第160話 ゆく年くる年

十二月三十一日。

俗に言う大晦日。

拓哉や御子は実家に帰っている中、根無し草に近い三人は、仲良く年越しに備えていた。


「えー、良いなぁー東京旅行ー。」

三人でテーブルを囲みすき焼きを食べている中、莉緒がひときわ大きい声で悔しがった。


「えへへ。旅行楽しみ。」

羨ましがる莉緒に対して、光は素直に嬉しそうにしていた。


「うー、私そのあたりの日は忙しいからダメだー。」

莉緒は露骨に悔しがった。

「ていうか、暇だったら来る気だったのかよ。」

「そりゃー、楽しそうだし?」

「ね!楽しそうだよね!」

女性陣二人は旅行という単語に過剰反応気味に食いついていた。


「あのな、本題は光の先祖探しだからな?」

唯志は、あっという間に空になるすき焼き鍋の中に具材を投入しながら、二人をなだめた。


「てかさー、先祖なんて判別できるの?まだバブちゃんでしょ?」

莉緒が疑問を口にした。

過去に佐藤などにも問題点として挙げられていたことだ。

以前の唯志は考えがあると言っていたが・・・。


「あ、そう言えばそうだよね。さすがに私もひいおばあちゃんの赤ちゃんの頃なんて知らないよ?」

光も莉緒同様に、きょとんとした顔で唯志を見つめた。


「ああ、その点なら問題ない。その為に御子に頼んでるんだから。」

「御子ちゃん?」


唯志は自分の考えを二人に説明した。

以前、唯志が御子に確認していた。

御子の色を見る能力はということを。

今回の作戦は御子のその能力を最大限活用し、光と親族かどうか、御子に見てもらうというものだった。


「――ってこと。おーけー?」

唯志が一通りの説明を終えると、女性陣二人から「おおー。」という歓声が上がった。


「なんだー、それで御子ちゃんと計画してたのかー。」

光はホッと胸をなでおろしていた。


「あ、さてはひかりん、少し御子ちーに嫉妬してた?」

「う、だって・・・。なんか二人で計画してるから。」

もじもじと答える光に対して、莉緒は爆笑していた。

「それは悪かったよ。でもこの話し始めたのだいぶ前だったからな。それに御子の協力が必須だったから。」

唯志の説明に光の表情はパッと明るくなった。

本当にわかりやすい。

最近は特に顕著になった。


「えー、タク君も行くのー?余計ズルいー。ぐぬぬ・・・。」

「あはは、まだ本人に了承取ってないんだけどね。御子ちゃんが「強制や!」って言ってた。」

大晦日特有の歌合戦だったり、今年は笑っていいお笑い番組を見ながら、女性陣二人は楽しそうに談笑している。

お酒もそれなりに入り、盛り上がっていた。

唯志はと言うと、もうじき日付が変わると言うこともあり、台所に立っていた。

年越しそばを作る為に。


「初詣、三人で行くの?てっきり唯志と行くと思ってた。」

莉緒にそう言われ、光はハッとした。

その発想は無かった様だ。


「うー、言われてみればそうだー。唯志君とも行きたい―。」

「私は?」

「あ、もちろん莉緒ちゃんとも!」

「私らも行こうか?」

「え!?良いの!?」

「どうせ私は暇だし。唯志は―!?」

莉緒が台所にいる唯志に声をかけた。


「別に良いけど、どこに行くんだ?」

そう言われて光は頭を捻った。

よく考えたらその辺りの担当は拓哉の為、どこに行くのかすらまだ聞かされていない。


「うーん、わかんない。タク君担当だから。」

「ま、どこでも良いよ。折角だしいっしょに行くか。」

そう言いながら唯志は二人の前に年越しそばを配膳した。

「そだ、そだ!私も行くよ!あ、ありがと唯志。」

「うわー、凄いねー。唯志君、ほんとに何でも出来るね!」

「出来ることしか出来ないって。ほら、さっさと食べて。」


テレビでは歌合戦も終わり、除夜の鐘が鳴り響く神社が映っていた。

もうすぐ、年が明ける。

現代人ならもれなくそう言う気分になる状況だった。


「なんか、面白いね。」

光がニコッとしながら言った。


「何が?」

唯志がそばを啜りながら聞き返した。


「私だけかもだけど、なんかこの雰囲気が。年越しなんだって気分になるね。未来ではもっと味気なかったな。」


--

「あけましておめでと―!」

日付が変わると共に莉緒が大声で言った。


「おめでとさん。」

唯志はそれに返事をした。


「あ、あけましておめでとう!私、初めてだ。年越しをこうやって過ごすの。」

光はまだ戸惑いながらも、楽しそうだった。


「そっか。これからはずっとこうだぞ?」

と、唯志が言った。


「え・・・。うん!」

光は顔を赤らめながら笑顔で頷いた。


--

少し時間が経ち、テレビでは今年ブレイクしそうな若手芸人が紹介されていた。

莉緒は飲み疲れたのか、ソファーで爆睡している。

唯志は相変わらず酒を飲みながらのんびりしていた。

光はと言うと、唯志が寝るまで寝ないと宣言し、唯志の隣で眠気と戦っていた。


「光、手紙書いておいて。」

唯志は呟くように言った。

「え、手紙?」

光は閉じそうになる瞼を無理やり広げながら聞き返した。

「そう。未来の家族に向けた。」


「最初からその為に先祖を探してた。先祖の人に手紙を預ければ、未来にメッセージを残せる。」

「あ、そっか!確かに!・・・未来には帰れないけど、それなら無事は伝えられるね。」

光は唯志の話に眠気が吹き飛んだようだ。

キラキラした目で唯志を見つめていた。


「まぁもう一つ方法はあるんだけど・・・、とりあえずやれることはやっておいた方が良い。」

「うん!」


唯志の話を聞いた光は、俄然やる気になった--

と言いたいところだが、実際のところ、更に唯志にときめいただけだったりする。

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