第114話 引っ越し

九月に入ったとはいえ、いまだに暑い日が続いている。

今年の夏は暑い日が長く続きそうだ。

そんな本日は九月四日。

拓哉と光、そして御子の引っ越しの日だ。


拓哉と光の荷物も運びこまれ、慌ただしく引っ越し業者が右往左往している。


「ほんとに見てるだけで全部終わりそうだねー。」

光はその光景を見ながらつぶやいた。

「うん、俺たち邪魔なくらいだね。」

拓哉もボケーっと突っ立って返事をしていた。


「それはこっちじゃ。それはあっち!」

慌ただしく指示をしているのは御子だった。

何故か引っ越し業者の陣頭指揮のようなことをしている。

仕切りたいんだろうか。


--

十四時過ぎにはすべての荷物、家具などが運び込まれ、配置も終わっていた。

さすがに単身者三人だと荷物も多くはないから早いようだ。


「え、ナニコレ!?」

自分の部屋に割り当てられていた箇所を目の当たりにした光が、目を見開いて驚いていた。

そこにはベッド、衣装ダンスはもちろんのこと、テレビやテーブルまで完備されていた。


「どや!?足りないもんあるか!?」

「たっ、足りないどころか、貰いすぎだよ!」

光は両手をぶんぶん振って否定した。


(よく見ると全部それなりの品・・・。いくらかかったんだこれ?)

拓哉は御子の富豪っぷりに若干引いていた。


「御子ちゃん、いつか必ずお返しするから!」

「ええねんええねん。光先週誕生日だったんやろ?そのお祝いも込みや。」

どこで知ったのかは謎だが、大方唯志あたりから声がかかったんだろうと拓哉は考えた。


ピンポーン


そんなやり取りをしている間に唯志と莉緒が訪ねてきた。


--

「うわー、やっぱりすごいねーここ!」

「金持ちだなー。あ、これ引っ越し祝い。って言ってもしょぼいもんだが。」

そう言って唯志は観葉植物を手渡してきた。


「ちょうどええわ。唯志らもお腹すいてないか?なんか宅配でも頼んでみたいねん。」

「いいねー。何頼むの?」

「せっかくやし、豪勢に寿司とかどや!?」


--

注文した宅配寿司が届くと、コンビニで買ってきたお酒を飲みながらワイワイと話していた。


(しかし、この人数だとすごい量だな・・・。何人前・・・、何万円するんだろ?)

拓哉は何とも庶民的なことを考えていた。


「御子ちゃんはこれからどうするの?一般常識学びに来たんだよね?」

「うーん、とりあえず知り合いの伝手で、占い師をやることにはなってんねんけど・・・。それ以外はノープランやなー。」

カクテルを飲みながらしみじみと話していた。


「それ以外って・・・、結婚相手探しだっけ?」

光もほろ酔いながら話を続けた。

「せやなー。良い相手がいればやけど。唯志あんたどうや?」

「却下!」「断るー。」

莉緒と唯志が同時に答えた。

とはいえ、二人とも笑顔なので怒っているわけでもなさそうだ。


「まぁそう言われるのはわかってたけどなー。とりあえずそれも含めて色々やってみるわ。」

「まぁほどほどに頑張れ。」

唯志がなんとも気のない激励を送った。


「光はどうするねん?」

「え、私?」

「せや。今後どうするんや?」

「うーん、とりあえずもう少しで戸籍取れそうだし、戸籍取れたら私も働くよー。」

光も光なりに考えはあるようだ。


「未来に帰る方は?」

莉緒が首を傾げながら聞いた。

「そっちも一応続けるけど・・・。とりあえず今は生活を安定させることかな。」

「そっかー。確かにその方が良いかもね。」

莉緒も何か納得したように頷いていた。


「吉田は?」

「・・・え?」

唯志に急に話を振られ、拓哉は驚いた。


「お前はどうすんの?これから。」

「どうするも何も、今までと一緒だけど・・・。」

なんとも煮え切らない答えだった。


「現状維持ってことか?この機会に何か始めるとか、動くとかは?」

「えっと・・・、どういうこと?」

拓哉は意味がわかっていない様子だった。

いや、唯志は光のことについて聞いているんだろうとなんとなくわかったが、本人を目の前にして答えることは出来なかった。


「質問に質問で返すなよなー。まぁお前らしいけど。」

そう言うと唯志は手に持ったワインを一気に飲み干した。


その様子を御子は遠目に眺めていた。

(ふうん・・・。吉田はともかく、みんな色々悩んどんのやな。)


--

気が付けばいつものように莉緒と光、そして拓哉でゲームをしていた。

今日は全国を電車で回り、物件を買い漁るあのゲームをしている様だ。


そんな三人から少し離れたリビングの隅。


「--御子の色を見る能力で、『親子』とか『親族関係』ってわかるか?」

唯志は御子に質問していた。


「せやな。例えば保育園で、このおじいちゃんの孫はどれだ?ってされても百パーセント当てれるで。」

「やっぱりか。それは写真では厳しいか?山田の時も写真だけじゃとか言ってたけど。」


「写真じゃ情報量が限られるから、余り色が見えへんねん。確実とは言われへん。」

「そうか・・・。なら動画なら?」

「動画の質と量によるな。少なくとも写真よりはわかるけど、本人に会うよりはやっぱり精度が落ちるで。」

「なるほどね・・・。」

そう言って唯志は複雑そうな顔をした。


「なんか知りたいことでもあるんか?」

「今はまだない。ただ、後々出てくる。」


唯志はそう言って、グラスにワインを注ぎ飲み直し始めた。

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