第151話 今年もやってくる

十二月に入り、気温が急激に下がった。

今年は最強の寒波とやらが来ているらしく、久しぶりにすごく冷え込む十二月となった。

そんなとある休日の夕刻。


「もうすぐクリスマスやなー。」

ソファーでゴロゴロと雑誌を読んでいる御子が、おもむろに口に出した。


「そういえばそうだね。」

拓哉は何とも興味なさそうに返事をした。


「なんや、彼女いたことないは、興味ありませんよってか?」

御子がここぞとばかりに煽ってきた。

「そういう西条さんこそ、彼氏いたことないでしょ?」

拓哉は気にしてない雰囲気で、すました顔で応戦した。


「うっさいわ!そもそもうちの場合、クリスマス自体無縁やったしな。家柄的に。」

御子は少し拗ねたように言った。


(ああ、確かに。)

と、拓哉は妙に納得した。

考えてみれば旧家のお嬢様なわけだし、家柄的にもキリストを敬う理由がなさそうだ。

それでなくても、あの田舎っぷり。

クリスマスの概念自体がなさそうだ。


「とりあえず、俺は今年も無縁ですよ。」

「うちもそうなりそうやなー。いや、今からでもワンチャン・・・、無いか。」

二人ともがっくりと肩を落とした。


その光景を見ていた光がくすくすと笑っていた。

「二人とも、もしかしてサンタさん期待してたの?」

光はニコニコ笑いながら言った。


「え?」

「は?」

拓哉と御子が同時に、口を開いて驚いた。


「え?え?」

光は二人の予想外の反応におろおろしている。


「もしかしてだけど、未来ってクリスマスの概念が違う?」

拓哉は苦笑いしながら御子に尋ねた。

「うちが知るか!」

御尤もだ。


「えっと・・・。」

光は冷汗をかきながら苦笑いしている。


「光、クリスマスってどんなもんやった?」

御子が光に質問した。


「えっと、家族でケーキとかチキン食べる日。後、子供の頃はサンタさんがプレゼントくれる日。違った?」

おおよそその通り、現代とは大差なかった。


「うん、あってはいるね。」

拓哉がそう言うと、光はホッと胸をなでおろそうとしたが、

「なんでや!全然ちゃうで!」

と、御子が大声で否定するので、光がビクッとしていた。


「えっと、どう違うの?」

光は恐る恐る聞き返した。


「クリスマス言うたら、恋人たちが愛し合う聖夜やないか!」

御子はドヤ顔で答えた。

「そ、そうなの?タク君。」

光は拓哉にも意見を求めた。


「まぁあながち間違ってない。と言うか、そっちの意味合いの方が強いかな、現代では。」

拓哉も否定はしなかった。

実際、現代ではそちらの意味合いでとらえる人の方が多いだろう。


「というわけや。光には色々教えんとあかんな。」

御子は手に持っていた雑誌をテーブルに放ると、部屋に戻っていった。


(観光雑誌?それも東京の?なんでこんなの読んでたんだ?)

拓哉は御子が放っていった雑誌に目がいった。

だが、考えたところで無駄なので、考えるのを止めた。


その間に御子が部屋から戻ってきた。


「ほれ、光!」

御子が様々な雑誌を持ってきた。

どうやらクリスマス関連の情報誌の様だ。


「え、何でこんなの持ってるの?」

拓哉が素っ頓狂に質問した。

考えたらわかりそうなものだが。


「うっさいわ、吉田!光、これらを読んで、一緒に勉強するで!」

御子はぐっと力を込めた。

光は「あはは」と苦笑いしている。


ということは、御子も勉強中ということだろう。

現代人でありながら、隔絶された田舎にいたのだ。

クリスマスなどのイベントには人一倍興味があったのかもしれない。

それでなくても若い女子だ。

憧れるのもしょうがないか。


拓哉は何か達観した様な立場で、そんなことを偉そうに考えていた。


「吉田、あんたもやで?」

拓哉が悟りを開いていたら、横から口を出された。

「なんで俺も!?」

拓哉は思わずツッコんだ。

「あんたもどうせ経験ないやろ?本音では興味津々なくせに、見栄張るなや。」

ぐうの音も出なかった。


こうして急遽、御子主催のクリスマス勉強会が開かれることとなった。


――

「そういえば、光。あんたはどうするんや?唯志誘わへんのか?」

御子が雑誌をパラパラめくりながら尋ねた。

「え、えっと・・・。」

光はみるみる顔が赤くなった。


(わかりやすいな、ほんま。)

御子は光を見ながら思った。


「でもこの雑誌だと、友達同士でクリスマスパーティーってのもあるって!」

光は誤魔化すように雑誌のページを見せてきた。


「まぁ確かにそういうのもあるな。」

そういう御子の横で、拓哉はこくこくと頷いている。

せめてもの抵抗で、クリパの方向に持っていきたいんだろうか。


「だよね!なら、みんなを呼んでパーティーとかさ!」

肯定的な意見と態度を貰えた光は、嬉々としてパーティーを推した。


「あかん!」

御子が仁王立ちしながら答えた。


「なんで?」

御子の勢いにビクッとした光に変わって、拓哉が返事をした。

若干不服そうな面持ちだ。


「そんなもん決まっとるやろ。クリスマスは恋人と二人で過ごした方が幸せやからや!」

(経験ないくせに何言ってんだ?)

等と考えていたら、めっちゃ睨まれた。


「とにかく、そう言うわけや。光はチャンスがあるんやから唯志を誘ってみ。」

「で、でも断られるかもしれないし・・・。」

(断られて欲しい。)

拓哉は心の中で祈った。


「じゃあ、他の女に唯志誘われてもええんか?」

御子は光をビシッと指さして言った。


「ううー。」

御子の指摘に、光は頭を抱えて悩んでいた。

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