第125話 拓哉と光の選択

十月二十二日金曜日。

俗に言う、花金。

時刻は十八時過ぎ頃。

日が落ちるのも早くなってきていて、もうすっかり暗くなっていた。


普段なら特に用事もなく、自宅へと直行している拓哉だったが、今日は違った。

自宅から少し離れた公園で人を待っている。


拓哉がベンチに座って待っていると、一人の人影が近づいてきた。


「よっ!タク君。待たせちゃった?」

現れたのは莉緒だった。


「急に呼び出したりしてごめん。」

拓哉の言う通り、今日の呼び出しは急だった。

朝になって莉緒と連絡を取り、何とか会う約束をこぎつけた。


「デートの誘いにしては、ちょっと配慮が足らないかな~。」

莉緒は苦笑しながら冗談を言っていた。

「・・・。」

「いや、ノーリアクションかよ!ツッコめし!」

拓哉が全く反応を示さないので、莉緒は一人でノリツッコみしていた。


「・・・で、話があるんでしょ?どしたん?」

口を開かない拓哉に対してしびれを切らせた莉緒が、本日の呼び出し理由を催促した。


「・・・光ちゃん。岡村君が好きだって。」

ようやく重い口を開いた拓哉が莉緒に告げた。

「ふぅん。それで?」

莉緒は呆れたような顔をしていた。


「・・・。」

「いや、終わり!?それを私に教えて、どうしたかったの!?」

中々話を進めない拓哉に、莉緒は若干イライラしている。

いや、この話の内容にだろうか。


「はぁ・・・。そもそも、そんなの知ってたんだけどね。」

莉緒はため息混じりでつぶやいた。


「知ってたの・・・?」

「うん。本人から言われたし。そもそも見てたらわかったよ、さすがに。」

「そうなんだ・・・。」

莉緒の話を聞いて更に俯いてしまった拓哉は、その後の話を続けそうな気配がない。


「あーもー、じれったいな!それ、私に教えて目的は何なの!?唯志の彼女なんだから、私の方から手を引くように誘導しろとかそういうこと!?」

「それは・・・、その・・・。」

「はっきりしないなぁ!自分でどうにもならないから、私を利用して諦めさせようとか、そういう魂胆なわけ!?」

莉緒は若干怒気混じりでまくし立てた。


「それも・・・、少し考えたよ。でも、光ちゃんは本当に岡村君が好きだと思うんだ。俺じゃなくて。だから・・・。」

「だから?」

「莉緒さん、岡村君と別れてくれないかな・・・?」

「はぁ!?」

拓哉の言葉に莉緒の怒りは頂点に達したようだ。


「何なのそれ!?自己犠牲のつもり!?そのくだらない自己犠牲に私も巻き込むの!?」

「・・・光ちゃん、頼れるのが岡村君だけなんだ。岡村君が必要なんだ・・・。俺じゃなくて。」

「だったら自分が頼れるような男になろうとか、そういうのないの!?女々しいこと言ってる暇があったら努力しなよ!?」

「俺だってそうしたいよ!!・・・でも俺が岡村君みたいになれるわけがないよ!俺は彼とは違うんだよ!!」

拓哉は下を見ながら大声を張り上げていた。

莉緒からは見づらいが、声の震えから泣いているんだろうことが伺えた。


「それで、唯志をひかりんに譲れって言ってんの?バカみたい。」

「俺だってバカなこと頼んでるのはわかってるよ!・・・でも、何もできないなら、せめて光ちゃんを悲しませたくないんだ・・・。」

拓哉は震える声で、何とか絞り出した言葉だった。


「バカみたい。残念だけど、そんなしょーもないことに協力する気はないよ。」

莉緒は吐き捨てるようにそう告げた。

そして帰る方向に向き直った。


「・・・ごめん。わかってるよ。」

拓哉は精一杯の謝罪を述べた。


「タク君、一応教えておくけどね。私と唯志はもう別れたよ。」

「・・・え?」

拓哉は驚いて莉緒の方を見た。

その目は涙に濡れ、真っ赤に充血していた。


「念のため言っておくけど、ひかりんもタク君も関係ないよ。私が決めたこと。」

莉緒はそう言うと、拓哉の前を去って行った。


----

一方の光。

佐藤の事務所に来ていた。


佐藤の事務所の一室。

そこにいたのは光の他には間宮と佐藤。

そして、今しがた唯志と恵が入室してきた。


「全員、そろいましたね。」

唯志がそろったのを確認して、光が真剣な表情で口を開く。

今日の招集は光が言い出したものだった。


「光ちゃんからの招集って珍しいね。どうしたんだい?」

佐藤が最初に話を振った。

佐藤は笑顔で話していたが、唯志も間宮も少し重い表情をしていた。


「あの、これなんですが--」

そう言って光は、一冊の雑誌を取り出した。

その雑誌を見て、それぞれがそれぞれに違う反応を示したが、内容は同じ。

全員が「ああ、知ってしまったか。」という思いで反応をした。


「これ、間宮さんのところの雑誌ですよね。内容は知ってますか?」

光は間宮に向かって問いかけた。


「・・・そうだね。知ってるよ。」

間宮は重い口で答えた。

「他の人は?」

光は周りを見渡しながら質問を続けた。


「知ってるよ。ここにいる人は全員知ってる。」

唯志が答えた。


「知ってたんだ・・・。みんなで、隠してたってことですよね?」

光は悲しい表情をしていた。


「違うよ、ひかりん!隠してたんじゃなくて、知っても良い事がないから言わない方が良いって--」

「でも!隠してたってことだよ!」

光は恵の言葉を遮って、叫んだ。


「・・・そうだ。隠してた。俺の意見で。」

唯志がそう言った。


「唯志君・・・なんで!?私・・・これじゃ、私のせいで未来は・・・。」

光は泣き出してしまった。


「それは違う。ひかりんのせいじゃない。」

唯志はなだめる様に、冷静に伝えた。

だが、光には届いていないようだった。


光が泣き止むまで、誰も声を出さなかった。

いや、出せなかった。


光がようやく泣き止んだ。

そして、真っ赤に目をはらした顔でまっすぐに唯志を見つめた。


「私、未来を変えたい。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る