最終章 未来へ

第126話 衝撃の事実

佐藤の事務所をあとにした光と唯志は、一緒に帰宅している途中だった。


「なぁ、ひかりん。」

「どしたの?」

「本気で未来を変えるつもりなのか?」


--


「私、未来を変えたい。」


--


光は佐藤の事務所で、四人に向かってそう宣言した。


「変えたい、と思ってるよ。・・・でもどうしたら良いかはわからない。」

光は複雑な表情をしていた。


変えたい・・・とは思うものの、具体的にはまだノープランなようだ。

先ほど佐藤の事務所でも、みんなに協力してほしいとお願いだけをした。

そして、何か考えがまとまったら今度はみんなで集まりたいと。

光からのそのお願いだけがあり、結局そのまま解散となった。


「唯志君も・・・、協力してくれると嬉しいな。」

そう言って光は得意の上目遣いで唯志を見上げた。

本人は意図していないんだろうが、この動作は結構ズルい。

男なら、助けてあげたくなること請け合いだろう。


「未来を変えるってことは、帰る未来が無くなるってことだぞ?」

唯志は真剣な表情で光を見つめた。


「・・・うん。わかってる。」

光は覚悟を決めたような表情、そして目をしていた。

それを見た唯志は「はぁ」とため息をついた。


「て言ってもノープランじゃな・・・。」

唯志は光から目を背けながら答えた。


「うん、そうだよね。私、唯志君ほど賢くないけど、頑張って考えてみるよ!」

光は両手をぐっと握りしめながらそう言った。


--

「そう言えば今日莉緒ちゃんは?てっきり一緒に来るかと思ってたんだけど。」

光はふと思い出したかのように言い出した。

「ん?ああ、まぁ急だったからね。」

唯志はそっけなく返した。


「莉緒ちゃん元気にしてる?私最近会ってなくて。」

「さぁ・・・。俺も最近会ってないからわからないな。」

「え?そうなの?珍しいね。莉緒ちゃん何か忙しいの?」

光は首を傾げながら聞き返した。

「忙しいのは忙しいんだろうけど・・・。俺たち別れたんだ。だから前みたいに毎日会ってないよ。」

唯志は莉緒と別れたことを光に告げた。


「そうなんだー。・・・え!?別れた!?」

光は驚きすぎて、目を見開いて唯志を二度見していた。


「そう。」

「なんで!?なんでなんで!?二人仲良しだったよね!?喧嘩でもしたの!?」

光はまくし立てる様に唯志に詰問していた。

「別に喧嘩なんかしてないよ。まぁ強いて言えばしょうがなかったのかな。」

唯志は至極当然のように、いつも通りに淡々と答えていた。


「唯志君・・・。あの、私のせいかな・・・?」

光は申し訳なさそうに唯志に質問した。

「なんで?ひかりんは関係ないよ。」

光があまりにも落ち込んでいるので、唯志は思わず吹き出しながら答えた。


「え、でも、だったらなんで!?」

「東京。行くんだって。夢の為に。・・・もう結構前から決めてたみたいだ。」

唯志は相変わらずいつも通りの調子で答えていた。


「夢・・・。唯志君は・・・それで良いの?」

光は唯志を見つめながら、何かを訴える様に質問を繰り返した。

「良いも何もないよ。莉緒が決めたことだ。莉緒だって相当悩んで決めたことなんだ。俺が止める権利なんてないよ。」

「そんなことない!唯志君には止める権利あるよ!」

光は大声を張り上げて、全身で否定をした。


「止めてどうする?莉緒の夢を、俺の為に諦めろっていうのか?」

「う、それは・・・。」

そう言い返され、光は俯いてしまった。


「ひかりん。世の中には、どうしようもないこともあるんだ。・・・俺は莉緒の夢を精一杯応援する。それしか出来ないんだよ。」

唯志はいつも通りの調子で言っている。

だが光にはその表情が寂しそうに見えた。


「でも、唯志君も莉緒ちゃんも仲良しで・・・。お互い好きあってて・・・。そんなの悲しいよ。」

「ありがとな、ひかりん。まぁでもそういうわけだから。莉緒に用事があるなら、莉緒に直接連絡してあげて。」

「・・・うん。」

光はまだ納得していないような表情だったが、渋々頷いた。


「ひかりんだって、現代に好きな人が出来たとするじゃん?」

「え?えっと・・・。」

光はドキッとした。

「で、未来に帰るチャンスがあったとするでしょ。」

「えっと・・・、うん。」

光はコクコクと大げさに頷いた。

「そうなったら、どうする?どっちかしか選べない。」

「・・・」

光は答えられなかった。


「まぁそういうこと。」

唯志は最後にいつもの笑顔を見せた。

光にはそれが作り笑顔だってことがわかってしまった。


多分、唯志は強がっているだけで、内心はすごく悲しんでいる。

それが痛いほどわかった。

なのに私の前だから強がっているんだ。

そう思うとこれ以上追及は出来なかった。


--

そしてそのまま無言の二人は、いつの間にか光のマンションの前まで着いていた。


「あの、送ってくれてありがとう。」

光はあれから元気がないままだ。


「良いって。何か話が決まったら連絡ちょーだい。相談ならいくらでものるし。」

「うん、ありがとう。」

光がそう言うと、唯志は背を向けて帰ろうとした。


「あの!唯志君!」

帰ろうとする唯志の背に、光が声をかけた。


「どうした?」

唯志は首だけ振り返り、光の方を見た。


「私でよかったら・・・。その・・・。いくらでも遊んだり、相談のるから。寂しかったら連絡してくれていいからね?」

光はもじもじとしながら唯志に告げた。


「ありがと、ひかりん。じゃあ、その時はそうする。」

唯志はでそう言うと、手を振って歩き出した。


--

「唯志君の嘘つき。・・・嘘下手だね、唯志君。」

唯志が見えなくなったところで、光は呟いた。


きっと唯志はも頼ってはくれない。

光はそんな気がした。

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