第134話 ブリーフィング3

「悪いけど、喫茶店の前で待ち伏せは却下だ。」

女性陣が何とかなりそうと盛り上がる中、唯志がそれを否定する。


「なんでや?」

静まり返る中、御子が一番に聞き返した。

「これを見てみ。」

唯志は画面を操作し、喫茶店付近の拡大図を表示した。

その中には監視カメラの撮影範囲も図示されていた。


「周囲の監視カメラに死角がほぼない。ここで接触すると、必ずどこかに映っちまう。」

「えっと、監視カメラに映ると何か問題なの?」

光が首を傾げながら質問を重ねた。


「騒ぎになった場合に困る。証拠が残っちまうから。状況が状況だけに、なるべく内密に済ませた方が良い。」

と、唯志は答えた。

「それは、ってやつか?」

御子がジト目で唯志を見つめながら聞く。

「そう、ってやつ。」

唯志はニヤッとしながら返事をした。


「えっと、唯志君の言うとおりにした方が良いのかな。でも、それだとどうやって須々木さんと会うの?」

続けて光が唯志に質問した。


「それだけどな、これ。」

唯志がそう言って操作すると、今度は周辺地図に色々な予想ルートが色付けされた。

「これ須々木の勤務先からの予想ルート。このルート全部と周辺、全部現場確認してきた。」


「これ、全部かい?」

間宮が驚いて質問したが、他の面々も一様に驚いていた。

「ええ。資料は作ってませんが、ルート上の監視カメラも確認しておきたかったので。」

唯志は平然と言ってのけたが、大変な作業であることは誰でも容易に想像できた。


「んで、この赤で記したこの場所。接触を計るならここがベスト。」

唯志は先日現場確認の末に結論付けた、最も適した接触箇所について説明した。

周辺写真や、周囲の状況。

その他諸注意事項など、余すことなく。


――

「――以上だけど、何か質問は?」

唯志が全員に目配せしながら言った。


「問題はなさそうだと思うよ。」

佐藤がそう言い、現役探偵のお墨付きとなり、光たちも安心した。


「まぁでもこれはあくまで接触するための手段。俺に出来たのはここまでだ。ひかりん、この後はどうする?」

今度は唯志が光に質問した。


「須々木さんに会えたなら、頑張って説得するよ!」

光は力強く答えた。

「い、いや、ひかりん。意気込みは良いんだけど・・・。」

唯志がそう言うと、光ははてなを浮かべながらポカーンとしていた。


「具体的に、どうやって説得するんだい?」

横から間宮が口を出した。


「えっと、未来が大変なことになるってのを教えて、わかってもらえないかなって。」

「あ、それは話すのね。未来人ってことも?」

今度は莉緒が光に質問した。

「そうだよ。」

光は笑顔で答えたが、周りの反応はいまいちだった。


(これは・・・、厳しい戦いになりそうだな・・・。)

拓哉でさえ、そう思った。

実際光の作戦というのは、出たとこ勝負のノープランに近く、成功するビジョンが全く見えなかった。


「まぁとりあえず、ひかりんが話をするってことだな。なら、落とした本の話あたりから始めると良い。」

ノープランの光に対して、唯志が助言した。

「そうなの?」

光は鳩が豆鉄砲を食ったような、不思議そうな顔で唯志を見た。


「何にしても未来人って信じてもらわないと話にならないからね。」

画面の先から佐藤が付け加えた。

「確かに!」

光は大袈裟にうんうん頷いている。


「でも、説得は難しいと思うよ?」

と間宮が言えば、

「研究自体はもう終わってるだろうし、そもそも相手も人生をかけて取り組んでるはずだ。はいそうですか・・・、とはならないだろーな。」

と唯志も続いた。


「うーん。でも、頑張るしかないよね!」

光はキリッとして答えた。

ここにきて、持ち前のポジティブさを遺憾なく発揮しているようだ。


「ま、そこはひかりんに任せるわ。で、説得がダメな場合はどうするんだ?」

「うーん。その時は・・・どうしよう?」

光は唯志を訴えかけるような目で見つめた。

唯志に助けを求めているのだろうか。


止める。そういうつもりはあるのか?」

唯志は真剣な目で光を見つめた。

そして、唯志の問いの答えに全員が注目して光を見た。


「そ、そんなことしないよ!だから頑張って説得するの!」

光は力強く答えた。

光の答えに、拓哉や恵などはホッと胸をなでおろした。

他の面々も、「やっぱりか」と言った反応を見せた。


「だな。ひかりんはその方が良いよ。」

唯志も少し微笑んでそう答えた。

唯志の真意はわからなかったが、きっと良い意味だろうと思い、光も笑顔を見せた。

「まぁ失敗した場合のことは・・・、ある程度覚悟しとかないとだけどな。」

そう言って唯志は苦笑いをした。


――

「あの・・・。」

これから当日の具体的な動きについて話をしようというタイミングで、拓哉が口を挟んだ。


「どうしたの?タク君。」

光はキョトンとしていた。

いや、他の面々も同様。

この作戦会議が始まってから、気配を消していた拓哉が発言したからだ。


「あの・・・。失敗の場合はともかく・・・。成功した場合って、光ちゃんはどうなるの?」

拓哉は今日まで悩んでいた疑問を、全員に向けて投げかけた。

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