第161話 初詣
一月三日月曜日。
まだ朝の八時くらいだが、珍しく三人ともリビングに揃っている。
昨日まで唯志の部屋で三人で過ごしていた光だったが、昨晩から自宅の方に戻っている。
そして昨晩には拓哉と御子も帰ってきていた。
今日は朝から初詣。
帰ってきてからは新年会の予定だ。
「光は唯志と行くんか?」
「うん。先に唯志君の家行って、一緒に行くねー。」
光はニコニコしながら言った。
「まぁええんやが・・・。」
そう言って御子は拓哉の方をチラッと見た。
「・・・なに?」
拓哉は怪訝な目で御子を見た。
「いや、あんたと二人やと、不安やな~と思って。」
「うるさいなぁ。今回は大丈夫だよ!」
「ほんまかな?うちも光について行こかな~。」
御子は言葉の反面、ニヤニヤしながら言った。
「二人の邪魔したらダメでしょ。」
そういう事にも考えが及ぶようになった分、拓哉も気を使えるようになったようだ。
「そんな言うて、うちがおらんと寂しいんやろ?」
「そんなことありませんよ、西条さん。」
--二人の押し問答はこの後数分間続いた。
こんな二人のやり取りが、シェアハウスではほぼ日常的になっていた。
そんな二人のやり取りを、光は微笑みながら眺めていた。
--
「じゃあ行ってくるねー。」
光は一足先に家を出た。
前述の通り唯志の部屋に向かうためだ。
付き合いたてのカップルらしく、二人仲良く来るんだろう。
ちなみに莉緒は現地集合の予定だ。
部屋に残された二人。
「あ、せや!吉田、お年玉!」
御子が思いついたかのように拓哉に言った。
「え?」
「え、ちゃうわ!うちまだ
「いや
「だってお年玉欲しいんだもん。光も莉緒も、唯志から貰ったらしいで?」
(何してくれてんだよ、あの人。)
拓哉は心の中で舌打ちした。
御子は期待したような、屈託のない笑顔で拓哉を見つめていた。
--
JRの西宮駅。
その出口付近。
待ち合わせ時間の約三十分前頃だが、光と唯志はすでにここにいた。
「--でねー、私林檎飴っての食べてみたい!」
「未来じゃ無くなってんの?」
「うーん、屋台とかはあまり見なかったかなぁ。そもそも初詣もオンラインでってのが多かったし。」
「あー、なるほどね。仮想現実も進んでんだな。」
「家から出なくて良いから楽だけどね。」
そう言いながら光は苦笑いしていたが、二人で談笑しているのはすごく楽しかった。
待ち合わせの十五分前頃。
「おーい、ひかりん、唯志―。」
莉緒が現れた。
「あ、莉緒ちゃん。」
「あけおめー!」
「あけましておめでとう、ってこれこの前言ったよ?」
「良いじゃん良いじゃん。減るもんじゃないし。」
三人になり、たわいもない談笑は続いた。
--
そして待ち合わせ時刻頃。
「おー、おったおった。」
そう声を出しながら御子が手を振って近づいて来た。
当然の様に横には拓哉の姿も見えた。
「御子ちー、あけおめー!」
「あけおめー。」
莉緒が元気に、唯志が若干雑に挨拶をした。
「あけおめー。ことよろやでー。」
集合した五人は、それぞれに挨拶だったり世間話を交わしながら、少しの間その場で話し込んだ。
「ほら、吉田。見てみ。」
御子は拓哉に何かを見せてきた。
「・・・。貰ったの?」
御子は『お年玉』と書かれた可愛らしいポチ袋を見せてきた。
「うん、やっぱり唯志は気が利くでー。」
何故か勝ち誇った様な表情をしている御子。
納得のいかない拓哉。
そんなやり取りをする中、一行は神社に向かって歩き出した。
--
「うわー、すごいお店の数!それと人!花火の時より凄いかも!」
光は目を見開いて驚いていた。
「ほんまや。こんなに人来るんやな。」
田舎育ちのお嬢様にも新鮮な光景だったようだ。
「はぐれないようにしろよ。ほら、光は手握って。」
そう言って、唯志は光の右手を握った。
光は照れながらも、嬉しそうにしていた。
「ただしー、あたしはー?」
莉緒は何かニヤニヤしながら言っていた。
恐らく光を困らせたかったんだろう。
「お前は人混み慣れてるだろ。」
唯志に一蹴されたが。
そして、前を手を繋いで歩く二人を見て、拓哉は今頃この二人が付き合っているという事実を実感していた。
ここまでは聞いている話だけだったので、受け入れはしたものの実感はなかった。
だが、この光景を目の当たりにすると・・・。
そして、色々と頑張って調べたが、唯志が来たことで意味がなくなったことに少し寂しさも覚えた。
--
「やった、私大吉だ!」
光は笑顔でみんなにおみくじを見せていた。
「やるねー、ひかりん。私は吉。まぁまぁか。」
「うちは中吉かー。負けたわー。」
何の勝負なんだろうか。
「唯志君は引かないの?」
光はおみくじを引こうとしない唯志を不思議そうに見ていた。
「ああ、俺そう言う運頼りのやつ弱いから。自粛してんの。」
「そうなんだー。」
なんか目を輝かせて唯志を見ている光。
今は唯志の言うこと全てが良い方に見えるんだろう。
「で、吉田はどうだったんだ?」
唯志は拓哉に話を振った。
「なんだろ、これ。見たことないやつでた。大福?」
「お、それって確かこの神社では大吉の上だろ。すげーじゃん。」
「タク君すごーい!」
今一番羨ましいカップルになんか褒められ、なんとなく釈然としない拓哉だった。
おみくじの内容にふと目線を落とした。
(縁談大いによし・・・ね。どうだか。)
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