第119話 それぞれの日常

今年の夏は長引いた。

もう十月に入ったというのにいまだに少し暑い。

気が付いたら光が現代に現れてから四か月も経過していた。

これまで慌ただしく過ごしていた関係者面々だったが、このところはごくごく普通の日常を過ごしていた。


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「光ちゃーん、お会計お願いー!」

「はーい、今行きまーす。」


「光ちゃん、こっち注文良いー?」

「はーい、少々お待ちくださーい。」


日曜日のお昼時。

混雑している喫茶店で光は慌ただしく駆け回っていた。


戸籍を取得してすぐ、光はさっそくとばかりにアルバイトを探して回った。

近所の個人経営の喫茶店。

人の良さそうな夫婦が切り盛りしている、雰囲気もアットホームな感じに惹かれ、アルバイト募集の張り紙に飛びついた。


働き始めて二週間ほど経っただろうか。

光の性格も見た目もあり、あっという間に看板娘のようになっていた。


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十四時ごろ。

お昼時の混雑も落ち着き、やっと一息がつける穏やかさになった。


「やっと落ち着いたねー。光ちゃんがいてくれて本当に助かるよー。」

中年女性が光に声をかけた。

「いえいえ、こちらこそ働かせてもらって助かってます。」

光は疲れなど見せず、笑顔で会話していた。

「今のうちに休憩をって言いたいところだけど・・・、そろそろ・・・。あ、ほら来た!」

「?」

光は何のことかわからなかったが、次の瞬間入り口の扉がカランカランと音を立てて開いた。


「いらっしゃいませー。ほら来たよ、光ちゃん。

「いらっしゃいませー・・・ってタク君かー。タク君は彼氏さんじゃないですよー。」


光が働き始めてからというもの、土日のお昼過ぎ・・・混雑が終わった頃に拓哉が現れるのは日課になっていた。

元々一人で外食などする人間ではないのだが、足繫く通っている。


「うちもおるでー!」

拓哉の陰から御子がひょこっと出てきた。


「あ、御子ちゃん!珍しいねー、いらっしゃいませー。」

「光が働いてるの、見に来たでー。」

今日は御子も一緒のようだ。

昼食を食べに出かけようとする拓哉を無理やり捕まえて付いてきた・・・そういう光景が目に浮かぶ。


光も戸籍を取得し、無事に働き始めた。

最初はどうなることかと思った三人での共同生活だったが、存外うまくいっている様だ。

最近の三人はこうして、何もない普通の生活を送っていた。

未来のことなどの気になることは多々あれど、この穏やかな生活も悪くない。

拓哉はそう思っていた。


--

拓哉と御子の注文を運んだあと、忙しなく光は働いていた。

この人が少ないうちに掃除などを済ませてしまうようだ。


「せっかく知り合いが来てるんだし、少しくらい雑談してても良いんだよ?」

と、店長が光に声をかけた。

「あ、でも雑誌とか捨てるの貯まってきてますし、先に片付けちゃいますよ!」

光は根っからの働き者のようだ。


「ん、あれ・・・?これって。」

光は客が置いていった雑誌の一冊が気になった。

「てんちょー、この辺の雑誌何冊か貰っても良いですかー?」

「良いよ良いよ。好きに持って行って。」

そういわれた光は、女性向けのファッション誌と、今まで読んだこともないを手に取り、スタッフルームに片付けた。


--

同日。

日曜日の昼間だというのに唯志は引きこもってPCと向かい合っていた。


数日前に佐藤から新たな『夏美さん候補』のリストを入手した。


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「これ以上は厳しい。夏美さん探しはここまでと思ってくれ。」


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佐藤にはそう付け加えられた。

もちろん唯志も無理な願いなのは承知なので、快く了承した。

むしろ思ってた以上の収穫があったほどだ。

恵も多少手伝ったらしい。

あっちにも改めて礼を言わないとな、と思っていた。


唯志は佐藤が集めたデータをもとに、『夏美』の分布図を作っていた。

作りながら、佐藤との会話が頭を過る。


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「そもそも、山田の証言と間宮の情報から須々木の存在が確定した。夏美探しを続ける意味はあるのかい?」

佐藤は今後も『夏美』探し続ける意味がないのではないかと思っている様だ。

「あ、確かに!元々ひかりんが未来人かどうかの判別の為だったよね!?」

さすがの恵でも佐藤の言葉で意味がわかったようだ。


「まぁ元々の主旨は・・・。でも他にも目的はありますよ。そしてそれがかも知れません。」


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夏美探しは無意味かもしれない。

そんなことは唯志だってわかっている。


でももし、万が一見つけることが出来たら。

それが最後の手段になり得るかもしれない。


「それと・・・。これか。」

唯志は間宮から貰った雑誌のデータに目を通す。


「これはもしかしたら・・・。ひかりんが現代に来たのは偶然じゃなくてなのかも知れないな・・・。」


唯志は思ってた以上のことの大きさに、ため息を漏らした。


「とにかく、最後の手段だけは確保しておかないとな。」

そう呟いて作業を続けた。


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一方、同日の莉緒。

唯志の休日だというのに珍しく自宅の方にいた。


「よし!これでよしっと!」

何やら封筒に書類を入れているところだった。


「さて、これを出しちゃえば終了!いやー、莉緒ちゃん頑張ったー。」

莉緒は柄にもなく独り言を繰り返していた。


「私、これ、出しちゃうよ。・・・ごめんね、唯志。」


莉緒の独り言は、暗い一人の部屋で、むなしく響いた。

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