第157話 年末年始の予定

十二月二十六日。

クリスマスが終わったと思ったら、もう年末年始が目の前まで迫っていた。

拓哉たちは数日ぶりに三人そろっての夕食となった。


「そういやあんたら、年末年始は休めるんか?」

御子が食べながら二人に質問した。

「えっと、私は三十日から三日までが休みだよ。」

と光が言えば、

「俺は二十九日から四日までが休み。」

と拓哉も続いた。


「うちは光と一緒やな。」

御子も光同様の休み期間のようだ。

やはり普通のサラリーマンの拓哉に対して、接客業の二人は休みが短くなってしまうようだ。


「で、あんたら予定はあるんか?うちは三十一から二日までは本家に帰るで。」

どうやら御子は里帰りの予定らしい。

お嬢様なだけあって、年末年始は何かと忙しそうだ。

それとも家業の方だろうか。


「私は特に帰る実家も無いし。暇なときは唯志君のところ行こうかな。あ、年越しは唯志君の部屋で過ごすんだー。」

と光が嬉しそうに、というよりはにやけながら言っていた。

付き合いたてなだけあって、幸せの絶頂なんだろう。

拓哉は内心悔しがった。


「俺は二十八日の夜には実家に帰るよ。戻ってくるのは二日の予定。」

拓哉は拓哉で、今回も地元に帰るつもりだった。

ここ最近のバタバタで指定席の予約はしていないものの、大混雑する自由席でも帰る覚悟だ。


「そうなると三日間くらいは光ひとりか。って言ってもあんたは唯志がおるし、ええよな?」

「うん、大丈夫だよ。」

光は少しはにかみながらも、嬉しそうに返事をした。


「それで、三日は全員揃うな?初詣行くで!ついでに新年会もやろや!」

全員の予定を確認した御子が、今度は予定を提案してきた。


「新年会って、具体的に何をするの?」

光は首を傾げた。


「そりゃあ、おせち食べたり、酒飲んだりやろ!」

御子は「ふん!」と鼻を鳴らしながら答えた。


「誰が準備を?」

このところ何かと使いっぱしりにされている拓哉は、その点が気になった。


「吉田。」

御子はあっさりと答えた。

「・・・。」

拓哉は無言だった。

本心では休み期間中ほぼ不在の拓哉は全力で拒否したかった。

だが、拒否したところで結果が変わらないことは見えていたからだ。

半ば諦めの境地に至っていた。


「まぁまぁ。私も手伝うから、ね?」

そう言って光は微笑みかけた。


(こんな良い子が、もう他の人の彼女か・・・。辛い。)

光に微笑まれた拓哉は、嬉しい反面、余計悔しさが募った。

今更すぎるが。


「それより初詣ってどこに行くの?」

光は話を初詣の方に切り替えた。

「考えてへんで。それも当然・・・。」

御子はそう言って拓哉の方を見つめた。

「え?それも俺!?」

「当たり前やろ。頼むで!」

御子は当然の様に言い放った。


「ちょ、御子ちゃん。さすがにかわいそうじゃないかな?」

光は拓哉を気遣っていた。

が、その気遣いは、それはそれで辛くもあった。

主に今更な理由で。


「いいよ光ちゃん。それも俺がやっとくよ。」

拓哉はため息をつきながら答えた。

「お?素直やん。てっきりまた、しょーもないツッコミが来るかと思ってたわ。」

御子は珍しく感心したように言った。


「まぁめんどくさくはあるけど・・・。俺は色々やってみた方が良いって思うしね。」

前の拓哉ならグダグダ文句を言って、なんだかんだで何もしない。

それが当たり前だったし、染みついていた。

拓哉は拓哉なりに、自分を変えてみようと思っている。

そんなところだろうか。


「じゃー、それも任せるでー。」

御子は自分の思惑通り、スムーズに事が運んで上機嫌だった。


――

唯志宅。


「うし、こんなもんか!」

莉緒が荷物をまとめ終わってひと息ついたところだった。


「一気に物が減ったな。」

莉緒のものが無くなって、ガランとしたスペースを眺めながら唯志が言った。

「どうせすぐ増えるんじゃん?。」

そういう莉緒はジト目でニヤッとしていた。

若干嫌味の意味もあるのかもしれない。


莉緒は二人が付き合い始めたことを光から報告されていた。

それで慌てて私物を取りに来たところだった。


唯志はいつでも良いと言っていたが、

「元カノの下着とかあったら嫌でしょ。」

とのことだった。


「そういや唯志は年末年始どうすんの?」

「いつも通りだよ。光が泊まりに来るってくらい。」

「えー、良いなぁ。私はひとり寂しく年越しになりそうだし、遊びに来ても良いかなー?」

「光が良いなら、俺は良いけどな。聞いてみようか?」

「んー、私から聞いてみる。でも、付き合いたてカップルには邪魔じゃない?。」

莉緒はいたずらっぽく笑っている。


――

「んじゃ、そろそろ帰るねー。」

荷物をまとめ終わり、ちゃっかり夕食も食べてゆっくりしていた莉緒だったが、いい加減重い腰を上げたようだ。

「荷物多いだろ。手伝わなくて良いのか?」

「んー、大丈夫ー。頑張って持って帰るよー。」

「無理すんなよ?」

「あいあい。まぁあんまり唯志を独占しちゃうと、ひかりんに悪いからね。」

莉緒もなんだかんだ、に気を遣っているらしい。


大荷物を持った莉緒を見送り部屋に戻ると、先日発表された偉大な研究成果についての特集番組が流れていた。

「あいつ、テレビくらい消して帰れよな。」

唯志はテレビの画面に映っている、不愛想な須々木久寿雄を眺めていた。


「こっちもそろそろを出さなきゃな。」

唯志はそう呟くと、テレビの電源を切った。

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