙っていたが、御子が拓哉にツッコんだ。


「しょ、しょーがないでしょ!?こんなに人来るって知らなかったから!」

拓哉は御子に反論していた。

光は「あはは」と苦笑いしていたし、恵や莉緒は申し訳なさそうな顔をしていた。


「良いんじゃない?足りなかったら買い足せばいいよー。」

呑気な野村が、全く気にしてない様子で言った。

そう言われると他の面々も渋々同意せざるおえなくなった。


「ま、まぁそうやな。始めよか。」

御子がそう言い、なんとなく新年会を始める雰囲気になった。


「・・・」


誰も動かない。

誰も何も言わない、手を付けない。


「いや、始めようや?」

御子は拓哉を見ながらそう言った。

「え?俺?」

拓哉は露骨に驚いた表情だった。

「なんか号令なり、挨拶なりないと始まらへんやん?」

「だから、なんで俺?」

「こういうのは男の仕事やろ?」


その様子を見ていた莉緒は思った。

(まとめ役、いないな。)

と。


確かに気性的に、まとめ役と言うかリーダー的な存在のいない集まりだった。

強いて言えば御子か野村なんだろうが、二人はこういう面倒事は人に丸投げするタイプのリーダー気質だった。


(俺こういうの向いてないんだけど・・・。)

無理やり号令役を押し付けられた拓哉は、困った顔をして固まっていた。

それを見た他の人たちは、困っている拓哉に何も言えなかった。


「・・・」


無言の、気まずい空気が流れる。


ピンポーン


そんな時、インターホンが鳴った。


「あ、唯志君かも!」

困り顔をしていた光だったが、パッと笑顔になり、インターホンの方に走って行った。

尚更、始められる雰囲気ではなくなってしまった。


--

「唯志くーん、いらっしゃーい。」

玄関の方で嬉しそうな声が聞こえる。


「おー、お疲れー。めぐみんとノムさんはあけおめー。」

唯志がリビングに入ってきて挨拶を交わした。

何やら大荷物を抱えている。


「なんじゃその大荷物は。」

「ん?人数増えるから食事も酒も足らねーだろ?追加だ、追加。吉田に頼まれてな。な、吉田?」

「え?」

そう言った唯志の言葉に一番驚いていたのは拓哉だった。


「おー、やるやんけ吉田!見直したで!」

「え?あ、うん。え?」

拓哉は意味がわからず呆けていた。


「なんだ、新年なのに辛気臭いぞ?てかまだ始まってないのか。間に合ってよかったよ。」

そう言いながら、唯志と光が手際良く追加の食材を並べていた。


「ほらほら、全員飲み物はー?」

唯志は全員のコップにビールを注いで回った。

拓哉にはさりげなくウーロン茶を渡している。


「よっし、行き渡ったな。」

そう言って唯志は光の隣に腰掛けた。


「んじゃ、はじめよーぜ。ほらみんなコップ持って。」

唯志がそう言ってグラスを構えると、全員がそれに合わせてグラスを手に取った。

さっきまでの少し気まずい雰囲気は、いつの間にかかけらもなくなっていた。


「じゃー、新年あけましておめでと―。今年もよろしく!かんぱーい!」

唯志の号令と共に、全員が声をそろえて乾杯した。


そして無事に新年会がスタートした。

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