第127話 それぞれの相談

光が自宅に入ると、リビングには拓哉と御子がいた。


「ただいまー。」

「おー、帰ってきたかー。おかえりー。」

「おかえり。」

光の挨拶に、御子が元気に、拓哉が小声で返事を返した。


「光はどっか行ってたんやな。吉田もどっか行ってたけど、内緒らしいねん。」

御子がぶーぶー文句を言っている。

「俺だって知られたくないことくらいあるよ。」

心なしか元気のない拓哉に、光は少し心配になった。


「タク君なんかあった?悩んでるなら相談のるよ?」

光は拓哉を覗き込みながら言った。

だが拓哉は何も答えなかった。


「で、光はどこ行ってたんや?仕事の時間ちゃうよな?」

「あー、うん、それだけどね。二人にも相談があるんだよね。聞いてくれる?」

光は意を決して、真剣な表情で二人を見渡した。


光は今日あったことを二人に説明し始めた。


--

「なるほどなぁ。」

一通りの説明を終えた後、御子が最初に口を開いた。


「み、未来を変えるって・・・どうやって?」

拓哉はおずおずと光に質問した。


「具体的なことはまだ何も考えてないんだ。でも、これから頑張って考えるよ!。」

光は凛とした顔で言っている。

根拠は何もないのだろうが、頑張るという決意表明なんだろう。


「だから二人にも協力してもらえたらって・・・。あ、もちろん強制じゃないし、軽く助言する程度でも良いからね!」

光は慌てて付け加えた。


「も、もちろん!俺は何でも協力するよ!」

拓哉は二つ返事で、力強く返事をした。


「うーん。内容によるなぁ。まぁ出来ることは協力したるで。」

一応、御子も協力する意思だけは見せてくれた。


「とりあえず目的は、『世界同時AI自壊』ってのが起こらない未来にするってことだよね?」

拓哉は最終目標を訊ねた。

「うん、そうだよ。」

光は拓哉ににっこり微笑み返した。

「うーん・・・。」

だが光の笑顔に反して、拓哉は考え込んでいた。

いつもなら光が笑顔を見せたら、ニヤニヤとしていたのだが。


「まぁそれが最終目標なら、須々木の研究をどうにかするしかないな。」

拓哉が考え込んでいるので、御子がさらっと答えた。

「うん、そうだと思う。」

光もその意見には同意した。

「なら研究を止める方法を考えたら良いってことかな?」

考え込んでいた拓哉も、顔を上げ話に加わった。


--

「うーん、例えば私の落とし物の本を取り返すとかかな?」

光が研究を止める方法として言っている。

今はみんなでどうやったら研究を止めれるか、意見を出し合おうということになっていた。

「本の内容もう覚えられてたら意味なくなるね。その場合は、研究自体を止めるってことになるのかな?」

拓哉も拓哉なりに必死に光に意見を出している。

「手っ取り早いのは須々木を殺すことやな。・・・まぁ犯罪やし、やらへんやろけど。」

御子は手っ取り早く、物騒な方法を提案した。

「それはダメだよ!」

さすがに光は否定した。


そうやって全員で色々と意見を出し合っていった。


--

「結局、現実的なのはさっき言ったやつかな?」

拓哉が纏めに入ろうとしていた。

「うん。須々木さんの研究がってやつだね。それしかなさそうだね。」

光も拓哉の意見に同意した。


「そうなると・・・。どうやって会うかが問題やな。」

御子が問題点を挙げ、本日の話は締めくくられた。


----

唯志宅。

唯志はskypoでビデオ通話をしていた。


「--という感じで、何とかなりますかね?」

唯志が画面の向こうに向かって話しかけている。


「うん、それくらいなら。乗り掛かった舟だしね。出来る限りはやってみよう。」

そう答えたのは間宮だった。

唯志は自宅に帰って少ししてから、間宮とビデオ通話で相談していた。


「しかし君もお人好しだね。なんだかんだで協力する気なんだから。」

そう言いながら間宮は苦笑していた。

「いえ、協力するつもりは・・・。これは念のためってやつですよ。」

「まぁそう言うことにしておこうか。」

間宮は唯志の答えを苦笑しながら受け流した。


「あっちの件も最中だろう?君も忙しいね。」

間宮は相変わらず苦笑いだった。

「ああ、先祖の調査の件ですか。そっちは最後の仕上げくらいなんですが・・・。」

「何か問題でも?」

「まぁ確率の問題と・・・。あとは個人的に、このところ活動停止してたので。」

「そうなのかい?まぁ無理のし過ぎは体に毒だ。ちょっとは休むことをおすすめするよ。」

「そうですね。気を付けます。」

そう言って唯志は間宮に礼を述べると、通話を終了しようとした。


「ああ、唯志君。最後に良いかな?」

終了しようとしたところを間宮に制止された。

「なんでしょう?」

唯志は寸でのところで終了を止め、聞き返した。


「実際のところ、未来は変えられると思うかい?」

「未来改編の可否の話ですか?現実的な問題の話ですか?」

間宮の質問に対して、唯志は質問で返した。

「うーん、どっちもかな。」

間宮は前者を聞きたかったのだが、後者の答えも気になった。


「前者はわかりません。やったことないし、証明も出来ないので。」

「君らしい答えだね。」

間宮は笑っていた。


「後者についてですが、正直なところ難しいでしょう。」

唯志は眉間にしわを寄せながら答えた。

「どうして?」

間宮は単純に聞き返す。


「年内に発表があると仮定して・・・、現時点で研究なんて終わってるでしょう。今は発表の為の資料作りとかそんな段階のはずだ。」

「・・・だろうね。」

「とはいえ、研究で終わりじゃない。今後は実用化に向けて、企業との開発の段階に入るはずだ。」

「そうなるのかな?専門じゃないから何とも言えないな。それだと止めるのは難しいのかい?」

文系の間宮には、その辺りはちんぷんかんぷんだった。

人並みの知識しかない。


「研究が終わってる以上、今更止まらないでしょう。ですが、開発を頓挫、あるいは遅延させるだけでも未来は変わるのかもしれません。その方法はあります。」

「ちなみに・・・、その方法は?」

間宮は難しい顔でもったいつける唯志に、恐る恐る聞いた。


「須々木久寿雄を、ことです。」

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