第83話 先祖を探せ

拓哉たちが廃墟に赴いていた同日、同時刻ごろ。

唯志はひとりで佐藤の事務所を訪れていた。


佐藤の事務所の一室。

打合せ用の個室で、唯志は渡された資料を眺めていた。


「どう?唯志君。」

恵が麦茶を差し出しながら唯志に確認具合を伺った。

「・・・短期間でこれだけの人数。さすが本職ってところだね。」

想像よりも多くリストアップされていたようで、唯志も驚いていた。

「だが精度は期待しないでほしいね。探すにしても情報が少なすぎたから。」

と佐藤が付け加えた。

リスト化されている名前には、住所や家族の名前、中には顔写真があるものから、名前と大雑把な所在地程度のものまで様々だった。


「まぁそればっかりはしょうがないですよ。こちらも無理を言いましたから。これと俺の調べた分を合わせたら少しくらい情報が増えるかな?」

そう言って唯志は持参した自分の方のリストを出して照合を始めた。

「え!?唯志君も調べてたの!?」

恵は驚いていた。

「まぁ暇な時に。俺は本職じゃないから佐藤さんのリストには到底及ばないけど。」

「いや、でも俺が調べきれてない情報も多少あるね。たいしたもんだ。」

佐藤は唯志のリストを一読してそう言った。

「ネットから情報を探すのにかけてはそこそこ自信ありますからね。」

唯志はそう言いながらリストの照合を続けた。


----

「で、どう思う?」

唯志がひと通りのリスト照合が終わったころ、佐藤が改めて唯志に質問した。

「使えそうなのは住所もわかってる十二人ですかね。後は住所はわからなくても顔の分かる五人くらいかな。」

「そうだろうね。他はまだ調査を続けないと会うことすらままならない。それ以前に『夏美さん』を全員拾えてもいないだろう。当たりがいるとは限らない。」

「そうですね。でも何もないよりはマシですよ。」

唯志もその事は重々承知している様だ。


「そもそも・・・、わかっているとは思うがこのデータだけじゃ意味ないだろ?」

佐藤は深刻そうにそう言った。

「え!?そうなんですか!?」

恵はまた驚いていた。

この事務所のリアクション担当なのだろうか。

「そうですね。決め手がないので。」

「決め手?」

恵はまだ話がわかって無い様だ。


「要するに、どんなに夏美さんを集めても、どれがアタリか誰もわからないってことだよめぐみん。」

わかっていない様子の恵に佐藤が説明した。

「・・・?」

恵はまだわかってない様で、きょとんとしていた。

「ひかりんが夏美さんの旧姓も覚えてないからね。しかも二、三歳じゃひかりんに似てるかどうかも判断できない。そもそも似てる程度じゃ個人の感想レベルだ。確証にもならない。」

唯志が付け加えて説明した。

「ああー、確かに。」

ようやく恵にも話がわかったようだ。


「その点が解決できない限り、いくらデータを集めても無駄だよ?」

佐藤は唯志もわかっているだろうと思いつつあえて口に出した。

「ええ、わかってます。その点については少し考えがあります。だから今は少しでも候補を増やす方優先です。」

どうやら唯志には何らかの考えがあるようだ。


「そうなの?どうするつもり?」

恵が興味津々で唯志に問いかけていた。

「今はまだ・・・確証もないし。とにかく今はデータ集め優先かな。」

唯志は考えについてまだ話す気が無い様だ。

「ふーん・・・。でもなんか考えはあるんだね。よーし、面白そうだし私も暇な時に夏美さん探し手伝おうかな~。」

どうやら恵も光の調査に興味を持ち始めた様子で、何やら楽しそうにしていた。


「そう言えば話は変わるけど今日間宮達は行方不明者の調査に行ってるんだって?」

佐藤も拓哉たち一行の動向を間宮から聞いていた。

「そうですね。何か収穫があると良いんですが。」

「間宮の話だと望み薄だって言ってたが、どうなんだい?」

「それは光った形跡が無かったからですかね?」

唯志もその事は気づいていた。


「なんだ、気づいていたのか。それでも行かせたのかい?」

「まぁ何もしないよりはマシなので。それにタイムスリップ時に激しく光るってのも確定事項じゃないですし。」

「確かにそうだね。だとしても結構前の話だから厳しそうだとは思うけど。」

「そもそもタイムスリップなんて超常現象を追ってるんです。元々簡単なことではないでしょう?」

「そりゃそうか。」

佐藤は苦笑していた。


「それに、何かさせとかないとひかりんも焦るでしょうからね。吉田のやつも大して役に立ってないことを気にしてるみたいだし。」

「唯志君、意外と気ぃ遣いだねぇ~」

恵はふふっと笑いながら言っていた。

「俺は元々気の利く人間だよ。」

唯志は冗談なのか本気なのかわかりづらいトーンで答えていた。


----

一方の拓哉一行。


「うう・・・怖い思いしただけだった・・・」

光は涙目だった。

「結局、何も手掛かりは無かったね。」

拓哉も若干落ち込み気味だ。

「まあそう言う時もあるって~。簡単な話じゃないさ~。」

野村は相変わらずの調子だ。


そんな中、間宮はひとり難しい顔をしながら考え込んでいた。

「間宮さん、どうしたんですか?」

光が心配になって声をかけた。

まだ若干涙目だ。


「いや、この廃墟。心霊スポットとは言え、昼間は明るし開けている。携帯の電波は届かないけど、周りの森自体は見通しも悪くない・・・。」

「えっと、そうですね。それがどうかしましたか?」

拓哉も間宮が真剣な顔で言っているので気になって質問をした。

「・・・」

だが、間宮は答えなかった。


----

彼らは気づいていないんだろう。


ここで行方不明になるには、光ちゃんの様に忽然と姿を消すしかない。

もし行方不明じゃないとしたら、かなり『闇が深い事件』になる・・・。


どちらにしても手がかりは無かったし、『事件』なら僕の範疇外だ。

無意味に彼らを怖がらせることも無いだろう。

----


間宮はそう考えて、その事は自分の胸の内にしまっておいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る