第147話 作戦が終わって

「ひかりーん。無事でよかった~。」

スマホの画面の先で莉緒が嬉しそうにしている。


夕食を食べてから少し経ち、部屋に戻って寛いでいたところに莉緒からビデオ通話がかかってきた。

大方、事の顛末を唯志あたりから聞いたんだろう。


「莉緒ちゃん、ありがとう。また唯志君に守ってもらっちゃった。」

「良いんじゃない?あいつ最初からそのつもりだったっぽいよ。」

「みたいだね。すごく準備してたし。」

「そうそう。なんだかんだでね。」

莉緒は何故か大笑いしていた。


「でも、唯志君怪我しちゃった。大丈夫かな・・・?」

光は心配そうにしている。

「そなの?あいつそんなこと言ってなかったな。」

「うん。なんかアバラが折れてるかもって。かなり苦しそうだったよ。心配だなぁ。」

「ふーん。」

心配そうな光に対して、莉緒の反応は淡白なものだった。

いや、淡白と言うよりは、何かを考え込んでいる感じだ。


そして、何か思いついたようにニヤッと笑った。

「ひかりん、心配ならお見舞い行きなよ。」

「で、でも迷惑かもしれないし。行きたいって言ったら断られるかも。」

「あはは、多分断られるだろうね~。」

「う・・・、だよね。」

「唯志、弱ってるところは絶対見せたがらないから。ほんとに大怪我なら、まず断ってくると思う。」

莉緒はくつくつと笑った。


「でも、唯志って寂しがりだし、素直じゃないだけだから、ひかりん来たら喜ぶと思うよ。」

「そうかな?うー、でも押しかけるのは迷惑だろうしー。」

光は頭を悩ませた。


「ま、そこは任せてよ。ひかりんが行きたいならだけど。」

「行きたいよ!」

「じゃあ莉緒ちゃんにお任せあれ。明日が良い?明後日?」

「えっと、私は明日でも明後日でも大丈夫。夜になるけど。」

「おっけ、おっけ。何なら毎日とか、住み込んじゃえば?」

「ええ!?」

光は驚いた反応をしたものの、まんざらではない様子で照れている。


「それとさー。せっかく生き残ったんだし、これから何したいか考えようよー。」

「あ、確かに!実は色々やりたいことあるんだよねー。」

「へー。例えばどんな?」

「えっとねー――」


そうして光と莉緒は、遅くまでおしゃべりに没頭した。


――

光が莉緒と通話の為に部屋に戻ったが、リビングには拓哉と御子がまだ残っていた。


「吉田。」

黙っていた二人だったが、御子が拓哉に話しかける。

「どうしたの?」

「あんたも無事で良かったな。」

「うん、ありがとう。」

淡々と会話をしている二人。

拓哉も、もはや自然体で会話出来ている。


「ところで、何で失敗したんや。作戦。」

「ああ、話してなかったね。実は――」


拓哉は今日の事のあらましを説明した。


――

「そっか、唯志か。」

「うん、結局ね。最初から最後まで、彼の予想通りだったみたい。」

「・・・山田は死んだのか。」

「・・・うん。それだけは計算外だったみたいだけど。」

「そっか。まぁ唯志でも止められなかったならしょうがないのかな。あんたたちだけでも無事で良かったわ。」

「岡村君は無事とは言い難いけどね。」

拓哉も拓哉なりに唯志の怪我のことを気にかけているようだ。


「生きてるだけでも儲けもんやろ。それに・・・。いや、ええか。」

「そっちは光ちゃんに任せとけ、かな?」

「!!」

御子は拓哉に見透かされて驚いた。


「流石に俺だってわかるよ、それくらい。」

少し複雑な表情をしているが、現状について受け入れつつあるようだ。


「そっか。あんたも少しは大人になったんやな。」

御子は「ふふ」と笑っていた。

「年下に言われたくないよ。」

拓哉も同じく笑っていた。


――

翌日。

時刻は夜、十九時頃。

唯志のマンション。


ピンポーン


唯志の部屋のインターホンが鳴った。


「ああ、莉緒が来るんだったっけ?」

唯志はのそのそとインターホンの方へと移動して、応答の為にボタンを押した。


画面に映っていたのは莉緒ではなかった。


「こんばんわ。」

画面の先では、少し申し訳なさそうに光が挨拶をしている。


「ひかりん?なんで?」

莉緒が十九時頃に来るのは聞いていた。

だが、ひかりんが来るのは聞いてない。


「あの、莉緒ちゃんに言われて。この時間に行けば唯志君いるって。だからその、お見舞いに。」

光は何やら気を使いながら、おどおどと答えていた。


(莉緒のやつ。図りやがったな。)

唯志はすぐに莉緒の策略だと気づいた。

とはいえ、わざわざ家にまで出向いてくれた女性を放置するわけにもいかない。


「はぁ。とりあえず入りなよ。言っとくけど、部屋荒れ果ててるぞ。」

唯志はそう言うとエントランスのロックを解除した。


--

「うわー、すごいね。」

部屋に入った光の第一声だった。

「だから言ったろ。」

最後に来た時とは比べ物にならないほど物が散乱していた。

光は苦笑いを浮かべた。


「えと、忙しくて片づけとかする暇なかったよね。」

一応光のフォローのつもりだった。


「いや、元々俺はこんなもん。莉緒もいないし、片付ける人も理由もないから。」

唯志は淡々と答える。

どうやらこの二人は、片付け担当は莉緒だったようだ。

と言うより、唯志がそう言う面に関してズボラと言った方が正しいだろうか。


「でだ。ひかりん、今日はどうした?」

唯志は光に対して要件を尋ねた。

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