第79話 勘違いのセレナーデ9

「警察ね。じゃあ呼ぼうか!」

唯志はあっさりと言い放った。


--馬鹿めっ!!

状況もわからずに首を突っ込むからそうなるんだ!!

正義感のつもりか!?

光ちゃんは警察を呼ばれたら困るんだよ!!


後は光ちゃんが否定して終わり。


・・・俺の勝ちだ、唯志。


宮田はそう思っていたが、光は否定しない。

全く動く気配が無い。


これだから低能は。

状況に頭が追いついていないんだろう。

しょうがない、助け舟を出すか。


しょうがなしに宮田が催促をする。

「・・・。光ちゃん、警察呼ぶってさ。・・・『良いの』?」


「・・・」

光は相変わらずの沈黙だ。

それは宮田の後ろで唯志が「黙ってろ」のジェスチャーをしていたからだ。

光は忠実に唯志の指示に従っていた。


「沈黙は正しい答えだったっけね、某漫画では。さて、その前にこの動画を見てくれよ。」

唯志はスマホを差し出してそう言った。


----

「なんで?吉田より俺の方が上なのはわかるよね?それなのに無理?どういう理屈で?吉田に弱みでも握られてるの?」


「弱みは握られてないです。でも、宮田さんとタク君どっちが上とかはわかりません。」


「なんでだ!?明らかに俺が上だろう。金は俺の方がある!陰キャな吉田より俺の方が見た目も面白さも上だ!その上吉田より行動力もある!光ちゃんの為になるのは俺のはずだ!」


「離して・・・!」

----


先ほどの光と宮田のやり取りだ。


「ぶっちゃけると、この公園に入ってからの分、一部始終あるぞ。『どっちが』警察のお世話になるかな?」

「なっ!?なんでそんなの撮ってる!?」

「ああ、こういうのもあるぞ?」


----


「眼鏡チェーンのJiffの社員やってる。」

「おー、大手じゃん!凄いな!どこの店舗!?今度買いに行くよ!」

「え、ああ、中央区の店舗だよ。区内に一店舗だけだからわかると思う。」


----


「な、なんでだ!?なんでそんなものまである!?あの時お前は何も持ってなかっただろ!?」

「なんであるか?そんなもんてめぇで考えろよ、勝ち組さん。」

「なっ!?」

「いちいち説明してやる義理はねぇよ。それより、警察呼ぶんだっけ?呼ぼうぜ。早くしろよ。」


宮田は焦った。

光を脅す為に警察を呼ぶ手は考えていた。

だが、本当に呼ぶ気なんてなかった。

あくまでもわからせるための手段。


だが、状況は一変した。

今この状況で警察を呼ばれたら、『自分自身も危ない』事に気が付いたからだ。

しかも今は『状況もわかっていない唯志』がいる。

やりかねない。

--ヤバい。かなりヤバい。


宮田は唸っているだけで、全く動く気配が無い。

見かねた唯志が更に追い打ちをかける。

「なんだ?呼ばないのか?なんなら俺が呼ぼうか?めんどくせぇけど。」

「なっ!?待って!」

宮田は慌てて制止した。


「なんだよ?警察呼ぶんだろ?お前が言ったよな?」

唯志は呆れたような顔で宮田を見ていた。

いや、唯志と宮田の身長関係から言うと見下していたかの様にも見える。


「だから、俺は潔白だし、困るのはこの子だけなんだって!冷静になろうぜ!?」

宮田は必死に警察を呼ばれることを拒んだ。

呼ばれたら光も困るだろう。

それは確信していた。

だがそれ以上に自分も困る。

この状況で警察沙汰になってストーカーにでも認定されたなら--


勝ち組の自分の人生が壊れてしまう。


「唯志だって面倒事は嫌だろ?この子も困るし、俺は何ともないし、時間の無駄だって!」

宮田は何とか唯志に思いとどまらせようと必死だった。


「別に困らないだろ。なぁ、ひかりん?」


唯志はいつもの調子で光に話しかけた。


「----え?」


光は硬直した。

だが、声を出したのは宮田だ。

宮田は光以上に目を見開いて固まっていた。


「は?ひかりん?え?」

「えっと・・・」

光はどうして良いかわからずオロオロとしていた。


「ああ、もう喋って良いよひかりん。」

唯志は光に笑顔で告げる。


「は?どういうこと・・・?」

宮田だけがわけもわからず混乱していた。


「察しの悪いやつだな。なんとなくわからないか?」

唯志はまたも呆れた顔をしていた。


「どういう・・・ことだ!?どういうことだよ!?」

宮田は光に向かって言っていた。

「吉田のやつを丸め込んで、唯志にまで手を出してるのか!?このクソアマ!!ビッチが!!」

宮田は豹変して光に掴みかかろうと手を出してきた。


--ガシッ


宮田の手は光を掴むことは無かった。

寸でのところで唯志に腕を掴まれていた。

光はビックリして動けなかった。


「なっ!?離せよ!?」

宮田は唯志を睨みつけながら言った。

「離すわけないだろ。お前今何しようとした?」

「世間知らずのクソアバズレに思い知らせようとしてるだけだ!邪魔すんな!!」

宮田は興奮しながら言っていた。


「私、そんなんじゃないです!!」

暴言の数々に、さすがに光も反論の声を上げた。


「黙れ!俺も吉田も唯志も、全員騙してるんだろ!!『思い知らせてやる』!!」

宮田が更に声を荒げた。

だが--


「ぐぁあああああ!!」

次の瞬間宮田は絶叫していた。

唯志に掴まれた腕を捻りあげられたからだ。

ギリギリと唯志は宮田の腕に対して力を込めていた。


「お前、調子乗んなよ。『俺の彼女』に何言ってんだ。」

唯志が言った。

「な・・・唯志の・・・彼女?」

宮田は狼狽えた。


「!!?」

光は手で口元を覆い、顔を真っ赤にしていた。


「そうだ。旧知の仲だから穏便にすましてやろうと思ったが、そんな感じなら・・・『潰すぞ』?」

唯志は恐ろしいほど冷めた目で宮田を睨み付けた。


「くっ・・・」

宮田は何とか唯志の腕を振りほどいて、距離をとった。


「・・・唯志と付き合ってるなんて聞いてない・・・知らなかった!」

宮田は吐き捨てるように言った。


「知らなかったとかは関係ねぇな。お前が出来ることは三つだ。」

「三つ・・・?なんだよ?」

「今すぐ警察を呼んで逮捕。」

「ぐっ・・・。」

「それかこの撮った動画を拡散。当然お前の会社にも見てもらおうか。」

「ッッ!!」

「それかすべて忘れて、金輪際ひかりんには関わるな。さあどうする?」

唯志は冷たく宮田に突き付けた。

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