第86話 家探し2
「え、不動産屋にアポイント取ってないの!?」
電車乗り換えの最中。
地下鉄梅田駅の駅構内に拓哉の驚きの声が響いた。
「行けば見せてもらえるんとちゃうんか?」
御子はあっけらかんとしていた。
「名家の御令嬢なんだし、しゃーないだろ。さっきの感じでアポとってると思ったのか?」
唯志はある程度この状況を予想していたような言いぶりだ。
何故か御子は勝ち誇ったように胸を張っていた。
「まぁまだ時間はあるんや。ゆっくり考えたらええやん。」
(あんたがそれ言うのかよ。)
拓哉は思わず脳内でツッコミを入れた。
「でも候補なしじゃ困るしな。どっかで話し合いでもすっか。」
「ええな!カフェ行こ、カフェ!」
御子はノリノリだった。
本題はこっち(都会散策)なんじゃないか?
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梅田のかっぱ横丁からほんの少し逸れたあたりにある喫茶店。
一行は唯志の案内で訪れてた。
普段の拓哉の行動範囲に近いが、拓哉は全く知らない場所だった。
--と言うか、オシャレ過ぎる。
周りは女性女性女性。
基本女性しかいない。
いてもオシャレなカップルだ。
こいつなんでこんな場所知ってるんだよ。
「おー、ええなええな。こういうところ来たかったんや。」
御子は興奮していた。
前の時と言い、唯志は御子の好みをよくわかっている様だ。
光は何かそわそわとしているが、それは拓哉も同じだった。
「お前ら少し落ち着けよ。全員お上りさんみたいだぞ。」
唯志は少し苦笑しながら言っていた。
落ち着いた雰囲気の店内には似つかわしくない不思議な組み合わせの四人が座っていた。
(拓哉の感想。)
正直自分は場違いなのでは?と少し思ったが、目の前のギャルよりはマシかと思うことにした。
「吉田、あんたまたなんか失礼なこと考えてるやろ?」
御子にはすぐに見透かされた。
「--話を纏めると、だ。」
唯志がこの場での話の結果を総括しようとしている。
「オシャレで景色が良くてペット可で駅から近くてコンビニも近くて台所が広くて、各人の個室は必要、と。」
唯志が述べた内容のほとんどは御子の要望だ。
光は特に要望無し。
拓哉は個室だけを所望した。
「そうじゃな。どや?ありそうか?」
御子は目を輝かせながら言っていた。
「とりあえず、景色が良いは捨てろ。それとペット可、これも諦めろ。それなら、該当しそうなのは二件あるな。」
「むぅ・・・景色はともかく、ペットは飼いたかったのに・・・。」
「吉田がペットみたいなもんだろ。諦めろ。だいたい永住する気じゃないのにペットは責任持てないだろ。」
(誰がペットだよ!!)
拓哉の脳内ツッコみは間と言い、声量と言いキレッキレだった。
「ええー、でもなぁ。」
「そんなんじゃ決まらねーよ。とりあえずその条件でも見に行ってみたら良いだろ。それから考えてみろ。」
「そ、そうだよ御子ちゃん。とりあえず見てみて、イメージと違ったらまた考えよ?」
光も唯志の意見を後押しした。
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二軒ほど物件を見て回った。
不動産屋とは唯志が交渉し、今すぐ見れるようにと何とか内見にこぎつけた。
当たり前だが二軒とも今の拓哉や唯志じゃ手が届かない程の家賃で、当然それなりに綺麗で良い物件だった。
「ふむ・・・。希望とはちゃうけど悪くは無かったな。」
(いや、良すぎるくらいだよ金持ちめ。)
「おい、吉田・・・」
御子が無言で睨んできた。
もはや口に出すのも面倒な様だ。
「希望とは少し違うかもしれないが、悪くなかっただろ?少なくとも俺じゃ手が出ない程の優良物件だ。」
「確かになぁ・・・。光はどう思う?」
「え、私?私はその・・・」
光は拓哉の方をちらっと見てもじもじしていた。
多分今より良いけど、拓哉の手前言いづらいんだろう。
「ひかりんは見てきたやつでも十分だってよ。それに希望通りにはいかないってのも一般人の常識だぞ?」
唯志は光の気持ちを代弁しつつ、それとなく御子に納得を促した。
「ふむぅ。そう言うもんかもなぁ。まぁ今日の物件の情報はもろたし、少し考えてみるか。」
御子は少しだけ納得した方に傾いたようだ。
「それより御子さー、そろそろ時間ヤバくないか?」
「ん?あ、確かにもうこんな時間やんか。そろそろ帰らないかんな。」
御子がそう言うと、唯志の案内で元来た南海なんば駅に向かって歩みを始めた。
「ほんまなら来週の花火大会ってのも来たかったなぁ。」
先ほど光から花火の話を聞いて、御子は残念そうにしていた。
「しょうがないよ御子ちゃん。また今度機会があったら行こうよ。」
「せやなぁ。」
女性陣二人が電車の中で会話をしている。
拓哉はなんで俺まで送るの付き合ってるんだ?とか考えていた。
拓哉はとことん拓哉である。
「そう言えば光。」
御子は男性陣に聞こえない様に小声で光に声をかけた。
「え、どうしたの?」
光も小声で返す。
「あんた、前の悩みは解決したんか?」
「あ、うん。アドバイスありがとね。何とかなりました。」
前の悩みと言うのは宮田の一件のことだ。
「なら良かったわ。だけど・・・ふむ。」
「??」
光は御子に見つめられて首をかしげた。
「あんた、なんかまた悩んでないか?気のせいか・・・?すっきりしたような感じもするし。」
「えー?私今は悩みないと思うよ?」
「それなら勘違いか。なんやろな、なんか違和感のある色やな。」
「そうなの!?私大丈夫?」
「まぁ悪い色してない、と思う。まぁ何かあったら相談しーや?」
「うん、ありがとう御子ちゃん。」
一方の男性陣。
女性陣が内緒話っぽい事をしているので、聞かない様に配慮していた。
「吉田さ。」
唯志が拓哉に話しかけた。
「なに?」
「お前毎年盆には帰省してただろ?今年はどうするの?」
「今年ももちろん・・・あっ!」
拓哉は唯志に言われて重要な事に気が付いた。
いつもならとっくに買っている新幹線のチケットを多忙の余り買い忘れていた。
だが、声を上げたのはもちろんそこじゃない。
「ひかりんいるけど、どうするんだ?」
唯志に言われるまで全く考えていなかった。
だが地元の友達や家族には帰ると伝えてあるし、予定も決まっている。
困ったことになった。
「まぁまだ少しだけ時間があるから、ちゃんと考えとけよ。」
唯志はとことん他人のことにまで気が回る。
そんな唯志の思いはさておき、拓哉は自分の盆の予定で頭がいっぱいになっていた。
--気が付いたら御子を見送る南海なんば駅についていた。
一行は「また来るでー」と言い残した御子を見送り、それぞれ帰る事にした。
拓哉と光は唯志に案内してもらい、阪神沿線の大阪難波駅まで辿り着くことが出来た。
そして二人は拓哉の部屋へと帰って行った。
帰りの道中。
「来週の花火楽しみだね。」
と、満面の笑みを浮かべる光。
それとは裏腹に、拓哉の内心はもやもやと暗雲が立ち込めている状態だった。
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