第152話 クリスマスの予定

翌日、日曜日。


「おはよう。」

リビングに行くと、御子がいたので挨拶をした。

「おはよーさん。」

以前にどこかで見たようなやり取り。

いつも通りの休日の風景。

拓哉が起きたら御子がゴロゴロしていて、光はすでに仕事に出かけている。

そんな生活が馴染んできていた。


「昨日はすまんかったわ。」

拓哉がテーブルにつくと、御子が謝ってきた。

「何の件だっけ?」

拓哉はとぼけているわけではなく、本当に心当たりが無かった。


「あんたを差し置いて、光に唯志誘うようにけしかけたから。」

「ああ。確かにちょっとムッとしたかも。」

と言いながらも拓哉は「ふふ」と笑っていた。

特に気にしていない様に見える。


「なんや、意外とあっさりしとるな。」

御子には意外な反応だったようだ。

「身の程は弁えてるからね。じたばたしないよ。」

「ふーん。」

御子はニヤニヤしながら拓哉を見つめた。


「光ちゃん、うまく誘えるかな?」

「どやろ。てか、うまくいってええんか?」

御子はイジワルな顔をしている。


「正直なところ複雑かな。光ちゃんに悲しんでほしくないと思うのも本心だし。」

「ふーん。」


(別に嘘言ってるわけでもないなぁ。)

御子がチラッと一瞥し、拓哉は本心から言っているのが窺えた。


「まぁあんたの場合は人の心配より自分の心配せなあかんか。」

「うるさいなぁ。自分だって大差ない癖に。」

「うちは若くて可愛いから、まだ希望があるしー。」


――

一方光は今日も喫茶店で働いていた。


「光ちゃーん、コーヒーお替り―。」

「はーい。」

「光ちゃーん、注文いい―?」

「ちょっとお待ちくださいねー。」


光があっちこっちから呼ばれ、慌ただしく走り回っていた。

光が働き始めてからしばらく経つが、常連さんたちの間で大人気だった。


――

少し落ち着いたころ。

常連の若い二人組が光に話しかけた。


「ねぇねぇ光ちゃん、クリスマスイヴは予定あるの?」

「え、えっと・・・、その・・・。」

光は昨日のことを思い出して、赤面した。

「予定無いなら俺らと遊ばない?」

「あ、それはその、ごめんなさい。」

光は笑顔で即答した。


光が去った後、二人組の話し声が聞こえてきた。

「ほらー、光ちゃんほど可愛かったら彼氏くらいいるって言っただろー。」

「くそー、羨ましい。」

「お前とじゃ釣り合わないって。諦めろ。」


その声が聞こえて、光は恥ずかしくなった。

先日までも何度か似たようなお誘いがあった。

(全部断っているが。)

あったにはあったが、ただの遊びの誘いかと思っていた。


だが、昨晩二人に ( 主に御子に ) レクチャーされたせいで、意味が分かってしまった。

クリスマスイヴに誘うってことは、なんだってことが。


(うー、意味が分かったら恥ずかしくなってきたー。)


――

お昼時を回り、客足も少し落ち着いた。

いつも通りなら、もうしばらくしたら拓哉が来る頃だ。


「相変わらず光ちゃんはモテるねー。」

店の奥さんの方が光にこそっと耳打ちしてきた。

「そ、そんなことないですよ?」

光は慌てて否定した。

「いやいや、毎日のようにお誘い貰ってるし、モテモテだよ。」

奥さんは白い歯を見せながら笑った。


「でも全部断ってるし、やっぱりと過ごすの?」

「え!?あの・・・、その。」

光はまたも恥ずかしそうに俯いた。

「あら?当たりだった?」

「いえ、その、彼氏じゃないです!あ、それ以前にまだ誘っても無いです。」


昨日御子にさんざん煽られ、唯志を誘ってみることを半ば強引に決断させられた。

決断はしたものの、その場ですぐに誘うのは心の準備が出来ていなかった。

なので、今日の仕事終わりに遊びに行くとだけ伝えてあった。


(今頃恥ずかしくなってきたぁ。)


そして今、そのことで頭がいっぱいになっていた。


「で、そのは、いつも来てくれるあの子じゃないの?」

奥さんは何やらニヤニヤしながら根掘り葉掘り聞きだそうとしている。

「いつもってタク君の事かな?違いますよ。」

即答だった。

悩む余地すらないらしい。


「あらら。あ、そんなことを言ってると、本人が来たよ。」

光にそう告げると、奥さんは後ろに引っ込んでいき、光は拓哉の相手をするために仕事に戻った。


――

夕刻、光の仕事終わり。

唯志には何時に来ても良いと言われていたので、そのまま唯志宅に向かった。


「おじゃましまーす・・・。」

唯志の部屋に招き入れられると、心なしか少し弱気に挨拶をした。

「お疲れさん。今日はどうした?」

唯志は早速とばかりに光に要件を聞いた。


「えーっと、遊びに来ただけだよ。」

本当は違ったが、恥ずかしいのでとりあえずそう答えた光だった。

「ふーん。」

唯志は訝しげな目で光を見ていた。

「う・・・。」

唯志の視線に、光はたじろいだ。


「まぁ良いか。夕飯は食べた?」

「あ、実はまだなの。」

「ならなにか作るよ。鍋とかどう?」

「お鍋!食べたい!」

「おっけー。適当に寛いで待ってて。」

そう言うと唯志はキッチンへと向かった。

「あ、私も手伝うー。」

そう言って光もあとを追いかけた。


――

「あー、美味しかったー。」

光は満足したのかニコニコしていた。


「時間なかったから簡単なやつだったけどな。」

「あんなに簡単に出来るんだね。今度うちでも作ろーっと。」

二人で後片付けをしながら、光は楽しそうにしている。


片付けが終わり、二人共リビングでゆっくりしていた。


「ひかりん本題は?」

唯志がおもむろに切り出した。


「え?えっと、本題?」

光はとぼけているつもりのようだが、明らかに目が泳いでいた。


「なんか話でもあったんじゃないの?ないなら良いけど。」

「う、そのー、なくはない、かな?」

思いっきり挙動不審だ。


「うん。で、どうしたんだ?」

「あの、今度の十二月二十四日なんだけど・・・。」

「うん。」

「た、唯志くん予定あるかなーって・・・。」

光は唯志の機嫌を伺うように、上目遣いで恐る恐る聞いた。


「二十四日って、クリスマスイヴか。」

唯志は顎に手を当てて首を傾げた。

「あ、その、はい。」

唯志に一瞬でクリスマスイヴだとバレて、光は焦った。

(誰でもすぐわかると思うが。)


「今年はボッチだから予定は無いよ。・・・デートでもする?」

「え!?」

光は、誘うつもりが逆に誘われてびっくりした。


「え?そういう話じゃなかった?」

「ううん!」

光はブンブン首を振って否定した。


「あの、私で良かったら、お願いします。」

光は無事に唯志とのクリスマスデートの予定をこぎつけた。

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