第120話 三人

ある日の夕刻。

三人で食卓を囲んで食べるのも慣れてきた。

強いて言えば、たまに御子が遅くなる程度で、大体は三人で食事を摂っている。

今日の夕食は光の作ったシチューだった。

慣れというのは怖いもので、働き始めるまでという条件だった光の家事だが、いまだに料理担当は光のままだった。

とはいえ本人もまんざらでもないようで、楽しんで料理をしている様だ。


「このシチュー美味いな!さすが、光!喫茶店で働いてるだけのことはあるな!」

御子のお口に召したようで、上機嫌で感想を述べていた。

「はは、喫茶店でシチューは作らないよ。これは唯志君に教わったやつだよ。」

光はシチューを口に運びながらそう答えた。

「あいつ、料理も出来るんかい。」

「あー、そう言えば御子ちゃん知らないっけ?唯志君、何でもできて凄いよ。」

そんな他愛もない会話をしながらも、食事を続けていた。

ちなみに拓哉は会話に入ることが出来ず、黙々と食事を摂っていた。

(光の手料理なので、これはこれで幸せらしい。)


「でもね、唯志君も莉緒ちゃんも、最近会ってないんだよね。」

光は露骨にしょんぼりしながら言った。

確かに莉緒とは先日の以来、唯志に至っては引っ越しの日以来会っていなかった。

莉緒とはyarnなどで頻繁にやり取りをしている様だが、唯志とは何か相談事がある時くらいで、ほとんど絡みが無くなっていた。

いの一番に戸籍のことを報告したかったが、それもyarnでの簡単なやり取りだけで、ちゃんとお礼も出来ていない。


「唯志君、もしかして私がめんどくさくなっちゃったのかな・・・?」

光は食事を運ぶ手を止め、俯いてしまった。

「なんでじゃ。単に用事がないだけやろ。それにうちも光も土日が仕事やん。」

と、御子は特に気にすることなく言っている。

「まぁ、二人と会ってないのは俺らも一緒だし・・・。」

拓哉は拓哉なりにフォローを入れた。

いや、これは別の意図もありそうだが。


「うん・・・。だと良いんだけど・・・。」

光はしょげたままだった。

「あんた働きすぎやねんて。せや、今度休み合う日に遊びに行こうや。嵐山行ってみたいねん!」

「え、嵐山?京都だっけ・・・?いつ行くの?」

光は御子の言葉に顔を上げて反応した。


光と御子は自分たちの仕事のスケジュールを相談した結果、次の水曜日に休みが合うことがわかった。

「よし、水曜日やな。吉田、お前も休みとれ。一緒に行くぞ!」

「ええ!?急だからどうだろ・・・。てかなんで嵐山?まだ紅葉でもないよね?」

「行ってみたいからや!紅葉やと人多いやろ?今なら光の気分転換にもなってちょうどええやん。」

「えっと、気を使わせてごめんね御子ちゃん。・・・平日だと莉緒ちゃんも唯志君も誘えないよねぇ。」

そう言ってまた光は少し落ち込んだ顔をした。

どうせ行くなら一緒に行きたかったんだろう。


(これ、思ってたより重症そうやな。)

光を見ていて御子は思った。

御子は御子なりに気を使っているようだ。


一方の拓哉は・・・

(光ちゃんと嵐山か。是非とも休みを取ろう。楽しみだ。)

もうすでに楽しみで夢いっぱいな気分になっていた。


--

無事に迎えた水曜日。

拓哉の休みもちゃんと取れた。

天気は晴天。

まだそこまで冷え込む時期でもなく、むしろちょうどいい気温。

ハイキング兼観光としてはこれ以上ないほど良い条件がそろった日だった。


「楽しみだね~。どんなところなんだろう?」

なんやかんやと光は楽しそうにニコニコしていた。

「うちも初めてや!いずれデートで来るためにも、色々勉強やな!」

御子もそわそわしているので、恐らく楽しみなんだろう。


そして、当然ながら拓哉も初めてだった。

そのためか・・・


「え、これどこから乗るのー?というか、駅どこー?」

光は阪急梅田駅がわからず、スマホの地図を見ながらキョロキョロしていた。


「えーっと・・・。多分こっちだと思うんだけど・・・。」

そういう拓哉も阪急梅田駅は利用したことがない。

見るからに自信なさげに答えている。


「なんや、吉田じゃやっぱり頼りにならんな・・・。」

御子は全く調べる気がない。

拓哉の頼りなさにため息をついて、やれやれというジェスチャーをしている。


「そう思うなら西条さんも調べてよ!」

拓哉はちょっとイラっとして文句を言った。

「そういうんは男の仕事やろ?エスコート頼むで。」

一方の御子は全く持って気にしてない。

「うー。こういう時いつも唯志君頼りだったからなぁ。」

そういう光はまたもしょんぼりしていた。


光が現代に現れてから四か月。

色々なところに行ったが、こういった事態になったことはなかった。

それは基本的に唯志がエスコート役をしていたから。

ここでも唯志のありがたみが身に染みた光だった。


とはいえ三人 ( 正確には二人 ) は、何とか駅の場所と乗る電車を探し当て、嵐山に向けて出発することまでに成功した。


「よっしゃー行くでー!」

電車の乗車口が開くと御子が陽気に乗り込んでいった。

一方残りの二人は、出発前から結構な体力を消費してしまった。


(これ行きは梅田だからまだ良いけど・・・。帰りは大丈夫だろうか・・・?)

拓哉がそんな不安を胸に抱えている中、電車は動き出した。


--

小一時間ほど経過し、阪急嵐山駅。

三人は ( 正確には二人 ) 苦戦しながらもなんとかたどり着いた。

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