第150話 新しい動き
十一月も後半に入った。
今年は暖かい日が続くと思ったら、急に寒くなったり。
かと思ったらまた暖かくなったり。
不思議な気候が続いている。
そんな中の土曜日。
拓也たちの部屋では、ちょうど拓哉が起きてきたところだった。
「おはよう。」
リビングに行くと、御子がいたので挨拶をした。
「おはよーさん。」
起床の遅い拓哉に対して、御子はもうバッチリ化粧も済んでいた。
多分御子も今日は仕事なのだろうと言うことが見て取れた。
「光ちゃんはもう行ったの?」
「せやな。夜はそのまま通い妻やって。」
「ふーん。」
あれから光は、唯志の部屋に毎日通っていた。
最初は少し嫌な気分だったものの、慣れとは恐ろしい。
今では特になんの感情もなくなった。
それに楽しそうな光を見ていると、何も言えなかった。
「西条さんは今日も遅いの?最近休日はいつも遅いよね。」
御子の占いは大好評らしく、休日は客が殺到していた。
一応営業時間というものがあるものの、客が多いとそれなりに遅くまでかかってしまうらしい。
「まぁそこまで遅くならんようにしたるよ。吉田が寂しいやろから。」
御子は「にしし」と笑いながら言った。
「あ、別に結構ですよ、西条さん。」
拓哉は恐ろしく他人行儀に返事をした。
「照れるなや。嬉しいくせに。」
御子は拓哉の方を見ずに言っているので、色を見たわけではなさそうだ。
だが、たしかに御子の言った通り、それはそれで少し嬉しくもある拓哉だった。
それを隠すために、感情を殺した返事をしているのだろう。
光の用意してくれた朝食を食べ終え、拓哉も寛ぎ始めた頃。
二人は特に何もすることがなく、のんびりとした時間が過ぎようとしていた。
そんな時、インターホンが鳴った。
「ん?吉田、頼むわー。」
「はいはい、いま出ますよー。」
御子が指示し、拓哉が動いた。
こういうやり取りも随分と馴染んできて、拓哉は言われる前に動くようにもなっていた。
「あれ?岡村くん?」
拓哉は予想外の人物が画面に映っていて驚いた。
「なんや?唯志が来たんか?」
その声を聞いて、御子もインターホン側に顔を出した。
「よー、お疲れー。」
画面の先で、唯志が軽い調子で挨拶をしている。
「光ならおらんで?」
御子が横から口を出した。
「知ってるよ。御子に用事があってきた。時間あるか?」
――
拓也たちの部屋の中。
御子が仕事に出るまでの小一時間程度なら、という条件で唯志は招き入れられた。
「あんた、怪我は大丈夫なんか?」
唯志が部屋にあがるや否や、御子は唯志に尋ねた。
「本調子ではないけど、もう大丈夫。」
実際のところ、もうコルセットもしていないし、痛み止めも不要になった。
万全ではないものの、日常生活に支障はない。
「そっか。そりゃ良かった。」
御子は心からホッとしたような様子だった。
内心では心配していたのだろう。
「光とはどうなんや?毎日幸せそうにしとるけど。」
「どうもこうもないよ。断っても無理やり来るし。」
唯志はやれやれと言ったジェスチャーをした。
「まぁ好きにさせたりーよ。あんたも別に困らんやろ?」
「せやかて、工藤。」
唯志は「はぁ」とため息を吐いた。
「誰やねん。」
「で、なんや用事って。
「まぁね。」
ひょうひょうと答える唯志に対して、御子は怪訝そうな顔で唯志を見ていた。
「なら俺は部屋にでも戻ってるよ。」
拓哉は気を使ったのか、部屋に戻ることにした。
「悪いな。」
ちっとも悪いと思ってなさそうだった。
「わざわざ光がおらん時に来たんや。光関連やろ?」
「察しが良くて助かるよ。」
「本人にも聞かせてやった方が喜ぶで?」
「期待だけさせちゃ悪いから。」
「まぁええわ。話してみ。」
「実はな――」
――
唯志は自分の考え、と言うより今後の計画を御子に話した。
「うーん、上手くいくか?」
唯志の計画を聞いた御子は、半信半疑といった感じだった。
「五分五分、いやそれ以下かもね。」
「せやなぁ。運が良ければってとこやろ。」
「何もしないよりは良いだろ。」
「そやけど。」
それでも御子はまだ悩んでいた。
「いつ頃やるつもりなんや?」
「すぐには無理だと思ってるよ。とりあえず引き受けてくれるかどうか、その確認。」
「なるほどなぁ。まぁ光の為やし、引き受けたるわ。」
御子は渋々だったが、なんとか首を縦に振った。
「サンキュー。じゃあ具体的な計画はこれから立てるから、またそのうち。」
「言うて、年明け後とかがええとこやろ?」
「だろうね。」
話が終わると、唯志はそそくさと帰り支度を始めた。
「もっとゆっくりしてってもええんやで?」
「用事も済んだし、お前らの邪魔しちゃ悪いだろ?」
唯志はニヤッと笑い、それだけ言い残して帰って行った。
「邪魔ってなんやねん。」
唯志のいなくなった部屋で、御子はボソッと呟いた。
「それにしても、色々考える奴やな。」
先程の唯志の話。
確かに、成功すれば光にとって間違いなく良いことだろう。
やってみる価値は大いにあった。
「しゃーない。付きおうたるか。そうと決まれば――」
御子は何やら楽しそうに、鼻歌を歌いながら仕事の準備を始めた。
その様子を、ひょっこりと顔を出した拓哉が見ていた。
(え、何?なんでご機嫌なの?怖い。)
この後、御子にめっちゃ睨まれた。
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