第105話 家探し
八月二十一日。
土曜日。
時刻は九時半頃。
場所は南海なんば駅付近。
「本当にこんなに早くに居るの?まだ待ち合わせまで三十分はあるよ?」
拓哉は気怠そうにそう言っている。
「うん、多分居ると思うよ。」
一方の光は若干楽しそうだ。
待ち合わせ場所の改札前に、もう到着するといったところだ。
「お?珍しく早いねー。おはよー。」
「おはよーさん。」
待ち合わせ場所付近になると、既に到着していた莉緒と唯志がそれぞれ挨拶をしてきた。
「おはよー、莉緒ちゃん!唯志君!」
「おはよう・・・。」
元気はつらつで笑顔な光と対照的に、拓哉はげっそりと言った感じだった。
「ね?居たでしょ?」
「うん・・・。いたね・・・。」
光は自分のことの様に誇らしげに笑っていた。
一方の拓哉はUMAにでもあったかのような怪訝な顔をしていた。
(なんでこんなに早く来てるんだよ・・・。何のメリットが・・・。)
頭の中でぶつぶつ自問自答している。
「あん?何の話?」
唯志は不思議そうに問いかけた。
「こっちの話!」
光は笑ってごまかした。
「にしても、待ち合わせには必ず遅れてくる吉田がこんなに早くとはね・・・。」
唯志はにやにやしながら言っている。
「なに・・・?俺が早く来たらそんなに不自然?」
拓哉はムスッとしていた。
「そりゃあそうだろ。大学時代からどれだけ待たされてると思ってんだよ。」
言葉とは裏腹に、唯志はそこまで怒っている様子ではなかった。
既に諦めの境地に入っているのかもしれないが・・・。
四人が朝からわざわざこの場所に集合したのには理由があった。
言うまでも無いかも知れないが、本日は御子と共に家探しをする日だ。
つまり御子との待ち合わせの為にこの場所に集合した。
冷静に考えたら唯志と莉緒は家近辺で待機してる方が良いのだろうが、例によって「吉田は頼りない!」と言い張るギャル(御子)がいるので、面倒ながら出向いていた。
御子を待つ間、夏休みのことや花火のこと。
本日や明日のことなどでワイワイとやっていた。
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約三十分後。
「おお、御揃いやな。相変わらず楽しそうにやってるな!」
ようやく本日の主役が到着した。
各人がそれぞれ挨拶を交わす中、拓哉だけ若干不機嫌そうにしていた。
先日の地元での一件を、まだ根に持っているのだろう。
「なんや、吉田は文句がありそうな顔やな!」
「そりゃあ文句ぐらいあるでしょ!?」
「なんでや?うちが可愛すぎるから照れとんのか?」
「なんでそうなるの!?俺の地元での虚偽情報の件だよ!」
「さて何のことやら。昔のことは忘れたわ。」
「まだ今週のことだけど!?」
何やら漫才の様なやり取りが始まっていた。
拓哉も拓哉で、地元での経験から御子に遠慮するという気持ちが希薄になっている。
「ねぇねぇ、あの二人なんか仲良くなってない?」
光が唯志と莉緒にこっそり耳打ちする。
「確かに。」
「地元で会ったって時になんか打ち解けたんじゃね?」
三人はひそひそと、楽しそうに二人のやり取りを見つめていた。
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「--ではこちらに捺印をお願いします。」
不動産会社の人に言われるがままに書類に印鑑を押していく御子。
一応細かな部分は唯志が横からチェックを入れている。
光と拓哉はと言うと完全に戦力外だ。
(ついでに今回は莉緒もついて来ているが、契約関係は興味なしの様だ。)
最終的には前回見に行った部屋に決まった。
3LDK。
五階。
当然オートロックやネットも完備。
築浅で綺麗だった。
ついでに言うと唯志の部屋へも徒歩五分で、駅もコンビニも近かった。
当然家賃も高ければ、敷金も敷引きも高かったが、金持ちの御子には気にならない程度の金額のようだ。
(注)敷引きとは西日本の方でよく用いられる礼金のようなもの。
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契約関係は滞りなく終わり、一行は不動産屋を後にした。
「ふー、終わったなぁ~。」
御子は慣れない事務手続きに疲れた様で、大きく伸びをしていた。
「・・・。終わったのは良いけど、契約九月からにしてなかったか?」
唯志は怪訝そうな顔で御子に質問した。
「せやで。九月入ったら引っ越しや!」
「え?」
「は?」
「ほんとに!?」
唯志に続いて、当事者の拓哉と光も大きくリアクションをした。
御子は彼らの驚きの意味が解らず、不思議そうな顔をしていた。
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唯志宅。
この人数で入るには若干手狭だが、全員でお邪魔していた。
主に御子の無鉄砲な計画に対する話し合いの為に、だ。
「--じゃあそれでお願いします。」
唯志が電話をしていた。
同じく拓哉もだ。
御子の計画では九月から入居・引っ越し予定だったらしい。
だが、マンションの契約以外のことは何も考えていなかったそうだ。
引っ越しとなるとやる事は山ほどある。
さしあたっては引っ越し業者の手配や電気、水道などの開始手続き。
その辺りを唯志と拓哉で手分けして処理していた。
(主に唯志が調べ、唯志と拓哉で連絡をしていた。)
「なんや、色々あるんやな~。」
当事者の御子はのほほんとしている。
こんななりでもお嬢様だ。
それも生家から出たことも無い箱入り。
この手の事は全く知らなかったんだろう。
「なんにしても九月四日に引っ越しは唐突過ぎるって。準備が出来てない!」
拓哉が文句を言いたくなるのもしょうがない。
二週間後には引っ越しと言われて、準備しているわけがなかった。
「引っ越しは西条家で手配するで。なんもせんで良いやつで契約するから安心しぃ。ついでに家具もある程度こっちで用意するから。」
「なんもせんで良いって、荷づくりも荷ほどきもやってくれるやつ?それって高くないっけ?」
拓哉は念の為聞いてみた。
答えはわかってるが・・・。
「さぁ・・・?まぁお金の事は心配せんでええで。」
案の定だった。
「ああ、光の部屋もベッドとか家具とか無いやろ?ある程度こっちで買っておくわ。選ばれへんのはごめんやで。」
「え!?そんな悪いよ!家具とかだと高いし!」
と光は最大級に遠慮する動作をした。
だが、
「ええってええって。二人ともうちのわがままで引っ越すようなもんやし。礼やと思って。」
と御子が言っている。
御子なりに一応自責の念はあった様だ。
「一応悪いとは思ってたのか・・・。」
拓哉は思ったままに口にした。
ここ数日で御子に対しては本音のまま言葉が出る様になっていた。
「あんた、うちのことなんや思ってんねん!」
御子の突っ込みから、また漫才の様なものが始まった。
二人がギャーギャー騒いでる中、残りの三人は明日の相談を始めた。
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