第144話 山田の凶行③

時間は少し遡る。

場面は裏路地。

山田と唯志が退治している場面。


――

「試してやろうか?」

山田が唯志に銃口を向ける。


二人の足音が遠ざかっていくのを聞いて、唯志は安心していた。


「御免被りたいね。」

唯志はニヤッと笑うと、少しずつ後退る。


パアン!


轟音が辺りを包んだ。


唯志はその場に倒れ込む。


「バカが。大人しくしていれば死なずに済んだ。」

山田が吐き捨てるように言い、歩き出した。

須々木を追うのだろうか。

または拓也たちだろうか。

山田はゆっくりと歩みを進める。


「待てよ。」

山田が驚いたように振り返る。


「あー、痛え。」

唯志が撃たれた胸部に手を当てながら、ゆっくりと起き上がった。

「!!」

山田は立ち上がる唯志を見て、驚きのあまり声を出せなかった。


「ん?ああ、ほら。」

そう言って唯志は上着を捲った。

唯志は中にゴツゴツとしたベストを着用していた。


「防弾チョッキってやつ。でもクソ痛え。」

唯志は痛みからか、若干前かがみだった。


山田は唯志を無言で睨みつけると、今度は頭を狙って銃口を向けた。


「おっと、ちょっと待ってよ。あんたに渡したいものがある。」

唯志はそう言うと、持っていた荷物から何らかの資料を取り出した。

そして、その資料を山田の前にポンと投げた。


「何だ?」

山田は資料の方を一瞥すると、すぐに唯志の方に目を向けた。


「俺の調べた限りの資料。あんたには特に必要かなって思ってね。」

「そんな言葉で騙されると思うか?」

「・・・。世界同時AI自壊事件。その原因は須々木じゃないって言ったら?」

「なんだと?」

山田は目を見開いて驚くと、すぐさま唯志の投げた資料を拾い上げた。


「まぁ須々木だけが原因じゃないって言った方が正しいけどな。」

唯志がそう言っている間も、山田はかじりつくように資料を読んでいた。


「これは俺の推測だけど、あんた過去に来る前、環境データ持ち歩いてただろ。現代でも使用可能な外部記憶装置か端末かで。」

「・・・」

唯志の問いに、山田は複雑な表情を浮かべた。

そして、資料をめくるスピードが明らかに上がった。


「これは・・・。これが事実なら・・・。」

山田は資料をポトリと落として呟いた。


「そう。主原因は須々木かもしれないが、それを手助けしたのは未来人。お前とだ。」

唯志は今でも自分が未来人の体で話を進めていた。


「そして、そのことからもわかるだろ?」

「・・・何がだ?」

「俺やお前がこの時代に来たのは偶然じゃない。何故なら俺達が過去に来ないと未来が成り立たないからな。」

「・・・」

山田は押し黙って話を聞いている。

「俺達が来ることで須々木が研究を完成させる。そういう運命だ。つまり、未来は変わらないし、須々木は殺せない。」

山田は奥歯を噛み締めながら、苦しそうな表情を浮かべている。


「だからさ、復讐なんて無意味なんだよ。わかるだろ?」

唯志は山田を諭すように言った。


「俺が・・・。俺のせいで・・・。」

山田はブツブツと言っている。

唯志の声は聞こえていなさそうだ。


「俺の予想だけど、俺たちのこの行動も多分予定通り。・・・復讐するなら、この運命を決めた神様ってことだ。」

唯志がそう続けたが、山田の耳には届いているだろうか。

もはや茫然自失なように見える。


「現に、偶然が重なって須々木は無事だ。最初からこういう筋書きなんだろ。誰のかは知らないが。」

唯志は独り言のように続けていた。


「ははははははは--」

山田は壊れたように笑い始めた。

銃を持った腕は垂れ下がり、もはや敵意も殺意もないように見える。


その様子を見た唯志は、もう大丈夫だろうと思いその場を去ろうと歩き始めた。

さっき渡した、山田の手のひらから零れ落ちた資料を広い、拓哉たちの行った方へと。


もう曲がり角に差し掛かろうというところ、念のため山田の様子を確認しようとしたその時だった。


パアン!


二度目の銃声が鳴り響いた。

唯志は驚いて山田の方を見た。


そこには、が倒れ込んでいた。


「バカが・・・。」

唯志はそう吐き捨てると、その場を足早に去って行った。


(二度目の銃声で人も集まるだろう。そろそろ警察が来てもおかしくない。早く逃げないと!)

そうは思っているものの、防弾チョッキ越しに受けた銃のダメージは甚大だった。

強がっては見せたものの、かなり痛い。

走ることもままならないほどに。

ぶっちゃけると、息をするのも痛い。


そんな状態で、出来る限り懸命に急いだ。


--

「--でも光ちゃん、銃声は二回も聞こえた。正直・・・。」

車の中では拓哉が光を説得していた。

唯志が来るまで絶対に逃げないと言い張る光を、何とか納得させようとしていた。


「正直何!?私は唯志君が来るまで絶対ここにいる!唯志君にもしものことがあったら、私だって!」

光は初めて見せる剣幕で、拓哉をまくしたてていた。


「でももう・・・。死んでるかもしれないんだよ?」

言いながら拓哉も奥歯を嚙み締めた。


「だったら私も一緒に死ぬ!死ぬつもりで来たんだよ!?唯志君を一人になんかしない!」

光は半狂乱な状態だった。

呑気な野村もどうしたものかと途方に暮れていた。


「だから!絶対私は行かない!逃げるなら二人で逃げてよ!」

光が涙ながらに大声で訴えた。

その時--


ガチャ


「なんか盛り上がってるな。外でも少し聞こえたぞ。」

唯志が助手席側から車内に入ってきた。


「唯志君!」

「「岡村君!」」

三人は驚きとともに、ホッと胸をなでおろした。

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