第121話 嵐山

「おおー、着いたなー!・・・なんか思ってたより何もないぞ?」

御子は着くなり文句を言っていた。

「そもそも目的地はどこなの?」

拓哉が御子に尋ねた。

思えば何が目的で来たのかも聞いていない。


「そんなもんないで。この辺のスポットを案内してくれ。」

御子は何食わぬ顔でそう言った。

「案内って!俺も初めてきたのに!?」

拓哉は思わずツッコんだ。

「今日まで調べる時間あったやろ?下調べしてへんの?」

御子はきょとんとした顔で言っている。

何も悪気がないようだ。


(マジかよ・・・。)

拓哉は頭を抱えていた。

はっきり言うと、『嵐山』という地名以外の知識が無い。

ここに来て何をしたらいいのか、まったくわかっていなかった。


(なんて無責任な・・・。)

脳内でそんなことを考えている拓哉だった。

ただ、御子の言う通り、せっかく来るなら下調べする癖はつけた方が良さそうだが。


「まぁまぁ。こっちからだと渡月橋ってところ目指せば色々あるみたいだよ。とりあえずそこに行こうよ。」

拓哉と違って光は少しは下調べしていたようだ。

もしかしたら今調べたのかもしれないが。


「ほう。さすが光やな。吉田よりは役に立つ。」

御子が光を褒めていた。

(ほっとけ!あんたに言われたくないわ!)

と脳内でツッコみを入れた拓哉だったが、

「女子二人も引き連れて、下調べもしないなんて男としてどうなんや・・・。」

とため息をつきながら返されて、ぐうの音も出なかった。


--

渡月橋。

光の案内で何とかたどり着いた。


「この辺はなんか観光地らしくてええな!」

御子は興奮していた。

「うん、なんか良いね。お土産物屋さんもいっぱいあるね。」

光も楽しそうにニコニコしていた。


「おおー、なんやあれ!あれ乗りたいぞ!」

御子がはしゃぎながら指さしていたのは手漕ぎのボートだった。

「あっちには猿山があるみたい。そっちも行ってみたいかも。」

光はリアルタイムにスマホで調べている様だ。


「タク君は?何かしたいことある?」

光は拓哉に向かって微笑みながら言った。

(やべっ、めっちゃ可愛い。)

思わず照れて目を逸らしてしまう拓哉だった。


「えっと・・・。俺は特に・・・。」

拓哉は特に希望を出さなかった。

「なんじゃ、つまらん男やなー。」

その意見に御子がぶーぶー言っている。

(俺がなんか言ったところで、西条さんの意見が採用だろうに。)

と心の中で思った。

思っている中、なんかめっちゃ睨まれた。

心を読まれたようだ。


とりあえずは御子の意見が採用され、三人乗りの手漕ぎボートでのんびりとゆらゆらした。


その後は一旦昼食休憩となった。

せっかくなのでと、少しお高いが眺めの良いお店で蕎麦を食べた。


そして光の希望のモンキーパークにも行った。

登るのもそれなりに大変で、サルもめっちゃいた。


「そういえばこっちはなんだろ?」

光がモンキーパークから下山時、入り口付近にある神社が気になったようだ。

「神社やな。お参りしてく?」

御子がそう言い、三人で入っていった。


小さい神社だったが、歴史は長そうでとても雰囲気が良かった。

「ふむ。せや、吉田。うちらお参りしていくから、あんたそこのお土産物屋で土産選んできてくれへんか?」

御子が急にそう言い出した。

「え?俺が!?なんで!?というか誰の為に!?」

拓哉は意味がわからず、狼狽えながら疑問を連呼した。


「頼むわ。金なら、ほら。渡しとくから。」

そう言って御子に押し切られ、拓哉はしぶしぶ付近にあるお土産物屋へと出向いた。


「み、御子ちゃん。さすがに可哀そうじゃないかな・・・?」

光は拓哉の心配をしていた。

「ええねん。ちょっと邪魔やったから。・・・光、そこでお守りでも買おか。」

御子はそう言うと、お守りを物色し始めた。


「ほら、ここ縁結びの神様みたいやし。これでも買うたらどやろ?」

御子はそう言って縁結びのお守りを光に手渡した。

「え?えっと・・・。」

光は状況が呑み込めず、オロオロとしていた。


「ええからええから。うちも良縁があるようにって買うとこ。」

そう言うと御子は自分の分を購入した。

それに続いて光も自分の分を購入していた。


お参りを済ませ、桂川を見下ろせる場所で二人で並んでいた。

二人は特に会話をすることなく、景色を眺めていた。

そんな中、御子が口を開いた。


「それ、効果あるとええな。」

「ど、どうかなー。効果があるなら良いと思うけど・・・。」

光は複雑な表情を浮かべていた。


「・・・唯志やろ。光が好きなん。」


光は一瞬目を見開いて驚いたが、すぐに納得したように白状した。

「うん。さすがに御子ちゃんにはわかっちゃうよね。」

光は素直に答えた。

「まぁ光が惚れるのもしゃーないと思うよ。うちがあんたでも同じやったと思うわ。」

御子はまっすぐと桂川を見下ろしたまま話していた。


「それでこのところ元気ないんやろ?」

「・・・うん。別に付き合いたいとかそういうつもりはなかったんだけど。唯志君には莉緒ちゃんがいるし。・・・でも、会えないとこんなに辛いんだね。」

「せやろな・・・。」

「もし、唯志君に・・・。迷惑な女とか思われてたら・・・。嫌われちゃってたらって思うと・・・。」

光は少し、ほんの少しだけ、目から零れ落ちるものを抑えきれなかった。

そして御子はただただ、光の傍で光の話を聞いていた。



そしてもう一人。

御子がわざわざ遠ざけた拓哉が、すぐそばまで来ていて聞いていることに二人は気が付いていなかった。


そして拓哉は、二人の話を聞いてしまい、逃げるようにその場を去った。


「御子ちゃん、それに気づいてこんな小旅行計画してくれたんだよね。ありがとね。」

光が無理に笑っていることがわかってしまう御子は、自分も少し辛い思いだった。


--

「吉田ー、まだ選んでたんかー?」

御子が土産物屋で拓哉に声をかけた。


「そもそも誰に対する何なのかもわからないから選べないよ!」

拓哉は精一杯御子にツッコんだ。

さっき聞いた話を忘れようと必死だった。


「ごめんねタク君。押し付けちゃって。」

光は困り顔で拓哉に謝った。


「もう土産はええわ。今日のところはこの辺で帰ろか。また来たらええわ。」

御子がそう言い、誰も否定することなくそのまま帰ることとなった。


帰りは拓哉の心配に反して、意外とスムーズに帰ることが出来た。


ただ、行きと違って無言の三人は、それぞれがそれぞれに複雑な思いを抱えていた。

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