第108話 山田
御子の言葉に全員が反応した。
「あれは・・・、『山田』じゃ。」
道路を挟んで西成の側にいる、こちらを凝視している男性の事だ。
「あれが、『山田』!?」
最初に言葉を発したのは唯志だった。
「莉緒。」
「ん?どした?」
唯志はすぐさま莉緒に何かしらを話しかけていた。
「見た目の雰囲気がだいぶ変わっとるけど・・・、間違うてへん。山田やで。」
御子が答えた。
道路を挟んで、もっと言うと信号機で隔たれた横断歩道の先に探していた『山田』がいた。
御子から確定のお墨付きをもらったところでそれぞれが思考を巡らせた。
拓哉はすぐさまに考えた。
(あれが山田さんなら、ここで良い感じに情報を引き出せば光ちゃんも見直してくれるかも!?)
そして光も考えた。
(あれが山田さんなら、話をすれば何かわかるかも!!)
同じくして御子も考える。
(山田なんは間違いないんだけど・・・。見た目も変わりすぎとるけど、それ以上に『凄み』が増してる・・・。何があったんや?)
・・・最後に唯志は思う。
(あれが山田だとしたら、俺の『直観』は間違ってなかった。アレは・・・あの『目』はヤバい。)
それぞれがそれぞれに思いを馳せた。
その間に信号が青へと変わった。
『山田』と称された男性はこちらを凝視したまま悠然と歩いてくる。
明らかに目的はこの一行だとわかった。
それぞれがそれぞれに ( どうする? ) と出方を伺っている状態だった。
強いて言えば、莉緒だけは唯志に任せるといったスタイルだが。
そうこうしている間に山田が目前まで迫ってきていた。
一行はそれぞれが思い思いのことを考えていて動けないでいる。
「--よう、御子。変わってないな。」
山田が御子に話しかけてきた。
「久しぶりじゃのう、山田。あんたはだいぶ雰囲気変わったな。」
いつも尊大な態度の御子が珍しく緊張している。
聞いていた過去話では仲の良さそうな印象があったのだが、と拓哉は不思議に思った。
「偶然じゃのう。こんなところで何しとったんや?」
「お前を探してた。」
「うちを?」
どうやら山田は御子を探していたここに現れたらしい。
だが--
「なんでうちがここにおるの知っとんねん。」
御子が冷や汗をかきながら質問した。
「先日、なんばで『日曜日』、『天王寺動物園』、『御子』ってワードを耳にした。多分そっちのカップル。」
そう言って山田は唯志の方に目をくれた。
「やっぱりあの時すれ違った人か・・・。」
と唯志が呟く。
「『御子』なんて名前珍しいからな。それにお前が大阪に引っ越す話は知ってたし。万が一って思って来てみたが・・・アタリだったな。」
そう言って山田は不敵に笑っている。
いや、雰囲気のせいだろうか。
不敵と言うよりは不気味だった。
「で、うちに何の用事や?勝手に居なくなって、帰らせろは通らへんで?」
御子の態度はどうにも不自然なものがあった。
少しばかり山田を拒絶している様にも見える。
「そんなんじゃないさ。この男を探している。お前の占いで居場所分からないか?」
そう言って山田は写真を差し出した。
見ると中年くらいの男性の写真だった。
「・・・うちの占いはそう言うんじゃないって知ってるやろ?無理や。」
「・・・そうか。じゃあこの写真からこの男の事、何かわかるか?」
男は更に質問を重ねた。
(写真から?西条さんの色を見るのって写真からでもわかるのか?)
拓哉は素朴な疑問を持った。
その様子に唯志も注目していた。
「この写真だけじゃな・・・。あまり『色』は見えんな。四十代後半、独身、多分理系の職業ってくらいかな。」
「そうか・・・。無駄足だったかな。」
山田は落胆したような様子だった。
「その男がなんなんじゃ?」
「御子には関係ないさ。・・・邪魔したな。」
男はそう言って去ろうとした。
だがーー
「山田さん!!」
「あの!!」
光と拓哉がほぼ同時に声をあげた。
それにつられて山田が光たちの方を見る。
(バカ、こいつら・・・。)
唯志はしまったという表情をしていた。
(先に口出ししない様に言っておくべきだった。)
拓哉と光は同時に声を出してしまって、お互いに見つめ合って困っていた。
「あ、えっと・・・。タク君からどうぞ。」
「え、あ、うん。」
何やらお互いに譲り合っている。
「なんだ?」
山田は拓哉の方に向き直り、真っ直ぐに見つめた。
だが、その目は鋭く、威圧感がハンパ無い。
「えっと・・・。その・・・。」
拓哉は思わず声を詰まらせた。
「山田さん。その写真の人物は須々木久寿雄ですか?」
「!!?」
全員が驚いた表情で唯志の方を見た。
何も言えずにいる拓哉の横から声を出したのは唯志だった。
「・・・何故それを知ってる?」
「やっぱりか。あなたの『狙い』は須々木久寿雄ってこと--」
そう話していた瞬間。
唯志が後ろに吹っ飛んだ。
「唯志!!」
「唯志君!?」
莉緒と光が同時に声をあげた。
どうやら山田に唯志が殴り飛ばされたようだ。
目にも止まらぬ一瞬の出来事に誰も動けなかった。
「須々木の知り合いか?今すぐ居場所を言え。言わないと・・・--」
「『殺してでも』聞きだす、か?」
唯志が口を拭いながら続きを口にした。
「わかっているなら、すぐ白状しろ。」
山田が唯志をギロリと睨んだ。
その目の鋭さに、全員が金縛りにあったように動けなかった。
拓哉でもわかった。
この目は本当にやりかねない。
いや、やる目だ。
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