第149話 光のこれから②

「ひかりん。」

「どうしたの、唯志君。」

光はケーキを幸せそうに食べながら答えた。


「これからどうすんの?」

「え、あの、泊まっていけってこと?」

光は顔を真っ赤にして照れていた。


「いやそうじゃなくて、今後の話。また未来に帰る方法探すの?」

照れて浮ついていた光に対して、唯志はいたって真面目なトーンだった。


「あ、そっちか。」

光は少ししょんぼりして見せたが、気を取り直して返事をした。

「うーん。唯志君、正直に答えて欲しいんだけど、未来に帰れると思う?」

「わかんね。少なくとも俺らには無理じゃねーかな。」

「だよねー。」

そう言うと光はうんうん唸りながら頭を悩ませていた。


光は「ふぅ」と息を漏らし、少しきりっとすると改めて口を開いた。


「あのね、唯志君。私も帰るのは無理だと思うの。だからこの時代で生きて行こうって思ってる。」

光はそう言うと、少し寂しそうに笑った。


「良いのか?」

「うん。それにこの時代には唯志君とか莉緒ちゃん、他のみんなもいるからね。寂しくないよ。」

「そっか。納得してるなら、いい。」

「うん!ただね、未来の家族とかも心配してると思うんだよね。それだけが気がかりかな。」

光は「あはは」と困ったように笑って見せた。

多分本当は気が気じゃないほど気がかりなんだろう。

ただ、諦めるしかないと自分に言い聞かせている。

そんなところだろうと唯志は思った。


――

ケーキを食べ終わって、光が後片付けをした。

唯志は自分でやろうとしたが、光が自分がやると譲らなかった。

そして今は部屋の片付けもしていた。

同じく唯志は断ったのだが、簡単なところだけと言ってきかない光に押し切られた。

なお、唯志は座って休んでるように言われ、ソファーに腰かけていた。


「吉田とか御子は元気か?」

「うん、いつも通りだよ。あの二人仲良いよね。」

光はくすくすと笑った。

「性格真逆だけどな。」

唯志もニヤニヤ笑っている。

笑顔で掃除を続けていると、PCデスクの上のに目がいった。


「あ!これ!」

光がじっと睨みつけていたのは、光が作戦前に唯志に送った手紙だった。

光はそれを見ながら、みるみる顔が真っ赤になり、ぷるぷる震えていた。


「ああ、それな。ひかりんからのラブレター。」

平然と言ってのける唯志に、光は余計に恥ずかしくなり、顔を覆った。

「わーわー!言わないで!」

慌てふためく光に対して、唯志はその様子をニヤニヤしながら見ていた。


――

光が落ち着くまで少しの時間がかかった。

まだ恥ずかしいようだが、とりあえず落ち着きはしたようだ。


「ううー。それ、読んだんだよね?」

光は上目遣いで唯志の様子を窺った。

「うん。」

「うー。違うの。それ、言うつもりは無くて。昨日が最後だと思ってたから、その・・・。」

「へぇ。」

唯志は手紙を手に取って、手元で遊ばせていた。


「うー。だから、あの、忘れて欲しいなぁ。」

光は弱弱しく言った。

「わかった。忘れる。」

光の申し出に対して、唯志はあっさりと即答した。


「え?」

光は自分で言っておいて、口を開けてポカーンとした。

「ん?どした?」

「え、いやその・・・。忘れられるのも悲しいって言うか。」

今度は目を潤ませている。


「まぁとりあえず落ち着きなって。落ち着いてからまた考えたらいい。」

唯志は光に手紙を手渡した。

「えっと・・・。」

光は意味がよくわからなった。


「ひかりんはさ、急に過去にきて、頼れる人がいなくて、色んなことがあって。」

「うん。」

「最後には自分が死ぬかもって状況だったわけで。」

「うん、そうだよ。」

「一種の吊り橋効果状態だったんだよ。そんな中、一番頼れたのが俺だった。そんなのフェアじゃないだろ。」

「そうなの・・・かな?」

「弱みに付け込んだようなもんだよ。これからは普通の生活に戻るんだ。そんな中でもう一度じっくり考えた方が良い。」

「うーん。」

光は半信半疑といった表情だった。


「今後さ、普通の生活していく中で、俺なんて必要ない。そう思うかもよ。」

「そんなことない!・・・ないもん。」

光は俯いてしまった。


「別にそれは悪いことじゃない。たいていの人はそうだから。」

唯志も複雑な表情をしていた。

唯志の過去の経験から言っているのだろうか。

光は黙って聞いていたが、今にも泣きだしそうだ。


「ひかりん。今後さ、普通に生活して、それでも同じ気持ちでいてくれたら。その時はまたその手紙を受け取らせてくれないかな。」

唯志は光の頭をぽんぽんと撫でながら言った。


「私は変わらないよ。」

光は唯志をじっと見つめてはっきりとそう言った。

「だと嬉しいけどな。あ、このストラップは貰っておくけどね。」

唯志は手紙と一緒に貰ったストラップを、自分の机に置きながら言った。


「それなら、これからは普通に遊びに来たりしても良いってことだよね?」

光は急に表情が明るくなった。

「え、まぁ、うん。」

光の急な変化に、またも唯志はたじろいだ。


「えへへ、じゃあ明日から毎日ご飯作りに来よーっと。」

光は嬉しそうにしていた。

「いや、待て。それは断った――」

「唯志君が良いって言ったもん。遊びに来たりして良いって。」

「言ったけども・・・。」

「じゃあ良いよね。」

満面の笑みで見つめる光に、唯志は言い返せなかった。


「えへへー。明日は何作ってあげようかな~。」

無邪気に喜んでいる光を見て、唯志はそれ以上口を出すことが出来なかった。


光が過去にきて五か月ほど。

光は初めて唯志から主導権を奪い、御満悦だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る