第87話 花火大会

花火大会は嫌いだ。

無駄に人が多いし、暑い。


淀川の花火大会なんて以ての外だ。

阪神沿線の俺は、関係ないのに花火からの帰宅ラッシュに巻き込まれる。

しかもあいつら、ものすごく幸せそうだから尚更腹が立つ。

人生は輝いていますと言わんばかりだ。


大学の頃、大学の近くのやつに一回だけ行ったっけ。

男同士複数人で。

しかもちょっと遠くから眺めただけ。

結果は暑苦しかったし、遠くから人の群れを眺めつつ、小さい花火を見ただけだった。

碌な思い出じゃない。


周りは恋人同士、浴衣のカップルか家族連ればかり。

格差を感じただけだったなぁ。

青春と言えばそうなのかもしれないが、苦い方のやつだった。


----

阪神電車の中。

拓哉は電車の中で立ちながらそんなことを考えていた。

今は夕刻十七時半頃。

今日は土曜日、約束の淀川花火大会の日だった。


そもそも座れないとかありえない。

何でこんなに人が多いんだ?


「楽しみだねー、タク君。」

隣で光が満面の笑みを浮かべている。

わかっているんだろうか。

開始はまだ二時間くらい先なんだが・・・。


そもそもまだ二時間もある。

到着して集合したとしても一時間半くらい早く会場に着くんじゃないのか?

何でこんなに早く集合する必要があるんだろうか。

岡村君、時間間違えたんじゃないの?


心の中では文句ばっかり言っている拓哉だが、密かに楽しみにもしていた。

二人きりじゃないのは不服だが、光と花火大会だ。

それに最初から二人きりはハードルも高い。

唯志と莉緒がいるうちに勉強させてもらって、次は二人で来ればいい。

チャンスがあればと「君が一番輝いてるよ」的な超クサい決め台詞も一応考えてみた。

なんだかんだでこの拓哉、ノリノリである。


阪神姫島駅。

拓哉は初めて降りるかもしれない。

(当然光も初めて。)

まったく地形がわからない。


そんな駅の改札を出たところで、唯志と莉緒が待ち構えていた。


「よう、お疲れ。」

「ひかりん、タク君おつかれー。」

唯志と莉緒がそれぞれ挨拶してきた。

「唯志君、莉緒ちゃんお待たせ―。」

光は元気に挨拶を返したが、拓哉は気怠そうに手を挙げただけだった。


唯志の家からすると阪神沿線側は少し遠い。

それでも地理や勝手がわからないだろうとわざわざ迎えに来てくれていた。


「なんでこんな早い時間に集合するの?」

拓哉は考えていた不満を口に出していた。

どうせ暇だったろうに。

「あん?場所取りとか色々あるだろ?それに周り見てみろよ。」

唯志に言われて周りを見渡してみると、浴衣姿の女性やカップルで溢れかえっていた。

まだかなり早い時間だと言うのに。


「え、これ全部花火の来場客?」

拓哉はあまりの数に驚いたようだ。

「これ全部ってか、まだ早いから全然少ないよ。もっと時間が経てばこの十倍は人が増えるかな。」

と莉緒が答えた。


「マジか・・・」

拓哉は驚いていた。

いや、正直見くびっていた。

花火大会ってそんなに人来るのか。

逆に今まで全く来たことなかった自分は少数派なんだと思い知った。


「ほら、さっさと行くぞ。良い場所無くなるし、人も増えるぞ。」

唯志がそう言い、一同は唯志について歩み始めた。


「うわー、凄いねー。」

一般の無料会場でも打ち上げ場所に近い場所。

既に結構な人で賑わっており、光は驚いていた。

「これから人がどんどん増えるからな。今のうちに場所確保して、屋台とかも回っておいた方が良い。」

「なるほど。って、俺らああいう敷物持ってきてないよ!?」

拓哉は今更ながら手ぶらで来たことを思いだして焦った。

「あ、そう言えば・・・。私たち何も持ってきてないね・・・。」

光もまずそうな顔をしていた。


「んなもん想定内だ。俺が用意してきてるから安心しろ。」

相変わらず唯志におんぶに抱っこな二人であった。


「この辺が良いかな。」

「うん、悪くないと思う。」

唯志と莉緒が場所について話し合っていた。


「あっちの方が広くていいんじゃない?」

拓哉は広々と場所が空いているところを指さしていた。

「いや、そこは多分後で団体さんとかに埋められるだろ。それにその位置だとあの橋の支柱が邪魔になるかも。」

と、唯志は冷静に話していた。

(なんだこいつ、花火請負人とかかよ!?)

とか拓哉が考えている間に、唯志は広めのブルーシートを設置していた。


「飲み物とかお菓子とかはある程度持ってきてるから、好きに飲み食いしていいよ。」

そう言って莉緒が大きめのバッグから色々と取り出した。

唯志の抱えてる荷物が多いなと思ったら、そんなものも準備していたようだ。

拓哉は素直に勉強になるなと思っていた。


「つっても食べ物は折角だし屋台が良いよな?」

唯志はそう言って小さいがま口財布を取り出した。

「ほい、ひかりんの分。小銭ないだろ?その財布ごとやるよ。」

「え!?悪いよ!」

光は遠慮していたが、「折角だし気にせず使って良い。」と唯志に無理くり渡されていた。


「百円玉十枚くらい入ってるから。莉緒となんか見てきたら?」

唯志はそう言いながら既にビールを飲み始めていた。

「私も唯志にお小遣い貰ってるからね。ひかりん何か見に行こーよ!」

そう言って莉緒も似たようながま口財布を取り出して光を連れて走り去っていった。

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