第136話 ブリーフィング5

どれくらい経っただろう。

時間にしたらほんの数分なんだろう。

でも光のすすり泣きが治まるまで、全員で黙って待っている時間は非常に長く感じた。


「ご、ごめんね!話途中だったよね!」

光は真っ赤にはらした目、そして顔で無理に笑顔を見せた。

無理しているのは誰でも手に取るように分かった。


「光。無理しなくてええんやで?」

御子が心配してそう言った。

「そ、そうだよ、ひかりん。」

その意見に恵も追従した。


ここまでの大事にしてしまった自責の念からか、拓哉はただ俯いていた。


「大丈夫、大丈夫。・・・それより当日の作戦立てましょう。」

誰がどう見ても作り笑顔だった。

その作り笑顔もぎこちなかった。

だが、誰もそれを指摘なんて出来なかった。


「・・・。と言っても、ほとんどの作戦は唯志君の案で完結してる。後は実行するのが、光ちゃんとくらいじゃないかな。」

佐藤が光の話に乗っかって、話を繋げた。

この悲壮感漂う場に耐えられなくなったんだろうことは、誰でもわかった。


「だな。光ちゃん一人じゃ危ないかもしれないし、男手があった方が良いかもね。」

そういう間宮の意見を受けて、何人かが拓哉の方をチラッと見た。


「・・・俺が一緒に行きます。」

拓哉は視線を感じてか、或いは自主的にそう思ったか。

誰から言われるでもなく、自分からそう告げた。


「タク君・・・。」

光は拓哉の方を見た。


拓哉も光に向き直って続けた。


「俺じゃ頼りないかもしれないけど・・・。岡村君みたいには出来ないかもしれないけど!でも、光ちゃんが目的を達成できるように、全力で守るよ。信じてほしい。」

拓哉はまっすぐに光を見つめて言った。


「・・・うん、信じてるよタク君。」

そう言って光は泣きはらした顔で微笑んだ。


(ふーん。今回はマジみたいやな)

その様子を御子はぼんやりと眺めていた。

「吉田にしては男らしいこと言うやん。どないしたん?」

続けて、シリアスな空気を嫌ったのか茶化した。


「俺だって・・・。光ちゃんを助けたいのは本心だよ。・・・俺が役に立てるのは今しかないんだ。」

茶化してきた御子に、拓哉は真剣な目で真面目に答えた。


(あーあー。いじっていい雰囲気ちゃうなぁ。)

御子には拓哉の真剣さが色んな意味でよく分かった。

故に、それ以上口出しはしなかった。


「で、光についていくのは吉田だけなん?うちも行こか?」

御子は真剣な表情の二人拓哉と光に割って入り、話を元に戻した。

「あ、私も行けるよ!必要なら行こうか!?」

画面の先で恵も立候補している。


「いや、下手に人数増やすのは得策じゃないんじゃないか?カズ、どう思う?」

異を唱えたのは間宮だった。

間宮は現役探偵でもある佐藤に意見を求めた。


「個人的には、二人くらいの方が良いと思う。大人数で押しかけると、相手側も緊張するし、避けられる可能性もある。」

と佐藤は答えた。


「確かにそうですね。なら私とタク君で・・・。非常時は御子ちゃんとめぐみんに連絡する感じでどうでしょう?」

光が佐藤の意見を踏襲し、案を提示した。


「良いんじゃないかな。あくまでも目的は説得であり、話し合いだしね。」

間宮が光の意見に同調した。

声には出さないが、他の人たちもうんうんと頷いている。


--

そして、その他当日の細かい注意点や詰めを話し合った。


「--こんなところかな。」

間宮がそう言って話し合いが締めくくられようとしていた。

「だな。後は二人とも、唯志君が残してくれた資料を当日までに読み込んでおくこと。」

佐藤が拓哉と光に向けてそう言った。


「はい!・・・決行は唯志君の推測通り、十一月四日ですね。タク君、時間は大丈夫かな?」

光は拓哉の方に目を配った。

「仕事終わってからでも間に合うとは思うけど、念のため当日は昼から休みを取ることにするよ。」

拓哉も念には念をと、休みを取るつもりのようだ。

今回の作戦に対して、真剣である証拠だろう。


「それじゃあ、今日はこのくらいかな。また何か情報があれば連絡するよ。」

間宮はそう言って、軽く挨拶をすると、ビデオ通話を切断した。

続けて他の面々も続々と切断していく。


全員が切断し、ビデオ通話が終わると、三人だけが残った静かな部屋になった。


「・・・とりあえず話は決まって良かったやん。何とか作戦も実行できそうやし。」

と静かになった部屋で、御子が最初に口を開いた。


「うん。・・・結局唯志君頼りになっちゃったけど。」

光は寂しそうな表情をしていた。


「結局、私って唯志君がいないと何も出来なかったな。でも、そんな唯志君も、もういないんだよね・・・。」

光は俯いたままで、独り言のように呟いていた。


しかしすぐに顔を上げ、笑顔を見せた。

「あはは。ちょっと疲れてるかな?私、そろそろ部屋に戻って休むね。」

光はそう言うと、足早に部屋へと戻って行った。

無理に笑顔を見せていたことは、御子はもちろん拓哉でも十分に理解できた。

だから誰も止めなかった。


「吉田。」

光がいなくなったリビングで、御子が拓哉に話しかける。

「何?」

拓哉は気のない返事をする。


「うちももう部屋に戻るわ。あんたは光のとこ、行ってやりぃ。」

御子はそう言い残すと、部屋に戻ろうとした。

部屋に戻る途中で振り返ると、拓哉の方をじっと見た。


「今日のあんたは、悪くなかったと思うで。」

そう言い残して、御子は部屋に戻って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る