第85話 家探し1

南海なんば駅。

その改札前。

拓哉たちは唯志のエスコートのおかげですんなりと目的地に辿り着いた。


唯志も拓哉と同じ関西圏に住んで三年目のはずだが、その行動範囲は遥かに広い。

難波の地理も把握していた。


「ここも人が多いねー。」

光は人の多さに驚いている。

「・・・梅田が近くにあるのに、難波なんて来る必要ないよね?」

拓哉はまだ難波の土地勘がない事に対して言い訳の様なことを言っていた。

「こっちはこっちで楽しいだろ。オタク向けの店も多いし、俺ら向きだろ?」

「なっ!!?」


拓哉は唯志にオタクと言われ焦った。

間違ってはいないのだが、光には知られたくないと思ったからだ。

そんなこと隠してもいずれはバレると思うが・・・

仮に付き合ったとしたら一生隠して過ごすつもりなんだろうか?


「なんだよ?いい歳して漫画とかゲームとかが好きって立派なオタクだろ。俺もお前も。」

拓哉とは違い、唯志は特に気にしてない様子だ。

「唯志君ってオタクなの?ちょっと意外。」

そう言いつつも光は笑顔を見せていた。


(いや、俺は!?意外でもなんでもないってこと!?)

拓哉の心の声は虚しく響いた。


「なんや?楽しそうじゃな!」

そう言って派手な格好をした女性が三人に声をかけてきた。

この変なしゃべり方の主は、本日の言い出しっぺである御子。

拓哉たち三人は御子との待ち合わせの為にこの場所まで来た。


「なんや、うちが来てやったのに吉田は辛気臭い顔して。」

拓哉の顔を見るなり御子はぶーぶー言っている。


「御子ちゃん久しぶりー。」

「とりあえず無事着いたんだな。お疲れ。」

光と唯志はそれぞれ挨拶を交わしていた。


--

拓哉たち一行は、挨拶もそこそこにさっそく移動を開始していた。

具体的には唯志の家付近の駅を目指している。


「で、なんでお前らの家探しに俺まで付き合わされるんだ?」

唯志が文句を言っている。

本日の本題は、御子が大阪に移り住んだ際に住む家を探すことだ。

ついでに拓哉と光も住むことになるので呼ばれていた。

だが、唯志は確かに関係ない。

強いて言えば唯志の家付近にするという目的はあったが・・・。


「そんなん案内役に決まってるやろ。うちら迷子になるで?」

「案内役なら吉田がいるだろ?」

「吉田じゃ頼りないじゃろ!」

「ぐっ・・・」

どストレートに言われ、拓哉は大ダメージを受けた。

光は「はは・・・」と苦笑いしている。


「部屋を選ぶのだってうちは初めてじゃ。アドバイザー兼務。」

それにしたって拓哉は経験者なわけだが、例によって頼りないんだろう。

「あー、確かに私も部屋選びとかしたことないや。唯志君、頼りにしてるね。」

光は唯志に向かってニコッと微笑んだ。


――――

移動中。

「御子には不動産情報誌渡してただろ?その中に希望というか、候補みたいなのはあったのか?」

「もちろんあったぞ!例えば――」

唯志に問われ、御子はごそごそと荷物の中から不動産情報誌を取り出した。


「そうやな~・・・、これとか!」

そう言って御子が指さした物件は・・・

「・・・分譲じゃねーか。」

「そうじゃ。ええ部屋やろ?希望通りじゃ。」

「ええ部屋ってお前、この物件四千万以上するぞ。」

「せやな。」

「金持ちのお遊びはよくわからんな。」

あっさりと言いのける御子に唯志は呆れた顔をしていた。

光は苦笑いをしている。


「む?遊びちゃうで。これでもちゃんとした西条家当主のお勤めや。」

「そうなの?」

光はきょとんとして聞き返した。


「せやで。ちゃんと目的があって来てるんや。」


御子の説明によると--

そもそも西条家は名家とは言えど田舎暮らし。

出会いも無ければ一般常識も無い。

その為西条家の人間は二十歳を過ぎた頃合いで都会で一人暮らしをするのだとか。

目的は・・・

①一般人の常識を身に着ける。

②多種多様な人間を見て、見る目を養うこと。

③結婚相手を見つけること。

だそうだ。


まぁ確かにあんな田舎で一生過ごしたら出会いも無ければ常識も無くなるだろうなぁと拓哉は思った。

と同時に拓哉はふと疑問に思った。

「お見合いとかはしないの?名家のお金持ちならやりそうなのに。」

「あ、確かに!」

光も拓哉の意見に大きくうなずいていた。


「まぁ普通はそう思うやろなぁ。」

と御子はしみじみと言った。

「普通はって・・・。西条さんは何か違うの?」

拓哉はちょっとムッとしていたが、表情には出さなかった。

・・・多分ばれてるだろうが。


「御子でええて言うてるのに。まぁうちの場合はなぁ・・・。」

御子は何か言いづらそうにしている。

「察してやれよ。西条家の能力ある人は難しいんだろ、見合い。」

と唯志が他人事のように言った。

「・・・まぁそう言うことじゃ。」

と御子も続けた。


拓哉は言われてから考えてみたが、いまいち意味が分からなかった。

それは光も同じだ。

ただ二人とも、色が見えることでお見合いが上手く行かないだろうと言うことだけはなんとなく理解した。

だからそれ以上は追及しなかった。


「それよりも、目的に一般常識の勉強も含まれてるならこんな高級な分譲なんか論外だろ。」

「そ、そうなん?これは高級なんか・・・。」

「少なくとも二十歳の女が気軽に買うような代物じゃないぞ。普通の賃貸にしとけ。」

「むぅ・・・。意外と難しいんやな、一般常識と言うやつは。」


(あんたが非常識なだけだろ。)

拓哉はそう思ったが口には出さなかった。

「吉田、また失礼なこと考えてないか?」

だが、あっさり見抜かれた。

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