第159話 浮気?

十二月二十九日。

テレビは歌番組やお笑い番組など、年末特番一色となっている。

特に今年の重大ニュースを振り返る番組などでは、先月発表された『とある天才科学者』の発明が取り沙汰されていたりする。

光は仕事が終わり、部屋に帰ってきたところだった。


[お仕事終わったよー。今家に帰ってきたー。]

付き合ってからというもの、部屋に帰ってから唯志に連絡するのが日課になっている。

特に用事はなくとも、とりあえず連絡する。

光は大した意味は無いこの繋がりを、とても大事にしていた。


いつもなら[お疲れ様。]等といった返事があり、当たり障りのない世間話を繰り広げるところだが、今日は珍しく唯志からのリクエストがあった。


[お疲れ。今からそっち遊びに行って良い?あと、御子いる?]


光は唯志から珍しく要望があったことと、今から会えるかもということで大いに喜んだ。

ただ、少し気になる部分もあった。

(あれ?でも、なんで御子ちゃん?)


「御子ちゃん、唯志君今から来ても良い?だって。」

光は一応御子の御都合も伺った。

「ええんちゃう?特にやることも無いし。」

御子は二つ返事だった。


[来ても良いよー。楽しみー。夕飯一緒に食べる?御子ちゃんなら今一緒にいるよ。]


[了解。15分くらいで着くと思う。]


[はーい。待ってるねー。]


約十五分後。

唯志が光の部屋に到着した。


「唯志君―!」

唯志が部屋に来るなり、光がまとわりついた。

まるでご主人様が帰ってきた時の犬のような。

しっぽをぶんぶん振り回しているのが目に見えるような。

そんな喜びようだった。


(えらい変わり様やな・・・。)

その様を少し離れた位置から見ている御子。

光の甘えっぷりに、少し冷ややかな視線を送っていた。


付き合ってまだ一週間未満。

付き合いたてと考えたら、こんなものだと思うが。


「御子もお疲れ。」

「せやねん。うちも疲れてんねん。うちも癒せ。」

「無理言うな。」

ここまでは気の強いもの同士の社交辞令だろう。


「ねーねー、唯志君。今日はどうしたの?もしかして寂しくなったとか?」

満面の笑みを浮かべている光。

唯志の答えにさぞ期待しているんだろう。


「え?あ、うん。そうかも?」

「そうなんだ!えへへ。」

キラキラと目を輝かせている光に、さすがの唯志でも否定が出来なかった。

光はと言うと嬉しそうに唯志の周りをちょろちょろしている。


「ねーねー、唯志君。夕飯は食べたの?私今から作るけど、食べていく?」

「あ、うん。手間じゃないか?無理はしなくて良いけど。」

「大丈夫!」

光は力強く答えると、台所へとパタパタかけて行った。


「えらい見せつけてくれるやん。」

御子が冷ややかな目でニヤニヤしながら見ていた。

「まぁ楽しそうで何よりだ。それより今日は御子に用事があってきたんだけど。」

「そうなん?何の用や?」

「例の件。そろそろ詳細つめようかなって。」


--

唯志と御子がリビングで話をしている間、光は台所で料理をしていた。

どうも機嫌が良いらしく、時折鼻歌が聞こえてくる。

最近は現代の音楽もよく聞く様で、今ハミングしているのは最近流行っているアニメの主題歌だった。


「まぁええんちゃう。その代わりうちの行きたいところも盛り込んでや?」

「行きたいとこってどこだよ?」

「うーん、例えばー。」

そう言って御子は付箋がたくさん貼ってある雑誌をパラパラめくった。


「まぁ一番はここやな!」

「・・・。ここ行くつもりなら、それなりの旅行になるぞ?少なくとも二泊は考えないと。」

「ええやん、ええやん。せっかくやし、パーッと旅行にしようや。旅費なら心配せんでええで。」

唯志は「はぁ」とため息を吐いたが、頼む側の立場ゆえに、しぶしぶ御子の意見を盛り込むこととした。

もとより、ある程度の条件が出てくるのは覚悟の上であった。


「あとは日程だな。いつにするかだけど--」

「何のお話―?」

料理がひと段落したのか、唯志が話している横から光がひょっこりと顔を出した。


「あれ、二人で観光雑誌見て、どうしたの?これ、いつも御子ちゃんが読んでる東京のやつだよね?」

光は首を傾げた。

「せや。今度唯志と行く東京旅行の話をしてたんや。」

と、御子が答えた。

だが、この答え方では当然の様に誤解を招いた。


「え?御子ちゃんと唯志君が・・・旅行?」

光はみるみる顔が青ざめた。


「せや。だから行き先を相談してるところやで。」

「おい、御子--」

唯志が言い終わるより早く、光が唯志の腕にしがみついた。


「ダメ!」

光は唯志の腕にしがみつきながら大き目の声で言った。

「は?」

御子がポカーンと口を開けていた。


「御子ちゃんでもダメ。唯志君私の彼氏だもん。」

光は少し涙目で御子を威嚇していた。

その様は、子犬の様だったが。


「御子、説明不足。光もとりあえず落ち着け。」

唯志が光をなだめる様に言った。

「でも唯志君・・・。二人で旅行はダメだよ、浮気だよ?」

光は唯志に懇願するかのように上目遣いで訴えかけた。


「浮気じゃないって。出来れば光も一緒に来てほしい。」

「私も?」

光は話が見えず、疑問符を浮かべていた。


「そう。光の先祖探しに行くぞ。」

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