第148話 光のこれから①

「ただいまー。」

同じ日の十九時の前ごろ。

こちらは拓哉のマンション。

ちょうど御子が帰宅したところだった。

御子に対して拓哉が「おかえり」と返事を返した。


「今日めっちゃ客来たわ。つかれたー。」

そう言っておもむろに荷物をソファーに放り投げた。


「ご飯なら昨日光ちゃんが作ってくれたカレーがあるから。」

後は自分で用意しろと言う意味だろう。

「えー、めんどいー。吉田用意してやー。あとビールも―。」

御子はソファーに寝ころびながら駄々をこねた。

拓哉はため息をつきながら渋々用意をしに台所へ向かった。

御子と言い合ってもどの道用意する羽目になるだろうと諦めていた。


「そういえば光は?」

「なんか岡村君のお見舞い行くって。」

「そうなんや。あんたは行かへんの?」

「俺が行っても邪魔だろうしね。」

そう言いながら、拓哉は淡々とカレーを用意していた。


「なんや、拗ねとんの?しゃーないからうちが構ったろか。」

「いえ、結構です。」

「なんでや!」


そんなことを言っている間に、カレーとビールが用意されたので御子は食事を始めた。


「光って今後、どうするんやろな。」

御子が食べながら拓哉に話しかけた。

「どういう意味?」

「そのままや。また未来に帰る方法探すんかな?それともそれは諦めたんかな?」

「ああ、確かに。」

光の当初の目的は未来に帰ることだった。

しかし、未来を変える為にそれは諦めた。

それもダメだった現在はどう考えているのか。


「うちとしては、残ってほしいけどな。」

御子は素直な意見を述べた。

「俺は別にどっちでも・・・。」

拓哉は何か投げやりなことを言っている。

御子はそう感じた。

「なんや、てきとーやな。フラれた腹いせか?」

御子はジト目で拓哉を見つめた。

「そうじゃなくて。光ちゃんが何を選んでも、俺は精一杯手助けする。それだけだよ。」


――

その頃の唯志宅。


「――ひかりん、今日はどうした?」


「え、お見舞いだよ?言ったよね?」

光はそう言いながら見舞いの品のケーキを唯志に渡し、唯志はそれを受け取ってテーブルに置いていた。


「それだけ?」

唯志は気が抜けたように聞き返した。


きょとんとしていた光だったが、すぐに意味が分かって言い返した。

「あ、また私が面倒なこと言いだすとか思ってる!」

光は拗ねて、頬を膨らませて見せた。

「唯志君、私の事めんどくさい女とか思ってるんだー。」

光がぶーぶー言っている。


「なんだ、てっきりまた相談でもあるのかと思った。」

唯志は「ふふ」と微かに笑いながら言った。


「むー。それでね、唯志君怪我は大丈夫?」

光はパッと表情が変わり、本来の目的を聞いた。

「まぁ薬飲んでるから今は何とも。安静にしてれば三週間ほどで治るってさ。」

唯志は内側につけてるコルセットをチラッと見せながら言った。

「そっか、良かった。何か困ってることとかないかな?」

「うーん、特には。多少動きづらい程度だし。」

唯志がそう答えている中、光はキョロキョロと唯志の部屋を見渡していた。


「ん?あれ、唯志君今日コンビニのお弁当なの?」

光はテーブルの上にあったコンビニ弁当の残骸が気になったようだ。


「ああ、流石に料理きつくてね。」

唯志はゴミを片付けながら答えた。


「ダメだよ!」

光が急に大きな声を出したので唯志は驚いた。

「え?どした?」

唯志は何が何だかよくわかっていない。


「怪我してるんだから、ちゃんとしたもの食べなきゃ!」

「そう言われてもなぁ。」

唯志は頭を掻いて困った。

薬のおかげで痛みは和らいでおり、日常生活には支障ない。

とはいえ、料理が出来るかと言うと結構しんどかった。


「むー。そうだ!私が毎日作りに来るよ!」

子犬の様に唸っていた光だったが、一転子犬の様な屈託のない笑顔で言った。


「え?」

「え、じゃないよ。私も多少は料理できるようになったんだよ!」

光は「ふん」と鼻を鳴らして、胸を張った。

「いや、そうじゃなくて・・・。」

「じゃなくて?」

光は頭に疑問符を浮かべながら首を傾げた。

「いや、悪いからいいって。」

「悪くないよ。唯志君、私の為に怪我したんだから。」

光は申し訳なさそうにしている。

コロコロと表情が変わり、見ている分には面白いなと思った唯志だった。


「別にひかりんの為じゃ――」

「またそういうこと言う!良くないんだ!」

さすがの唯志も、光の勢いにたじたじだった。


「あの、もしかして迷惑かな?」

勢い任せにしゃべっていた光だったが、唯志がたじろぐのを見て、少し冷静になった。

そして冷静になったら、途端に不安になったようだ。


「・・・」

唯志は黙って光を見ている。

「う・・・。」

そして光は何やらもじもじしている。


「ぷっ。はははは。」

唯志は急に笑い出した。


そして、笑ったら痛かったのか、胸部を押さえた。


「だ、大丈夫!?どうしたの、急に笑って。」

「いや、ひかりん急に怯えたように勢い無くなるから。見てて面白いなと思って。」

「あ、また私で遊んでる!」

光はぷんぷん怒って見せた。


「ははは。それよりひかりんが持ってきてくれたケーキ食べよっか。」

「あ、食べる―。」

唯志が笑いながら言うと、光も笑顔で答えた。

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