第107話 新世界側出口

「カバ、デカ!!」


「ライオンすごーい!かっこいいー!」


「キリンが歩いてる!」


「サイ、ヤバッ!デカッ!」


それぞれが思い思いにリアクションをしていた。

なんやかんや非常に楽しんでいる。

言い出しっぺの御子も予想以上にはしゃいでるようで安心する拓哉だった。


そもそもその拓哉自身、久しぶりの動物園で結構楽しかった。

それに、光もすごく楽しそうだ。

笑顔であっちこっち回ってはしゃいでいる光を見てると、それだけで癒される。

その様子に拓哉も思わず笑みをこぼしていた。

(マジ天使・・・)


「何にやついとんねん!次はあっちに行くで、吉田!」

「なんで俺!?」

ぶーぶー言いながらも、二人ではしゃいだ様子でレッサーパンダに向かって走って行った。


「そんなに急がなくても。」

そう言いながらも光はまんざらでもない様に苦笑していた。

「そだねー。いやいや、楽しんでくれてるようで良かった良かった。」

「うん。・・・あれ?」

光は周りをキョロキョロと見渡した。


「・・・唯志君は?」

「ああ、唯志なら――」


―――-

天王寺動物園内、喫煙所。

唯志は拓哉たちから離れ、喫煙の為に動物園の端まで来ていた。

世間は嫌煙な雰囲気であるが、その分喫煙場所などを減らした弊害だろうか。

喫煙所は人で溢れかえっている。


唯志は一人煙を燻らせながら、物思いにふけっていた。



――


俺らしくない。

干渉しすぎてるな。

そろそろ引き際を考えないと、かもな。


はっきり言ってこれ以上は『終わりが見えない』。

最初にゴールをはっきりさせとくべきだった。


このままひかりんが現代に居座るとするなら何がゴールだ?


戸籍を取得(と)るまで?

御子との生活が始まるまで?

先祖が見つかるまで?

それとも・・・、吉田がひかりんとくっつくまでか?


最後のは望み薄だしな・・・。


だが、帰るのはもっと望み薄だ。

と言うかこのペースじゃ『不可能』だろう。


何にしても手持ちのカードが少なすぎる。

こっちの手もちは『須々木久寿雄(すずきくすお)』と『結城夏美』、『謎の人物山田』。


それと『世界同時AI自壊事件』だったっけ?

どれもこれも不確かな話だ。


まだ使えそうなのは『須々木久寿雄』だが・・・。

このカードは『賞味期限』があるからな・・・。

あとどれくらいの期間使えるのやら。


そもそも『夏美さん』が見つかってない現状で、本当に使えるカードなのかもわからない。


・・・潮時かもな。


前に御子に『忠告』されてたっけ。

立ち位置を考えろって。

本当にそうだな。

これ以上は『余計な問題』が起こる。

そうなる前に、俺は手を切るべきだろう。


戸籍と先祖。

ここまでをゴールに定めるべきだろう。

それ以上は干渉しない。


それで良い。


――


気が付くと煙草も数本吸っていた。

時間にしたら十五分程度は経過しただろうか。


「そろそろ合流すっか。」

唯志はそう呟いて喫煙所を後にした。


ほどなくして唯志が四人に合流した。

「あ、唯志君おかえりー。」

「なんじゃ、どこ行っとったんや?」

「ちょっとお花摘みに、かな。」

「なんやそれ。まぁええわ!次は白熊見に行くで、白熊!」

御子は変わらずハイテンションだった。


いつもの調子の唯志に、誰も何も感じなかった。

だが、莉緒だけは少し違和感を感じとったようだった。

(まーた、なんかごちゃごちゃ考えてんだろなぁ。)

莉緒は少しだけ苦笑いしながら唯志の横に並んで歩き出した。


――

「あー、遊んだなー。十分満足したわー。」

気が付けば昼を過ぎていた。

三時間程度は見て回っていただろうか。

御子はご満悦の表情だった。

同様に拓哉や光も、何も考えず遊ぶだけの一日に満足している様子だった。


「もう満足したか?そろそろメシも考えないとだぞ。」

唯志が手元のスマートウォッチを見ながら言った。


「確かに、お腹空いたわ。」

御子は今更ながら空腹に気づいた様子だ。

「真ん中くらいにお店あったよね?あそこに行く?」

「いや、飯食うだけなら外の方が良いと思う。」

「せやな!居酒屋行ってみたい!居酒屋!」

御子が唯志の様なこと言ってる。


「お、良いな。そうしようぜ。」

案の定唯志が御子の意見に乗っかった。


(まだ昼間だぞ・・・?)

等と考えている拓哉だったが、この二人が言い出したら止められそうにもない。


「まぁ飯は外出て行くとして、お土産とか買うなら今のうちに見て来いよ。」

唯志にそう言われ、拓哉と光と御子はお土産物屋さんへと出向いて行った。


「唯志。」

三人が店へと向かう中、莉緒が唯志に話しかける。

「ん?どうした?」

「んー・・・。いや、なんでもない。あたしらもなんか買おっか!おそろいのやつ!」

「そうだな・・・。行くか。」

ニコッと笑う莉緒に続いて、唯志もついて行った。


――

動物園新世界側出口。


「あれ?入ってきた方こっちだっけ?」

拓哉が首を傾げた。


「いや、こっちは逆側。」

拓哉の疑問に対して、唯志が答える。


「なんで逆側?」

今度は光が首を傾げる。


「せっかく来たんだし、こっち側見といた方が良いかと思ってね。」

「こっち側?」

そう言う唯志につれられて、一行は新世界側の出口を出た。


「おお。あれ、通天閣やろ。」

御子が上を見上げながらそう言った。


「ほんとだー。ちらっと見えるね!」

御子に続いて光も声をあげた。

どうやら通天閣は百年後もご健在のようだ。


「こっち側ってそういうこと?」

拓哉は納得した様な表情で口にした。


「んー、まぁそれはもののついで。本命はこっち。」

そう言って唯志は道路を挟んだ反対側の区画を指差した。

莉緒以外は不思議そうな顔をしていた。


「あはは、わかんないよね。普通に見えるし。道路の向こう側から『西成』って言うんだよ。」


「おお、西成!」

「ええ・・・。」

御子は嬉しそうに、対照的に拓哉はうわぁという表情だった。

光はよくわかっていない様子だ。


「要するに、この道路挟んで向こう側は所謂『危ない』場所。まぁ最近は若干マシになったみたいだけど、それでも女性一人で歩くのは危ない。」

唯志が事細かに補足説明をした。


「確かに、西成には近づくなって言うてたわ。」

御子も何かしら入れ知恵されていたようで、その意見に賛同した。


「ま、それだけ伝えとこうと思ってね。特に大阪に不慣れな女性二人に。」

唯志はそう言うと、帰る方向へ向き直った。

その時。


「あれ?唯志君、あの人・・・。」

光が道路を反対側の凝視している。

と思ったら、すぐに目を背けた。

唯志や他の全員がそちらの方を確認する。

そちらを見ると、一人のみすぼらしい格好をした男がこちらを凝視している。


「ん?あれは・・・。」

「だよね?前になんばですれ違った人・・・。唯志君が『ヤバい人』って言ってた人。」

光はなるべくそちらを見ない様にそう言う。


光と唯志以外には何の話かと言った感じだったが、二人には動揺が走った。


そしてもう一人。


「あれは・・・、『山田』じゃ。」

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