第124話 それぞれの思惑

拓哉たちが嵐山に行ってから一週間ほど。

唯志と莉緒が別れてから一週間ほど。

気づけば十月も下旬に差し掛かろうとしていた、そんな普通の平日。


拓哉は御子と二人で夕食を摂っていた。

今日は光が珍しく遅くなる日なので、二人だけでの食事だ。

光がいないとなると、当然・・・


「コンビニ弁当も最初は良かったけど、飽きたな。」

御子が食べながら呟いた。

「しょうがないでしょ。光ちゃんまだ帰ってこないし。」

拓哉は何の感情もなさそうに返事をしながら食事している。


「吉田が作ったらええやん。その方がモテるんちゃう?」

御子は何気なくそう言った。

「無理だよ。」

「無理ちゃうやろ。やってみたらええやん。唯志だって出来るんやろ?」

御子は何気なく、世間話程度で言ったんだろう。


「俺は岡村君とは違う!」

拓哉は大声で否定した。

御子は珍しい拓哉の大声にびっくりしていた。

拓哉も悪いと思ったのか「ごめん」と謝った。


「でも、俺は岡村君みたいに器用に何でもは出来ない。出来ないんだよ。」

拓哉は拗ねているかのように吐き捨てた。


「あんた、何悩んでるのかは知らんけど、唯志と自分を比べてもしょーがないで。」

御子は察したのか、色を見たのか。

拓哉のフォローをしていた。


「・・・。光ちゃん、岡村君が好きなんでしょ?」

拓哉はぶっきらぼうにそう言った。

その一言で御子は何かを察した。


「あんた気ぃ付いてたんか。それで最近元気がなかったわけか。」

「ううん。全然気づいてなかった。嵐山で二人の会話を聞くまでは。」

拓哉は二人の会話を盗み聞きしてしまったことを白状した。

その上で光の気持ちを知ってしまったことを。


「あー。なんかごめんな。あんたに聞かせるつもりなかってんけど・・・。」

「いいよ。光ちゃんの気持ちは変わらないわけだし。」

相変わらず拓哉は拗ねたようにそう言っている。


「それで、あんたどうするんや?」

御子はいつの間にか食べ終わったコンビニ弁当を片付けながら、拓哉に質問した。


「何も。だって俺にできることなんて何もないから。」

この態度の拓哉に、御子はイライラし始めていた。


「あんたな。何拗ねてるんか知らんけどな、ちょっとは頑張りや。唯志に負けてると思うなら自分磨くとかあるやろ!?何女々しい事ばっかり言うとんねん、イライラするわ!」

気が付くと御子は拓哉に説教していた。

そしてその勢いのままに、自室へと帰って行った。


残された拓哉は一人呟いた。

「俺だって・・・。出来ることがあるなら何でもしたいよ。」


----

唯志宅。

唯志は一人、PCに向かっていた。


(集まった夏美の情報まとめは終わった。あとはいつ確認するかだが・・・)


「おーい、莉緒ー。」

唯志の声は虚しく響いた。


「・・・何やってんだよ、俺は。」

今までだったら莉緒がいた。

いつでも莉緒がいて、この部屋では狭く感じたし、いつでも賑やかだった。

だが、今は一人しかいない。

自分の作業する音以外が何もない。


(例の方の調査も大体終わった。推測通りなら・・・。だけど・・・。)


「こんなことして、何になるんだ。莉緒もいないのに。」


唯志は一人天井を見つめ、煙草に火をつけた。


----

今日の光は仕事で少し遅くなっていた。

珍しく店じまいまで仕事をお願いされたからだ。

それはそれでバイト代も増えるしで、快く了承したのは良いが、気が付くと二十時近くになっていた。


「二人ともちゃんとご飯食べたかなー?」

光は歩きながら呟いた。

光が作れる時は作っていたが、光がいない時はいつもコンビニ弁当の二人組だ。

拓哉に至っては、ほっといたらめんどくさがって食べない可能性まである。

ちなみに光は喫茶店で賄いとして食べてきている。


エントランスを通り、エレベーターで自室の階まで移動し、ガチャリと玄関のドアを開けた。


「ただいまー!」

二人の部屋から小さな声で「おかえりー」と聞こえた。

(二人とも部屋かー。珍しい。)

とか思いながら、光も自室に着替えに行った。


--

光がシャワーを浴び、パジャマに着替えてリビングに行っても誰もいない。

日常的に誰かしらはリビングにいるのだが。

主に御子が。

だが今日は誰も出てこない。


(二人ともなんかやりたいことでもあるのかな?)


光は不思議そうな顔をしていたが、誰もいないならしょうがない。

自分も部屋に戻ることにした。


部屋に戻ってベッドでゴロゴロしながらゲームをしていた。

唯志に借りていたやつだ。

そんな暇を持て余していたところ、ふと部屋の隅にある雑誌が目に入った。


「あ、そういえば店長に頼んで貰ったままだった。」

そう独り言をつぶやくと、ゲームを一時停止して雑誌を持ってきた。


「あ、これこれ。」

その雑誌の表紙には『急成長するAI研究!近い将来未来が実現!?』などと仰々しく煽り文句が書かれていた。

これが気になったのだ。

もしかしたら須々木の情報とか手に入るかもしれない。

そしたら唯志に報告する大義名分も出来る。

その程度の軽いつもりで貰ってきた。


「あれ?この出版社って間宮さんの・・・。」

光は手に取った雑誌を読み始めた。


その雑誌には確かに須々木の情報が載っていた。

須々木と記者の対談記事が載っているからだ。

そして--

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