第四章 それぞれの選択
第82話 調査は続く
「きゃあああ!!」
静まり返ったその場所で光の悲鳴が響き渡った。
「どうしたの!?」
拓哉が慌てて光に駆け寄る。
「今そこに誰かいた気が・・・」
光が指を指した方を見るが、特に変わったところは無い。
普通の荒れ果てた廃墟の景色だ。
「ははは、幽霊でも見たかい?先日霊能力者に幽霊はいないって言われたところなのに。」
間宮は何故か楽しそうだ。
「そんなこと言ったって、唯志君みたいに簡単に割り切れないですよぉ。」
光は若干怯えた様子で答えた。
拓哉たちは間宮と一緒に少し遠出をしてとある廃墟に来ていた。
所謂心霊スポットと言うやつだ。
面子は拓哉、光、間宮と意外なことに野村も来ていた。
「なんか風で木が揺れたとかじゃないの~?」
野村は呑気に言っていた。
この手の調査には一切手を出していなかった野村だが、今回は拓哉の頼みで同行していた。
一行が何故こんな場所に来ているかと言うと、この場所で行方不明者が出ているからだった。
ーー
今回の調査はこの心霊スポットで行方不明になった女性・・・と言うより、この場所自体をだった。
企画立案は唯志と間宮。
二人で話し合った結果、次の調査場所はここに決まったらしい。
昨年この場所で二十一歳の女子大生が行方不明になっている。
以前は候補から外していた若い女性の案件だ。
手ごろな候補が見つからず行き詰っていた間宮だったが、唯志と相談して再精査した上で浮上した候補だった。
大学生カップル二組で肝試しに訪れた廃墟で女性一人だけが行方不明。
行方不明の女性に痴情のもつれやプライベートでのトラブルも無し。
野生の熊などが出るわけでもなし。
その上、女性もいるとは言え大学生のカップルを狙う誘拐犯も考えづらい。
光と同様の事象に巻き込まれたかはわからないが、行ってみたら何かわかる事があるかもしれない。
と、唯志が言っていたらしい。
当時は若干ニュース等でも取り上げられた様だが、拓哉の記憶には残っていなかった。
その企画立案のひとりである唯志はと言うと、今回は忙しいのでパスとのことだ。
そうなると当然莉緒も来ていない。
かくしてこの珍しい組み合わせで赴くことになった。
--
「何も無さそうだよ、光ちゃん。」
拓哉は光の指さした方向を注意深く調べたが、特に異常はなかった。
「まぁこの雰囲気だからね~。何もなくても怖いよね~。」
こんな場所でも野村は呑気だった。
「うぅ~・・・。」
光は怯えて唸っていた。
「そう言えば今回なんで岡村君は来なかったの?こういうの好きそうなのに。」
野村がふと思ったことを言った。
「なんか忙しいらしいですよ。しょうがないです。」
と光が答えた。
唯志と莉緒が来ないことで一番残念がっていたのも光だ。
「でも岡村君も発案者なのに来ないって無責任だよなぁ。」
拓哉はここぞとばかりに嫌味を言っていた。
本人がいるところで言えば良いのに。
「しょ、しょうがないよ!唯志君忙しいんだから!」
何故か光が庇っていた。
自分の件で色々と時間を使ってくれていることを知っているからだろう。
「そうそう。その唯志君は今日は佐藤のところで光ちゃんの先祖探しの方の話し合いだよね。あっちも難航してるみたいだからねー。」
「えええ!?」
間宮が横から口を挟み、光はその内容に驚いた。
「え、てっきり知ってるものかと思ってたよ。彼らしいけど。」
「ちょっと用事があるからって言ってました…。まさかそっちの話だとは思ってなかった・・・。」
光は申し訳なさそうにしていた。
一方の拓哉は嫌味を言った手前、ばつが悪そうだ。
「そっちの話も進んでたんだね~。」
と野村が呑気に言っていた。
(俺がリーダーじゃなかったのかよ!進んでるなんて聞いてないんだけど!)
拓哉は自分がリーダー扱いだったことを思いだして、今更ながら憤っていた。
が、どんな話かは分からないが、拓哉が行って役に立った可能性は低いだろう・・・。
「た、唯志君も頑張ってくれてるんだし、私たちも頑張らないとね!」
さっきまで怯えていた光だったが、急に元気を出してやる気を見せていた。
「って言っても、何を調べたらいいんだ?」
拓哉は目的すらよくわからずついてきていたようだ。
先日の件(宮田の件)の無力感から少しは心を入れ替えているかと思いきや、人はそうそう変われないものである。
「えーっと、唯志君曰く・・・。私が消えた時と同じような光景とか状況が無いか、ざっと見て回ったらいい。少しでも気になる事があったら後で報告してくれ、だってさ!」
光は唯志とのyarnのやり取りを読みながら答えた。
「光ちゃんと同じとは限らないのに?」
拓哉はなぜ今それを言う?ということを言い出した。
「それは唯志君もわかってるよ。でも万が一もあるからって。」
と光が唯志の代弁をした。
(万が一って・・・。来ない人は良いけど、来た人は無駄足前提かよ。)
拓哉は心の中でいつもの様に文句を言っていた。
と言うか、こいつは本当に光を助ける気があるのだろうか?
どっちの味方なのか、なんでついて来ているのかも不明なことを考えている。
「それだけど、光ちゃんが消えた時は未来の方でも激しい光に包まれたって言ってたよね?」
間宮が光に改めて質問した。
「ええ、そうですよ。」
「他には何もなかった?覚えていたらで良いけど。」
「うーん・・・。特に記憶には・・・。」
「ふむ・・・。」
間宮は考え込んでいた。
「吉田君も現場にいたんだったね?君も同じかい?」
「え、ええ。凄い光だったのは覚えてますが・・・。」
拓哉の方も光った以外は記憶にない様だ。
「何か気になる事でもあるんですか?」
光が間宮に向かって聞く。
「いや、今回の行方不明の件はニュースなどでも取り上げられたくらいに取材されていてね。事件の可能性もあったから残りの三人に対する取材も多々あったみたいで証言が残ってるんだ。」
「証言・・・ですか?」
光はぽかーんとしていた。
「そう。で、その証言内容に『激しい光』とかそう言うのは出てこない。誰一人として、ね。」
拓哉も光も間宮の言いたいことがなんとなくわかった。
わかりはしたが、あまり言い出しづらく黙っていた。
「あー、じゃあ外れかもねー。」
だが、黙って聞いていた野村があっさりと言ってしまった。
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