第118話 光と莉緒

「--莉緒ちゃん、二人で話したいことがあるの。」


「お、どしたどした?この莉緒ちゃんが何でも聞いてあげよう。」


光の真剣な表情に対して、莉緒はいつも通り笑顔だった。


「莉緒ちゃん・・・。真面目な話なの。」

光は真剣な表情で、どこか寂しげでもあった。


「あらら。ふざけていい雰囲気じゃないね。で、改まってどしたの?」

さすがの莉緒も空気を読んで顔を引き締めた。

だが、莉緒が真面目に聞こうとすることで、光は更に話し出しづらくなってしまった。


「えっと・・・、その・・・。」

光は言い出しづらくてもじもじしている。

そして莉緒は、光が話し出すまで待っていた。


--しばらくの沈黙。

そしてようやく光が口を開いた。


「あの・・・。ごめんなさい!」

ようやく絞り出した光の言葉はこれだった。


「え、どしたのいきなり謝って。」

いきなり謝られた莉緒は、どうしたものかとオロオロしていた。


「あの・・・、私・・・。」

「うん。」



「唯志君のことが好き!好きに…なっちゃった。」



光は俯きながら、それでいてはっきりと大きな声でそう言った。


「・・・うん。それで、どうして謝ったの?」

「え、あの・・・。唯志君は莉緒ちゃんの彼氏さんだし・・・。二人ともにお世話になってるのに、こんなことになって・・・。」

光は指をもじもじとさせながら絞り出すように話していた。

恥ずかしくてか、申し訳なくてか、莉緒の方は一切見れなかった。


「うん?謝ったのってそれで?」

「え、うん、そうだよ。」

今度はちゃんと莉緒の目を見て言えた。

その目は今にも泣きだしそうなほど赤く充血していた。


「なんだー。それだけかー。てっきり、唯志を奪うぜって宣戦布告とかなのかと思った。」

「え、違うよ!そんなことしないよ!」

光は全身を使って全力で否定した。


「そなの?好きなのに?」

「うん。唯志君と莉緒ちゃんお似合いだし。別に付き合いたいとかじゃないの。だけど、莉緒ちゃん友達だし、お世話になってるのにその彼氏を好きになるなんて、すごく悪いことしてるって思って申し訳なくて・・・。」

光は思っていることを思っている通りに伝えた。

言い訳でもなんでもなく、心からそう思っていた。


「ははは。ひかりんは良い子だねー。」

「え、え?なんでそうなるの?」

光は意味がわからずきょとんとしていた。


「世の中にはどんな手を使ってでも、友達の彼氏だろうと盗っちゃおうとする女の子なんていくらでもいるからねー。」

「そんなことしないよ・・・。」

「あはは。真面目だね。なら謝る必要なんてないんじゃん?」

「え、でも・・・。」

光はいまだに申し訳なさそうな表情だ。


「人を好きになるのに誰かの許可とかいらないよ。なっちゃったもんはしょうがないし。んで、それでもひかりんは友達だよ。」

そう言って莉緒はニコッと笑って見せた。


「莉緒ちゃん・・・。でも、私本当にもうしわけ--」

「はい、ストップー。そこまでー。もう気にしなくていいって。」

莉緒は光の言葉を遮った。


「気にしなくて良いって。あたしは気にしないし、私はひかりん好きだよ。」

「莉緒ちゃん!」

光は嬉しくて莉緒に抱き着いていた。


「おー、よしよし。辛かったでしょ、そんなことで悩んで。少しはすっきりした?」

「うん、莉緒ちゃん本当にありがとう。私も莉緒ちゃん大好きだよ。」


--

光が落ち着いて、二人はリビングで並んで座っていた。

珍しく莉緒が出してくれた紅茶を飲みながら。


「それで、唯志には告白するつもりなの?」

「え!?しないよ!」

光はこれも全力で否定した。


「やっぱり唯志君には莉緒ちゃんだと思うし、迷惑になるし・・・。」

「そかなー。唯志が誰を選ぶのかも、唯志の自由と思うけどね。」


「で、でも唯志君は莉緒ちゃんと付き合ってるんだよ?」

「私の方が先に出会っただけ。それってズルくない?」

莉緒はひょうひょうとそんなことを言っている。


「だから、奪えるなら奪っても良いよ?もちろん、簡単に譲る気はないけどね。」

そう言って莉緒は笑顔を見せた。


----

光が落ち着いて、少しだけ話をした。


「私、奪うとかそういう気はないからね!これからも仲良くしようね、莉緒ちゃん!」


光はそう言い残して、拓哉たちのいる自宅へ戻っていった。

そして莉緒は一人唯志の部屋のリビングで寛いでいた。


「まぁ、こうなるだろうとは思ってた。必然的だよね。」

莉緒は光と出会ってからのことを思い出していた。


「ひかりんが唯志に惚れてんの、気づかないわけないじゃん。いつも唯志のこと見てるんだもん・・・。」

実は莉緒は、以前から気づいていた。


花火くらいからだろうか。

いや、もう少し前からか。

光の唯志を見る目が乙女のそれになっていた。

この頃くらいは光自身も自覚していなかったが、同じ男に惚れているからだろうか。

女の勘だろうか。

こうなる未来は予想していた。


「唯志、あんた気づいてる?」

莉緒は誰もいない天井に向かって話しかけていた。


「ひかりんのこと。・・・そして私のこと。」

莉緒は「ふぅ」とため息をついて俯いた。


「ここまではわかってた。そしてこの先もわかってる。・・・多分、それで良いんだと思う。」


いつもの唯志の部屋で、いつもと違って唯志のいないこの状況で、莉緒は一人何かに覚悟を決めた。

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