第103話 side Osaka7 -デートの続き-

ターゲットたちが入ったホテルから少し離れた場所。

戻ってきてから約十五分くらい経つだろうか。

ターゲットたちがホテルから出てくるのが見えた。

どうやら二時間で出てきたくれたようだ。


「出て来たね。」

光は唯志のすぐそばで、小声でつぶやいた。

「幸せそうな笑顔だなー。なんか申し訳なくなるな。」

唯志はニヤッと笑いながら言っている。

申し訳ないなど、心にも思ってないんだろう。

「絶対思ってないよね!?悪そうな顔してるよ!?」

光にもそれがわかり、思わずツッコんだ。。


そんなことを言いながらも、唯志は手早く且つさりげなく写真撮影を済ませていた。


「んじゃ行くか、ひかりん。」

事を済ませた唯志は、そう言って繁華街の方へ歩き出した。

光もそれに続く。


「もう用事はすんだけど、どうする?どっか行きたいところとかある?」

時刻はまだ十六時前。

まだ十分に時間はあった。

「んー、唯志君今日夕飯は?」

「考えてないなー。莉緒も遅いだろうし。」

「ならどこかで一緒に食べて行こうよー。」

「そうだなー。そうすっか。」

「やった!」

光は嬉しそうだ。


「何か食べたいものある?」

「うーん、どうせなら大阪っぽいもの食べたい!」

「なるほどな。ちな、今日までにそれっぽいもの何か食べた?」

「えっと、さっき唯志君とたこ焼き食べたよ。」

「うん。・・・ん?それだけ・・・?」

「そうだよ?タク君ちいると基本コンビニだからねー。」

光は苦笑いしていた。


「マジか・・・。いや、なんかごめんな。あいつそう言うの慣れてないから。悪気はないんと思うんだが・・・。」

「え、いやいや!大丈夫だよ!タク君には居候させてもらってるだけでも大感謝だから!」

「そう言ってもらえると助かる。」

何故か唯志が申し訳なさそうにしていた。


「あー、で今日は何にしようか。大阪っぽいって言ったらお好み焼きとか串カツとかでどう?」

「ええー、どうしようかなー。じゃあ--」


――

光と唯志が鉄板を挟んで座っていた。

光がチョイスしたのはお好み焼きだった。


「自分で焼いてみたかったんだー。」

光はニコニコしながら自分の注文した分をひっくり返していた。

一方の唯志はと言うと・・・

「こんなん店員さんに焼いてもらったら方が楽でいいのに。」

自分で焼く気はゼロの様だ。


「ええー?楽しいのに。」

そう言いながら光は今か今かと返すタイミングを見計らっていた。

「いや、そう言うのは家でいくらでも出来るじゃん。」

「私やったことないし!」

何にしても光が楽しそうなので良いかと、唯志はビールを飲んでいた。


--


「あの二人、すごく仲良かったね・・・。幸せそうだった。」

焼き上がったお好み焼きを食べながら、光が思い出したかのように言い出す。


「そだなー。」

「でも、不倫なんだよね・・・。」

光は自分の友人のことかの様に複雑な顔をして落ち込んでいた。


「ひかりんが気に病むことないんだぞ?」

「でも、あの二人が幸せなそうにしてる分、悲しんでる人がいるんだよね?そう思うと・・・。」

光が言ってるのは依頼人である男の妻のことなんだろう。

その人のことを思えば・・・という感情移入してしまっている。


「・・・悲しんでるかはわからねーよ?」

「なんで?最愛の旦那さんが隠れて不倫してるんだよ!?」

「・・・最愛かわからないだろ。」

「・・・え?」

光は不思議な顔をしていた。


「夫婦生活は冷めきっていて、妻の方は離婚したかった。そんな時、ちょうどいい感じに『旦那が浮気をしてくれた』。とかかもよ?」

「え?・・・え?」

「実はあの女性は妻が仕向けた『別れさせ屋』かもしれない。」

「ええ!?」

光は驚いて口をあんぐりと開けていた。


「まぁそう言うこと。結局のところ、真実(ほんと)のところなんて誰にもわからない。少なくとも俺たちには、な。」

「えっと・・・。それはそうなのかもだけど・・・。」

唯志には世の中で起こる全てがインチキにでも見えているんだろうか。

光はそう思った。


「まぁだからあまり気にするなって話だよ。俺らは依頼通り仕事した。それだけだ。それ以上は当人同士の話であって、口出すのは野暮ってもんだぞ。」

唯志はお好み焼きを食べながら何食わぬ顔でそう続けた。

「んー・・・。言いたいことはわかるけど・・・。」

光はいまいち納得できない様だ。

「そんなこと気にするより、今は目の前のお好み焼きを気にした方が良いぞ。」

唯志がそう言って目を向けたお好み焼きは、鉄板の上で焦げかけていた。

「あー!そう言うのは早く言ってよー!!」

光は大慌てでお好み焼きを皿に移し、食べ始めた。


「結局さ、そう言うことなんだよ。」

唯志がぽつりと続けた。

「・・・?」

光は何の話か分からなかった。

「あのカップルのことなんて考えてもわからない。だけど、事情を知ったら余計やりづらくなる。」

「・・・」

「世の中には深入りしすぎない方が良い事も多々あるってこと。」

唯志はそう言うと、さっき追加したビールを飲み始めた。


ぼかしてはいる。

だけど、多分。

唯志は昼間の話の続きを言っているんだろう。

光はそう思った。


----


「--余計な事は気にしない方が良い。後で荷物になっちゃうぞ?」


----


今までどんなに無茶なことを言っても平気な顔をして応えてくれた唯志。

だけど、この時だけは確かに拒絶されているのを感じた。

これ以上深入りしない様に釘を刺されたのかもしれない。


だが、光は・・・


「それでも私、やっぱり『知りたい』って思う。これは譲らないからね!」

光は唯志に向けてそう宣言した。

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