第109話 山田の目的

「さっさと話せ。」

山田は更に一歩近づき凄んだ。


「唯志君・・・」

光が心配そうに見つめている。


「まぁとりあえず落ち着いて下さいよ。すぐには『動けないでしょ』?」

唯志はそう言うと右手に持っている何かを見せた。


「あ、それ、スタンガン。」

光がボソッと口にした。


「莉緒のやつ、念の為借りといて良かった。結構効くでしょ?」

唯志はペッと口から血を吐き、そう言ってニヤッとした。

どうやら殴られた一瞬で、代わりにスタンガンをお見舞いしたようだ。


「声も出さないのは流石としか言いようがなかったけど。」

「そんなもんで俺がビビるとでも思うのか?」

山田は相変わらず鋭い目つきをしている。

全員が初めて感じる気配。

これが『殺気』というやつなんだろうか。


「ちょっと話をしたいだけですよ。残念ですが、須々木久寿雄の事は知らない。」

「じゃあ何故須々木を知っている。『この時代』ではまだ無名のはずだ。」

「それ。『俺も未来人』。百年後から来た。あんたもだろ?」


「!!?」

山田と光と拓哉が驚きの表情を浮かべた。

光と拓哉は別の意味でだが。


「そういうことか・・・。ならお前の狙いも須々木か?」

山田が何か納得したように唯志に質問した。

「おあいにくだが、俺は別に。あんたが須々木狙いなのは色んな要素から推理しただけ。」

「推理?」

「そう。御子からある程度話は聞いてたから。・・・多分あんたは六十年後くらいの未来人じゃないのか?」

「・・・」

山田は沈黙していた。

そして唯志以外の一同も口を出せなかった。

唯志の考えがそこまでに至っていたことにも驚いたが、何より山田の雰囲気に威圧され声も出せなかった。


「あんたの邪魔をする気は無いよ。ただ、あんたも未来人ならタイムスリップの原因とかに心当たりがないか聞きたかっただけ。」

「・・・ないな。だが、これは神が俺に与えたチャンスだと思っている。」

「『復讐の』?」

「・・・」

山田は何も答えなかった。

他の全員は息を呑んで見守っている。


「須々木を狙うつもりは無いんだな?」

「ないね。『百年後から来た俺』には須々木に対する特別な感情は無いんでね。」

「なら邪魔だけはするなよ。もう時間も限られてる。」

「時間?」

「須々木がAIの研究について発表したのは、確か今年だったはずだ。」

「なんであなたがそれを知ってる?まだ生まれてないだろ。」

「話す必要は無い。やつの研究が世に出る前に・・・。」


山田はそう言い残すと、信号が変わると同時に西成側に消えていった。


--

「あー、痛てぇ。」

唯志が頬を撫でていた。

「大丈夫?口切った?」

莉緒が心配そうに横に寄り添っている。

「唯志君。」

光も同じく唯志のそばに駆け寄って心配そうにしている。


(動けなかった・・・。あんな人間初めて見た。・・・正直怖かった。)

拓哉はまだ震えていた。

人生で初めて感じた、殺されるかもしれないという恐怖に。


(あんな人間に対して、なんで普通に話が出来るんだ・・・。)

そしてその人間と普通に会話をしてのけた唯志にも驚いていた。


「唯志、ごめんな・・・。怪我してない?」

御子が申し訳なさそうに唯志に謝った。

「別に御子が謝ることじゃないだろ?ちょっと口切っただけだし、心配すんな。」

唯志はそう言って笑って見せた。


「・・・あんた、こうなるの分かってて割って入ったん?」

先ほどの唯志の行動について、御子が質問した。

「・・・。さて、どうだったかな?」

唯志は笑って話を濁した。

拓哉と光に気を使ったんだろうか。


「あの・・・、唯志君・・・。」

何も答えそうにない唯志に、今度は光が問いかけていた。

「どした?ひかりん。」

「なんで、未来人って嘘ついたの?・・・それも私の為?」

「・・・。」

唯志は何も答えずにいた。


「あの・・・、私の為にだったら・・・、その・・・。唯志君が危ない目に遭うのは、止めてほしいな・・・。」

光は今にも泣きだしそうな顔で唯志を見つめていた。


「・・・。別にひかりんが責任感じなくて良いって。あの状況ではああ言うのが一番良いと『俺が』思っただけだから。」

唯志はそう言って、また笑って見せた。


光も莉緒ほどではないが、なんとなくわかってきていた。

(唯志君、嘘吐く時いつも同じ作り笑いだよ。)

だが気を使ってそう言ってるんだろうとわかったから、それ以上追及はしなかった。


「あのさ、岡村君。」

恐怖心からずっと呆けていた拓哉がようやく口を開いた。

「なんだ?」

「西条さんと会った時、『山田の件からは手を引こう』って言ってたのは、こういう意味だったの?」

拓哉が珍しく真剣に唯志に向き合って質問した。

「・・・そうだな。ここまで的確に当たるとは思ってなかったけど、予想はしてた。」

「予想って・・・。山田さんが未来人まではみんな思ってたけど・・・。」


拓哉の疑問は尤もだったし、誰もが思った。


「唯志君、どこまで知ってたの?」

光は不安そうな顔で唯志に訊ねた。


「知ってることはみんなと同じ。ただ、俺は御子の話と状況から『最悪の場合』を想定してみただけ、かな。」

「最悪の場合?」

光は言っている意味が分からず、そのまま質問を返した。


--

唯志は念の為と、一応の説明をした。

記憶を失うほどのショック。

記憶が戻った後の『人でも殺しそうな感情』 ( 御子談 )。

未来人。

行方をくらます目的。

男を探しているなどの今日の話。

そして、世界同時AI自壊事件と須々木久寿雄。


違う可能性ももちろんある。

だが、そうかもしれない可能性もある。

細い糸だが、全てが繋がる。

だからカマをかけてみた。


そう言うことだった。


そして--


「もしこれら全てが繋がるなら、相手は人を殺す為に覚悟を決めた人間だ。そんな人間相手に、俺らが何か出来るか?」

唯志の意見に、誰も何も答えなかった。

いや、山田本人を実際に見た上で、答えることなんてできなかった。


誰も何も出来ないことだけはわかったから。

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