第158話 拓哉の帰省~冬~
十二月二十八日。
この日、仕事納めとなる企業も多いだろう。
拓哉や唯志も例にもれず、この日が仕事納めで翌日からは冬休みであった。
拓哉はというと、夏休み同様、仕事上がりにそのまま実家に帰るつもりだった。
ここ数カ月色々あったが、拓哉の地元愛は相変わらずの様子だ。
まして、今回は夏休みの様に光を置いていくという後ろめたさも少ない。
若干悔しくはあるものの、大手を振って地元に凱旋できる。
「じゃあ行くか。」
帰宅し、帰省準備を済ませた拓哉は、一人呟くと誰もいない部屋を後にした。
――
拓哉が部屋を出てほどなくして、光や御子は帰ってきた。
「なんや、あいつもう出て行ったんかい。普段ボケーッとしてるのに、こういう時だけはせわしないな。」
後から帰ってきた御子が、部屋の状態を見てそう言った。
「実家遠いみたいだしね。って、御子ちゃんは知ってるのか。」
「まぁな。あんたも唯志のところ行ってもええんやで?」
「あー、唯志君今日は忘年会なんだって。それに御子ちゃんひとりじゃ寂しいでしょ?」
「うちは子供か!」
それを聞いた光は、くすくすと笑っている。
「まぁうちらは明日も仕事やしな。普段通り過ごすか。」
「そうだねー。たまにはゆっくりしないとね。」
御子の意見に光も同意し、二人はいつも通りのゆったりとした時間を過ごした。
「ああ、せや。後で吉田のやつyarnでいじったろ。」
御子はそう言ってイジワルな笑みを浮かべていたが、特に何もない、ありきたりな平日を二人で過ごした。
強いて言えば、拓哉がいないことによる女子トークが多めだったくらいで。
――
一方の拓哉。
実家についた頃には二十二時を回っていた。
例によって地元に帰ったら行動力が上がる拓哉。
まるで地元じゃ負け知らずと言わんばかりに、精力的に活動していた。
遅い時間とはいえ、友人たちと連絡を取り合っていた。
一方で、御子からの宿題、新年会と初詣の調べも始めていた。
とはいえ、おせちなど作れるわけもない。
今からでも予約可能で、且つ宅配できる店を探している程度だ。
初詣については家から近く、それでいてそこそこ有名なところを探していた。
拓哉は初詣の経験もあまりなかった。
理由は花火大会の時と同じような理由だ。
それ故に、探すのも苦労した。
どんな選考基準で選べばいいのか、皆目見当がつかなかった。
悩みに悩んで、結局西宮にある福男で有名なあの神社に行くことにした。
「ふぅ。今日やるべきことはこんなもんかな。」
拓哉はやり切った感で満足のうちに眠りについた。
――
翌日。
拓哉は朝から友人宅に出かけていた。
目的はもちろん――
「ツモ。四千オール。」
「うわっ。またタクだよ。」
「お前、今日強気じゃん。」
「このところフラストレーション溜まってたからね。ここで発散させてもらうよ。」
そう言って拓哉はニヤッと笑った。
地元じゃ負け知らずなのはあながち間違っていないのかもしれない。
(麻雀時のみは。)
現在時刻は夕方十七時頃。
昼前頃から続いているこの麻雀大会は、現在のところ拓哉の一人勝ちだった。
まるで大阪での負け続けを清算するかのように、恐ろしい勢いで勝ちを重ねていった。
――
二十二時。
夏と違って何かと多忙な年末年始は、この時間頃には終了するのが通例だった。
最後の半荘も終わり、結果拓哉の圧勝で幕が閉じられた。
そして今は酒を飲みながらグダグダとだべっていた。
「タクさー、そろそろ結婚とかしないの?」
そういう友人Aは、既婚子持ちだ。
「相手がいないよ、相手が。」
拓哉は気だるそうに答えた。
「良い感じの子とかもいないの?」
そういう友人Bも先日子供が生まれたばかりだった。
「まず出会いが無いって。てかお前ら親戚のおっさんかよ。」
拓哉はそう答えて強引に話題を終わらせた。
友人面々は苦笑いしながら、この話を切り上げた。
――
ほどなく、誰からともなく「もういい時間だから」と言い出し、会はお開きとなった。
帰路につく拓哉は、ひとり物思いにふけっていた。
「出会いが無いか。」
自分で答えておいて、自分で気になっていた。
ここ半年くらいを思い出す。
(バタバタしてはいたものの・・・、出会いが無いってことは無かったな。)
ずっと光が好きだったものの、莉緒や恵、御子など、女性との出会いは多かった気がする。
(出会いが無いってのは言い訳だよな。)
拓哉は自問自答していた。
そして、これまでの自分に嫌気がさして「はぁ」とため息をついた。
(出会いなんて、求めないとあるわけない。)
拓哉は光との出会いを思い出していた。
(運命の出会いなんて、
光と出会ってからの色んな出来事が頭をよぎる。
(結局、それを運命にするかどうかは自分次第だよな。)
そして、光にフラれた時のことを思い出す。
「とりあえず婚活でもしてみようかな。いや、自分磨きが先かな?」
拓哉はどっちが先か、どっちから手を付けるべきか悩んだ。
頭がねじ切れるほど頭を捻らせて考えた。
そして「ふぅ」と一息ついた。
(悪い癖だなぁ。グダグダ理由考えてないで――)
「どっちも・・・。いや、なんでもやってみたら良いんじゃん。」
拓哉はずいぶんとすっきりした顔で、前を向いて歩き出した。
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