第104話 夏休み最終日
「――というわけで、唯志君の部屋で料理を教えてもらってたんだけど、佐藤さんから電話でバイトを御願いされてねー。」
「それで、デート?」
「デートって言うか、デートのフリだよ、フ・リ!カップル役で尾行って依頼だったから。」
八月十六日。
時間は拓哉が帰ってきた日のその後に戻る。
二人は光の作ったカレーを食べながら話をしている。
主に拓哉がいない間の光の話をしていた。
「それで岡村君と?」
「そうそう。莉緒ちゃん忙しいらしいし。タク君には断られたからって。」
「う・・・。」
またしても拓哉は後悔していた。
(バイト内容ちゃんと聞いとくべきだった!)
どの道拓哉は居なかったから意味は無いが・・・。
「それで、どうだったの?バイトと・・・デートは。」
「仕事はね、ちゃんと出来たよ。まぁやったのほとんど唯志君なんだけど・・・。」
光は含みのある言い方だった。
「仕事は?何か他に問題があったの?」
「問題じゃないんだけど・・・。あんなに幸せそうなカップルが不倫だって思うと、ね。」
「ああ・・・。」
拓哉も言ってる意味が分かり、納得した表情だった。
「唯志君は事情もわからないから気にするなって言ってたけど、なんかやっぱり気になっちゃって。」
光は「えへへ」と苦笑いしている。
「俺は・・・、浮気とか不倫とかする奴は総じてクズだと思う。どんな事情があっても。だから光ちゃんの気持ちわかるよ。」
「そ、そこまでは思ってないよ!」
光は慌てて否定した。
「でもそうだよね・・・。やっぱり不倫とか、浮気って駄目なことだよね。」
「うん。人としてどうかと思うよ、そういうことする人は!」
「ふふ、タク君実感こもってるね。何か嫌な経験でもあったの?」
断っておくが、拓哉の家庭環境にそういう問題は起きていない。
本人がそんな経験をしたこともない。
親でも殺されたかのような憎みようだが、特に理由なく憎いだけだ。
「と、とにかくそういうことする人はクズだからね!光ちゃんも関わったらダメだよ!」
「ふふふ、覚えておくね。」
熱のこもってる拓哉に対して、光は優しく微笑んだ。
「そ、それで?バイトは無事終わったんだよね?」
優しく微笑まれた拓哉は急に恥ずかしくなって話題を切り替えた。
「あ、うん。後は唯志君とたこ焼き食べたりお好み焼き食べたりしたくらいかな~。」
「・・・ずいぶん楽しそうなデ・・・バイトだね。」
「うん、美味しかった~。」
光の満足そうな笑顔に、拓哉は内心悔しがった。
もちろん自分も食べたかったからじゃない。
もし、自分が大阪に残っていたら、光をこんなに喜ばせることが出来たのに・・・。
今更悔しがったところで、後悔先に立たずではあるが。
「それから昨日も唯志君のところ行って、簡単なパスタの作り方教わったよ!今度作ってあげるね!」
「え、ああ、うん。楽しみにしてるね。」
ぶっきらぼうに答えた拓哉だが、内心はすごく楽しみだったりする。
「あとはゲームして遊んでたかな~。」
(くっ!俺も一緒にやりたかった!!)
「タク君の方はどうだったの?」
光は屈託のない笑顔で拓哉の方の話を聞いてきた。
笑顔がまぶしすぎる。
賭け麻雀してたなんて言えない・・・。言えない。
「えっと、同窓会行ったり・・・。」
「おお、良いねー。初恋の人に再会したりとかしちゃったり!?」
「してないよ!」
拓哉は慌てて否定した。
が、慌てる必要はない上に、却って怪しい。
「ほんとかなぁ~?」
光はニヤニヤしながら拓哉を見ている。
「そもそも初恋の人って覚えてないし。そ、それで次の日は親戚の集まり!」
拓哉はやや強引に次の日の話へと切り替えた。
「へぇ~。そういうのあるんだね~。」
未来で且つ東京出身となると、もうそう言う機会はあまりないんだろうか。
光は物珍しそうにそう言った。
「まぁそれはつまらないんだけどね。親戚のおじさんとか顔を合わせるとすぐ『結婚はまだか?』とか『彼女は出来たのか』とかさ・・・。」
そう言いながら拓哉はチラチラ光の方を見ている。
アピールしているつもりなんだろうか。
「ふふふ。タク君愛されてるんだねー。早くお嫁さん見せてあげれると良いね!」
光はまたも屈託のない笑顔でそう言った。
悪気なんて微塵も無ければ、拓哉の真意になんてまるで気づいていない。
拓哉は流石にちょっと落ち込んだ。
「えっと・・・。まぁそんなこんなで、次の日は友達と徹夜で遊んでて・・・。」
「徹夜で!?タク君元気だねー!」
「え?ああ、うん。まぁ仲の良い友達たちだから、ね。」
「うんうん。良いねー仲の良い友達がいて。」
「そかな・・・?」
「うんうん。友達多いのは良い事だよ!それで、その次の日に御子ちゃんに会ったの?」
「え!?知ってたの!?」
「うん。yarnで連絡来たよー。なんかタク君に偶然会ったって。」
(だからデートの件もすぐ御子の仕業だとわかったのか。)
「除霊に付き合ったんだって?凄いね!中々出来ないよね!?」
「確かにそうだけどね・・・。」
「何か不満でもあったの?」
光は不思議そうな顔をしていた。
だが、その後光のデートの件でいじられまくったことは・・・言えないな。
気が付けば光のカレーはとっくに食べ終わっていた。
美味しかったなどの一言があれば光も喜んだろうに。
拓哉は話す方で精一杯で、そんなことは忘れていた。
こうして二人の再会と小さな報告会、そして夏休み最終日は終わっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます