第135話 ブリーフィング4

「――成功した場合って、光ちゃんはどうなるの?」

拓哉の問いに、あるものは疑問符を浮かべた顔をしていた。

そしてあるものは少し意味が分かって険しい顔をしていた。

そしてあるものは表情を崩さず、無言だった。


「あはははは・・・。・・・どうなるんだろうね?」

光は苦笑いしながら答えた。

明らかに動揺し、話を逸らそうとしているのが拓哉でも分かった。


「未来を変えるわけだから、光ちゃんが生まれてくる未来は無くなる・・・。そう言いたいのかい?」

口を開いた間宮は、難しい顔をしていた。

元よりオカルト系の雑誌記者の間宮は、この可能性を考えていたんだろう。


「そうです。それで・・・、その場合光ちゃんは?どうなるの?」

拓哉は改めて光を見つめて、はっきりと発言した。


「うーん。・・・消えちゃうとか、かな?」

光は困ったような笑顔で答えた。


予想はしていた。

だが光の答えは、拓哉が最も聞きたくない『答え』だった。


「そんなの!!そんな・・・。光ちゃんは、それで良いの・・・?」

拓哉は否定したかった。

いや、拒否したかった。

しかし悲しそうな光の笑顔を見ると、出来なかった。


「ありがとう、タク君。でも、これは私のせいだから私がやらなきゃダメなんだよ。」

光はそう言って作り笑顔を見せた。

拓哉は黙って頷くしか出来なかった。


「だからみんなも・・・。私のことは気にしないで、未来を守るって思って協力してほしいな。」

光は終始笑顔だった。

そんな光の笑顔を見て、暗い表情を浮かべつつも否定出来る人はいなかった。


二人を除いて。


--

「却下だ。」「却下!」

静まり返った場で、ほぼ同時に、同じようなことを二人が発した。


「唯志君、莉緒ちゃん・・・。」

光は同じ部屋内にいる二人を交互に見た。

二人は険しい表情で光を見つめていた。


「別にひかりんのせいじゃないし。」

と莉緒が言う。

そして唯志が続ける。

「未来で何億人死ぬとか知らねーよ。俺には関係ない。そんな見ず知らずの数億人よりも--」


そして、二人が同時に言った。

「俺はひかりんの方が大事だ。」

「私はひかりんの方が大事。」


「・・・」

光は無言だった。

ただ、目は充血し、涙を必死に留めているようだった。


「ひかりんのその意見、自分が死んで未来を変えるって意味だぞ?」

唯志が光をまっすぐに見つめて言った。

「うん、そう言ってる、よ?」

光は震えた声で答えた。


「そんなの、ただの自己満足じゃん。」

今度は莉緒が言う。

「・・・。」


「俺は、そんなことに協力なんて出来ない。」

「私も。ひかりんが死ぬ手伝いなんて、死んでもヤダ。」

唯志と莉緒がまくし立てた。


「・・・。」

光は先ほどから俯いて黙り込んだままだ。


「本気でそう思って、この作戦を実行するつもりなのか?」

唯志は落ち着いたトーンで光に再度確認した。


「私は・・・。そのつもりでいるよ・・・。」

光は相変わらず震える声で答えた。


「ならここまでだな。俺は協力できない。」

「私も。ひかりんが死ぬ協力なんて嫌だ。」

の二人だけあって、息も意見もピッタリだった。


「・・・ごめん。」

光はついに涙を零しながら、ただそう答えた。


「悪いけど、俺たちが協力できるのはここまでみたいだな。」

唯志が「はぁ」とため息をつきながら言った。

そう言うと、莉緒も席を立ち、帰り支度を始めた。


重い空気の中、他の人たちは二人が帰ろうとする様を、何も言えずに眺めていた。


--

「・・・待てよ。」

二人が帰ろうとするのを制したのは、拓哉だった。


「何だよ?」

唯志は拓哉の方を一瞥した。

同様に莉緒も拓哉の方を見ている。


「なんでだよ。光ちゃんは、みんなの為に自分が覚悟をして・・・。なのになんでだよ!!」

拓哉は大声を張り上げていた。

「俺は大事な友達が死ぬのを手助けなんかしねー。どうしてもってんなら、勝手にやればいい。」

唯志は冷静に、そして冷淡に答えた。


「なんでだよ!他の誰が断っても良い。でも・・・。でも!!岡村君だけは協力してやれよ!」

拓哉は唯志に迫り、胸倉を掴みながら言った。


八つ当たりだった。

本当は拓哉だって止めたい。

でも光のことを思って止められなかった。

なのに、光が大好きなは、平然と光を裏切った。


裏切ったわけじゃないことなんて、拓哉だって重々わかっている。

だけど、少なくとも光が愛しただけでも、光の味方でいてほしかった。

ただ、それだけのことだった。


自分にできないことを簡単にやった。

そんなに嫉妬しただけだった。

そんなことは拓哉だってわかっていた。

だけど抑えきれなかった。


「た、タク君・・・。」

光は驚き、どうしていいかわからず、オロオロしていた。


「なんでだよ。」

唯志は拓哉を睨みつけた。

「なんでって・・・。光ちゃんは・・・。光ちゃんは!!お前の--」

「タク君!!」


拓哉が大声を出している途中で、光が更に大きい声で遮った。


「タク君、大丈夫だから。ありがとね。・・・唯志君もありがとう。」

光は二人に対してお礼を言った。

こう言われると、拓哉としてもこれ以上続けるわけにはいかなかった。

唯志を離すと、項垂れるように椅子に座った。


「光。」

唯志は、初めて光の名前を呼び捨てにして呼んだ。


「・・・うん。」

光も少し驚いたが、まっすぐに唯志を見つめた。


「止める気は・・・、いや、自分が生き残るって気はないんだな?」

「・・・うん。」

「ならここまでだ。頑張れとは言わない。・・・光、元気でな。」

「うん。・・・ありがとう、唯志君。莉緒ちゃんも。」


そして、唯志と莉緒は部屋から出て行った。


二人が消えた部屋で、まだ他の人がいて、ビデオ通話をしている静かな部屋で。

光は抑えきれなくなった。

そして大声で泣き叫んだ。

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