第138話 話し合いの後に

拓哉は部屋に戻るとPCを立ち上げ、早速とばかりに唯志の資料に目を通し始めた。

作戦の決行まで一週間と一日。

具体的に何をしたら良いのかはわからなかったが、とにかく時間を無駄にしたくなかった。

何よりも光の為に。


――

資料を念入りに読む。

読めば読むほど、改善箇所なんてない。

おまけに現場の確認まで済んでるときたら、これ以上自分の意見の入り込む余地は無かった。


・・・いや。

一つある。

明日だ。

明日は準備が間に合わないという理由で避けたが、明日も須々木が喫茶店に向かう日だ。

情報の精度確認、現場の確認、それに現場までの道のりの確認。

それらをやるには明日が絶好のチャンスだ。


光は説得方法を考える方で忙しいだろう。

何より明日も仕事なわけだし。


俺が行く。

今回は絶対に役に立つんだ。


拓哉は改めてそう誓うと、明日の為の準備を始めた。


――

「うーん、須々木さんを説得する方法かぁ。」

光は一人部屋で悩んでいた。

作戦会議ではとにかく頑張ると宣言した光だったが、実際のところ難しいであろうことは理解していた。


「唯志君が助言してくれたみたいに、まずは未来人ってわかってもらわなきゃだよね。」

光はどう話をするか、頭を悩ませていた。

どう説得しても、須々木がわかってくれるとは思えなかった。


「うう~。唯志君に相談したいなぁ。」

そう言って若干しょんぼりしていた光だったが、すぐにぶんぶんと首を振り、頬を叩いた。


「ダメだ。ちゃんと自分でやらなきゃ!やるって決めたんだから。」

光はスマホにつけている唯志に貰ったストラップをギュッと握りしめた。


「私、頑張るからね。」

光は気を取り直して、またうんうん唸り始めた。


――

「ねぇ唯志ー。」

莉緒が唯志の部屋を物色しながら話しかけた。


あの後、二人は一緒に唯志の部屋に来ていた。

目的は唯志の部屋に大量に置いてある莉緒の私物を引き取るためだ。


「なんだ?」

一方の唯志はPCと睨めっこしていた。


「唯志さー、ひかりんが消えちゃうかもって気づいてたよね?」

「可能性としては考えてた。」

「よねー。唯志が考えてないわけないもんね。」

そう言いながら莉緒は下着や洋服などを片付けていた。


「それがどうかしたか?」

唯志はPCを操作しながら横目で莉緒に尋ねた。


「その割にはひかりんが実行できるように手助けしてたなって思っただけ。」

「ああ、それなら――」

「あ、別に良いよ。唯志のことだしなんか考えあるんでしょ?」

莉緒はふんふん鼻歌を歌いながら片づけを続けている。


「ひかりんの計画止めたいなら、ラストチャンスの十一月四日が過ぎるまで黙ってれば良いだけだもんね。」

莉緒に唯志の考えはわからない。

だが、唯志の考えてることだから大丈夫。

莉緒は相変わらず唯志に全幅の信頼をおいていた。


――

「うわー、めっちゃあるなー。」

私物の下着、洋服類だけまとめたが、山の様になった。


「これ一回じゃ持てないだろ?」

「んだねー。悪いけど半分くらいはまた今度でも良い?」

「別に良いよ。困ってないし。」

「えー、でも新しい彼女出来た時に、元カノの下着とかあったら修羅場じゃない?」

莉緒は悪そうな顔でニヤニヤしている。


「そんなすぐ出来ねーよ。」

「どうかなー?唯志って、意外と来るもの拒まずでしょ?」

莉緒は苦笑しながら持って帰る分を取り分けてた。


「そんなこと言ってると、下着ばっかりおいて行っちゃおうかな~。」

莉緒はいたずらっぽく笑っている。

久しぶりの唯志との絡みで楽しいようだ。


「あ、ほんとに困る時は捨てて良いからねー。被っても良いし。」

「被らねーよ!」

唯志がツッコむと、莉緒は大笑いしていた。

別れたとはいえ、二人の関係性は前とちっとも変っていなかった。


「でもさー、ひかりんとは大丈夫?あんな別れ方しちゃって。」

「良いだろ別に。」

「えー?嫌われたりとか心配じゃないの?タク君に、ひかりん寝取られちゃうぞ?」

「盗られるも何も、ひかりんは俺のもんじゃねーし。」

「ふーん。」

莉緒は怪しい目つきで唯志の顔を覗き込んだ。


「なんだ?」

「まぁいいや。でも、ひかりんのことはよろしくねー。後は任せたよー。」

「俺の出番なんて、無い方が良いんだけどな。」


その後、莉緒はしばらくくつろいだ後に帰って行った。


――

莉緒が帰った直後ごろ。


御子が部屋でくつろいでいると、スマホが鳴った。


「唯志?」

相手は唯志だった。


「なんじゃ?」

御子は電話に出た。


「ああ、その件な。ごたごたで忘れてたわ。あんたの予想通りやで。」


「うん、そう。それは六月中旬頃らしいわ。そうそう、その年。」


「で、これが何になるんや?あんた、光には協力しないんやろ?」


「またお得意の念のためかい。」


「うち?そりゃあ光が消えるのは嫌やけど、あの色は梃子でも動かんで。だからしゃーない。」


「ほんとはうちや吉田より、あんたに協力して欲しいはずやで。光は。」


「わかってるけど。でも光は・・・――。」


「え、ちょっと待っ――」


そう言ってる間に、唯志は電話を切ってしまったようだ。


「勝手なやっちゃな。」

御子は複雑な表情でスマホを見つめていた。

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