第84話 待ち合わせ

日曜日。

廃墟の探索に向かった翌日。

月は七月から八月に移り変わっていた、そんな日。


光はJR大阪駅の中央改札前に一人でいた。

待ち合わせ時間は九時だったが、今現在は八時半前だ。


「あれ?ひかりんがもういる。」

待ち合わせ時間のちょうど三十分前。

そう言って声をかけてきたのは唯志だ。


「唯志君おはよー。」

光が笑顔で挨拶をする。


「おはよ。てかなんで一人?吉田は?」

唯志は光が既にいたことと共に、拓哉がいない事にも驚いていたようだ。

「タク君遅いからおいてきたー。」

「ひでぇ。」

光も唯志も笑っていた。


「一人でこの辺歩きたかったからねー。それに唯志君より早く着いてみたかったし。」

「俺より早く?なんで?」

唯志は珍しくはてなな表情をしていた。


「いつも待たせてるしねー。唯志君とタク君抜きで二人で話したかったし。」

そう言って光は少し照れながら頬を掻いていた。

「吉田が聞いたら泣くぞ。」

唯志は少し苦笑していた。

「タク君とはいつでも二人で話せるからねー。」

光はそんな唯志の言葉の真意を分かっていなかった。


唯志は光の横に並んで拓哉を待つことにした。

「で、俺に話ってどした?また厄介事?」

「またって。」

光は苦笑いしていた。


「厄介事の権化みたいな言い方。傷つくなー。」

そう言いながらも光はまんざらでもなさそうな表情だった。

「ひかりんが来てからそんな話が多かったからなー。今日は違うのか?」

「うん。なんとなく唯志君と二人で話したかったじゃダメかなぁ?」

「・・・まぁダメではないな。俺と話しても楽しくはないと思うぞ。」

「あははは。そんなことないよ。それに昨日の話も聞きたかったし。佐藤さんと会ってたんだよね?」

「なんだ、知ってたのか。本命はそれか。」

唯志は合点がいったという顔をしていた。


それから拓哉が来るまでの短い時間だったが、二人は色々と話をしていた。

昨日の件の情報交換から、来週となった花火の話。

何も関係の無い他愛の無い話。

時間としては三十分程度の何気ない時間だったが、光にとってはとても楽しい時間だった。


「光ちゃん!」

待ち合わせの九時、その二分前。

拓哉が息を切らせて現れた。


この数分前--

拓哉は待ち合わせの時間にギリギリ間に合う電車で移動していた。

普段なら余裕で遅刻するところだが、待たせているのが光だからか、前に人を待たせてはいけないと光に注意されたからか。

少しは心を入れ替えていた。


電車での移動中、まだ眠いのにと心の中で文句を言いつつ、ふと考えた。


色々見に行きたいし、一人で行ってみたいと光は言っていたが・・・

もしかして岡村君も早く来るからとか?


拓哉は普段遅刻の常習犯なので意識したことは無かったんだろう。

いつも待ち合わせに一番に現れるのは唯志だ。


(もしかして早く行きたいってのは、『早く岡村君に会いたい』ってこと・・・?)


そう思うと、いてもたってもいられなくなり、焦った。

電車なので焦っても早くはならないが、電車を降りると同時に待ち合わせ場所まで駈け出した。


一目散に向かった待ち合わせ場所では、既にいた光と唯志が笑顔で談笑していた。


----

「光ちゃん!」

拓哉は着くや否や光のところに駆け寄った。


「あー、タク君。待ち合わせギリギリだねー。」

光は笑顔で迎えてくれた。

「おはよーさん。遅刻しないなんて珍しいな。」

唯志も簡単な挨拶を述べる。


「・・・」

だが、拓哉はすぐには返事しない・・・否、出来なかった。


この二人が顔を合わせるのは先日の宮田の一件以来。

(正確には光もその時以来。ただ、光はyarnでのやり取りをしていた。)

正直なところ、拓哉は内心気まずくて会いたくなかった。


「なんで岡村君もいるのさ?」

拓哉が精一杯振り絞った返事がそれだった。

「変なことを言うなー。呼び出されたの知ってんだろ?」

唯志は呆れたような表情で言う。

「じゃなくて!なんで待ち合わせ時間より前に岡村君もいるのかってこと!」

拓哉は若干キレ気味に問いただした。

この二人がグルになって拓哉をハブったとでも思っているんだろうか。


「何言ってんだよ。待ち合わせ時間は今だろ。遅刻の常習犯のお前はまだしも、普通の人間はいるだろ。」

「そ、そうだよタク君。それに唯志君って待ち合わせではいつも一番に来てるよ?」

唯志と光に正論で反論されて、拓哉は「ぐっ」とか唸っていた。


「そ、そうなの・・・?」

拓哉は俯きながら光に聞いた。

「うん。タク君遅刻ばっかりだから知らないんだよ。」

光にそう言われ、拓哉はすっかり意気消沈してしまう。

光は優しく嗜めた程度のつもりだろうが、拓哉にとっては厳しく怒られた感覚だった。


「とりあえず揃ったんだし移動しようぜ。なんばまで。」


そう。

今日の目的地は大阪の繁華街の一つ『難波』だった。

難波へ向かうために三人はこの場所で待ち合わせていた。


「そもそも、なんばなら俺たちは阪神で直接行った方が近いんだけど・・・」

拓哉は不機嫌そうにそう言った。


拓哉の言う通り、拓哉の住む尼崎の阪神沿線と言えば『大阪難波駅』に直接行くなんば線がある。

それを使えば梅田など経由することもなく、もっと短時間ですぐに行けた。


「あのな?お前が難波は詳しくないし道も知らないとか言い出すから、俺がわざわざ迎えに来てるんだろうが。」

「そうだよ、タク君。唯志君に案内してもらうのに、そんな嫌味なこと言っちゃダメだよ。」

二人の言う通りだった。

そもそもこの待ち合わせの発端は拓哉だった。

直接行って難波で待ち合わせしようという唯志に対して、難波は詳しくないだの道がわからないだのグダグダ文句を言ったのは拓哉だ。

(正確には拓哉は光にそう告げ、それを光から唯志に伝えた。)


それを棚に上げて嫌味を言えば、まぁこうなる。

唯志としても待ち合わせするより、一人で向かう方が楽だし早いわけだし。


二人から責められ (二人は責めてるつもりはないが。) 拓哉はもうすっかり帰りたくなっていた。

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