第102話 side Osaka6 -雑談-
「そう言えば御子ちゃんの電話、何の話だったの?」
良い感じに時間も消費したのでぼちぼち元の位置に帰ろうかと言う道中。
光が思い出したかのように唯志に質問した。
「あー、それな。なんか来週土曜日にまた家見に行くって。」
「そうなんだ?ってことは私もだよね?」
「そうそう。改めてお誘い来るんじゃね?」
「わかったー。あれ?でも動物園とか言ってなかった?」
「ああ、なんか日曜日は動物園連れてけって。もちろんひかりんとかも一緒に。いける?」
「何それ楽しそう!行く行く!」
光は笑顔ではしゃいでいた。
動物園くらいは未来でもあるだろうに、本当に嬉しそうだ。
「で、例によって唯志君に案内役を押し付けてきたって感じ?」
「そう。・・・まぁ動物園なら良いけどさ。」
唯志も動物園に行くのはまんざらでもない様だ。
「まぁそう言うわけだから予定空けといてあげて。吉田のやつは・・・まぁ暇だろ。」
「うん、暇だろうね。タク君は。」
光はくすくす笑いながら同調した。
出会ってまだ二ヶ月ばかりだが、光もおおよそ拓哉のことを理解したようだ。
元の場所まで戻る道半ば。
少しひらけた場所で、ふと光が立ち止まった。
「ねぇ唯志君。」
「ん?どうした?」
唯志も立ち止まって振り返る。
「唯志君は、どうしてそんなに優しくしてくれるの?」
光は珍しく真剣な目で真っ直ぐに唯志を見つめていた。
「さて。特に優しくした覚えなんてないけどな。」
唯志は何のことやらといった表情でとぼけてみせた。
「もー、すぐそうやってはぐらかす。じゃあ、なんで私の為に色々と協力してくれるの?」
光は少しムスッとしながら追撃する。
「んー・・・。」
唯志は何やら考えている様子で、答えが返ってこない。
「むー。最初言ってたみたいに面白そうだから?困ってる人を放っておけないとか?それとも友達のタク君の為?あとは・・・何か企んでるとか?」
「ぷっ。なんだよ、企むって。」
唯志は吹きだして笑った。
「もー、私は真剣に聞いてるんだよー!」
「さて、なんでだろうな。ひかりんが可愛いからとかかな?」
「なっ!!?」
光は一瞬顔を真っ赤にして驚いたが、すぐに表情を戻した。
「またそうやってからかって、面白がってるでしょ!?」
「さて、どうだろ?」
唯志は笑顔だったが、光は頬を膨らませて怒っていた。
まぁリアクションから言うと怒ってると言うよりは、怒ってると言うアピールと言った感じだろうか。
「うう~。私は真面目に聞いてるのに~。」
今度はしょんぼりしていた。
コロコロと表情が変わって、これはこれで面白いし、可愛い女性の仕草とも言えた。
「じゃあ、ひかりんはどうなんだ?なんで俺を頼る?」
「え?」
唯志は光の方は一瞥もせず、前を見て話していた。
「吉田よりは役に立つからか?今現在他に頼る人がいないからか?」
「え、えっと・・・。」
光はとっさに言葉が出てこず、返事に困っていた。
「なら、ある程度先が見えたら?他にもっと役に立つやつが出てきたら?そうなったら俺は用済みか?」
「え、それは違うよ!えっと・・・、その・・・。」
何とか否定したかったけど、うまく言葉が出てこない。
「な?返事に困るだろ?」
唯志は光の方を振り返って笑顔でそう言った。
「え?あの・・・、うん。」
光は少しきょとんとしながら肯定する。
「理由なんてなんとでも言えるよ。それでも理由が必要だったら、言って欲しいように言うけど?」
「でも私、唯志君の本音が聞きたくて・・・。」
光は俯きながらそう答えるのが精いっぱいだった。
「明確な理由なんてない。俺は俺が楽しいからやってる。・・・それで良いだろ?」
「え、でも・・・違うってことだよね?」
「さてね。ただ、ひかりんは自分のことを考えるなら、余計な事は気にしない方が良い。後で荷物になっちゃうぞ?」
いつもの口調で唯志が言う。
ただ、光でもわかった。
いつも掴みどころのない唯志だが、今言っているのは本心からの言葉だろうと。
唯志は光に気を使ってそう言ってくれてるんだと。
・・・自分が未来に帰りやすいように。
「・・・唯志君、私は--」
光が何かを言いかけたところで、光のスマホが着信を告げた。
「う・・・、何?・・・御子ちゃんからだ。」
どうやら御子から、今度は光に着信が来たようだ。
「はい。あ、お疲れ様。・・・うん。えっ!!違うよ!?・・・ちょ、違うんだって!」
何やら光は焦って否定を繰り返している。
恐らく唯志が「ひかりんとデート中」と答えた件についてだろう。
「違う、違う!バイトなの!佐藤さんの!カップル役なの!・・・ちょ、うん。・・・それはそうだけど。」
どんな話を繰り広げてるんだろうか。
しばらくの間、光と御子の恐らく押し問答っぽいものが続いていた。
「え、あ、うん。聞いたよ。・・・うん、行くよー。うん、わかった。うん、伝えておくね。・・・ばいばーい。」
どうやら話は終わった様だ。
「土日の話だろ?」
「うん、唯志君が言ってたやつ。来週だね、楽しみ―。」
「そうだな。じゃあ、いい加減戻るか。」
そう言って唯志は元のラブホ街に向かって歩き始めた。
「え、待って。まだ話し終わってないよ!?」
「んー、でも時間ヤバいし、また今度な。」
「ちょっと待ってよー!」
そそくさと歩いていく唯志を、光は小走りで追いかけた。
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