第113話 光の意思
光はマンションの外に出て気づいた。
仮に唯志がたばこを吸いに来ていたとして、どこにいるかがわからない。
この時代では喫煙できる箇所が限られている・・・と唯志から聞いた。
(どこにいるんだろ?莉緒ちゃんに聞いておけばよかった・・・。)
光はどこを目指したらいいのか、わからなかった。
しかしそんな心配はあっさりと杞憂に終わった。
マンションのエントランスから出てすぐ、近くにあるコンビニの前に唯志がいた。
「唯志君!」
光は手を振りながら駆け寄った。
「あれ、ひかりん。どうした?本日の主役がこんなところに来て。」
唯志は意外そうな顔をして驚いていた。
「えへへ。負けちゃったし、唯志君いなかったから様子見に来た!」
光は笑顔で答えた。
「たばこ吸ってんの見に来ても良いことなんてないぞ?」
「そかな?唯志君一人で寂しいかなって。」
光はニコニコ笑っている。
「はいはい。何か話でもあるんだろ?」
「あれ?バレちゃった?さすがだねー。」
光はてへっと笑った。
「唯志君、今日のパーティー・・・、唯志君が言い出したんじゃない?」
「さて、どうだったかな。」
「もー、すぐはぐらかす。よくないんだー。」
「だとしたら?」
「あ、えっと・・・。お礼言いたくて。私本当に嬉しかった。」
光はうつむきながら言った。
少し顔を赤らめている様だが、唯志の位置からは見えない。
「お礼ならみんなに言ってくれよ。みんなで準備したんだから。」
「う、うん!わかってるよ!・・・あとね。」
「うん?」
「このプレゼント・・・。」
光は唯志から貰ったラバーストラップを手に持っていた。
「これ、いちば--」
「おっと、そこまで。」
光が言いかけたところで、唯志に声をかぶされた。
「?」
光はきょとんとしていた。
「そういうのは言わないのがお約束。みんなのプレゼントが嬉しかった。それで良いじゃん?」
「えっと・・・、そうだよね。ダメだね、私。」
光は露骨にしょんぼりしてしまった。
「まぁでも、それだけ喜んでもらえたなら俺も嬉しいよ。」
そう言って唯志が微笑みかけると、光の表情もぱっと明るくなった。
「それよりも・・・。ひかりん今はどう思ってる?」
唯志は真剣な表情で光に問いかけた。
「えっと・・・?」
「『まだ帰りたい』って意味。」
光はドキッとした。
今まさに自分でも悩んでいることだからだ。
「えっと・・・。その、わかんない。」
光は素直な自分の気持ちを口にした。
「そっか。・・・そうだよな。」
唯志も何かを察しているのか、多くは口にしなかった。
「あの、唯志君!・・・もし私が・・・。」
光は絞り出すように唯志に訴えた。
「うん。」
唯志はただただ光の目を見て聞いていた。
「あの・・・。ううん、何でもない・・・。」
光はその先の言葉を続けなかった。
(言えない。言えないよ。)
二人の間には気まずい沈黙の時間が流れた。
耐え切れなくなったのか、口を開いたのは唯志だった。
「それより、来週はいよいよ引っ越しだっけね。俺も莉緒も一応手伝いに行くよ。」
「ほんと!?嬉しい!」
光は満面の笑みで唯志を見上げた。
「ああ、ほんと。さ、いつまでも主役が外にいたら締まらないし、戻りな。」
そう言って、唯志は光に部屋に帰るように促した。
「唯志君は帰らないの?」
「もう少し吸ったら帰るから。先帰ってて。」
「でも私鍵とかないし・・・。」
そう言って光は上目づかいで唯志を見つめた。
「わかったよ。俺も帰るから。」
「えへへ、やった!」
光は見るからに嬉しそうだ。
そうして二人は部屋に戻った。
--
更に小一時間くらい経っただろうか。
一同は相変わらずゲームをしている。
今はぷにぷにした物体を引っ付けて消す。
所謂落ちものパズルゲーで対戦していた。
「だー!勝てない!」
「強いねー、タク君。」
「ふふふ・・・。」
拓哉は連戦連勝でニヤニヤしていた。
拓哉はこのゲームに自信があった。
次に強いのは恵だが、拓哉とだと天と地ほどの実力差があった。
ちなみに次いで莉緒だが、莉緒と光と野村は似たり寄ったりな実力だ。
「むー、タク君相手じゃ勝てないな。唯志君、見てないで相手してよ。」
恵は勝てそうな相手を探して、見ているだけだった唯志に声をかけた。
「あ。」
拓哉と莉緒が同時に声を出した。
「?」
光は二人が同時に声を出すのが珍しく、不思議そうにしていた。
「俺?良いけど・・・。」
そう言って唯志はコントローラーを握った。
「ふふふ、恵さんの実力を思い知らせてあげよう!」
恵は上機嫌で対戦を始めたが--
「ちょ、強すぎるんだけど!!唯志君なんなの!?」
ほんの二回程対戦しただけで恵は絶叫していた。
「あーあー。唯志、そのゲーム得意だから見てるだけだったんだよね。」
と莉緒が言えば
「そもそもそのゲームでタクを鍛えたの岡村君だしねー。」
と野村も続いた。
「いまだに勝てないけど・・・。」
と拓哉はボソッと言っている。
「そうなんだ?唯志君、タク君の師匠なんだね。」
と見ていただけの光は楽しそうだった。
「まだやるかい?いくらでも相手するけど。」
「むきー!勝てるかー!!」
恵の絶叫はむなしく響き渡った。
--
時刻はすっかり夜になっていた。
いつの間にか用意されていた夕食 ( 唯志が作った )も食べ終わり、すっかり談笑モードになっていた。
「そろそろいい時間じゃない?」
口火を切ったのは意外にも拓哉だった。
「うーん、名残惜しいけど、余り長居すると迷惑だよね。」
光もそれに同調した。
その二人の言葉を皮切りにそれぞれが帰り支度を整え、それぞれに唯志宅を後にした。
--
帰り道。
阪神電車からは降り、拓哉と光二人きりだった。
「ねぇ、タク君。・・・私もそろそろはっきりしなきゃだよね・・・。」
拓哉は一瞬何のことかわからなかった。
「はっきりって・・・、未来に帰ること?」
「うーん・・・、それもあるけどね。それも含めてかな。」
「えっと・・・、どういう意味かな?」
拓哉には光の言っている意味がわからなかった。
「あはは、わかんないよね。変なこと言ってごめんね。・・・戸籍取るころにははっきりさせたいな。」
そう言って光はぎこちなく笑った。
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