第78話 勘違いのセレナーデ8

「--何って・・・?」

宮田はさっきまでの勢いはどこへやら。

明らかに挙動不審になっていた。


「ん?なんか盛り上がってたみたいだったからさ。何してたのかなーって。」

唯志は相変わらず氷の様に冷たい目で見つめながら、それでいて微笑していた。


----

予想外だ。

いや、こんなの予想できるはずがない。


なんで『こんな時に』唯志が来るんだよ。

俺の計画は順調だったのに。


どうする?

どうしたら良い?

俺は勝ち組なんだ。

こんなことで計画が狂うわけがない!

考えろ、慎也!

----


「いや、ちょっと『女友達』と話してただけだよ。」

宮田は明らかに勢いを失っていた。

探り探りで返答を選んでいるためか、おどおどとしている様にさえ見えた。


「へぇ。そうなんだ。俺はてっきり宮田が女性を『脅してる』のかと思ったよ。」

唯志は冷たく、そしてまるで虫けらを見るかのような見下した目で宮田を見下ろしていた。

その目は光が若干ビクッとするほどの威圧感をはらんでいた。


「そ、そんなわけ・・・ないだろ。この子と俺は仲が良いから・・・。ちょっと話が盛り上がってただけだよ。」

苦しい言い訳だった。

光はと言うと、唯志の指示を守ってだんまりだった。

が、逆に何も言わないことが宮田にとっても都合が良かった。


ーー


そうか!

考えてみたらそうだ!

『見ず知らず』の得体の知れない男に簡単に助けなんて求められない。

まして唯志は光ちゃんの『事情も知らない』。

下手に助けを求めて警察でも呼ばれようものなら、困るのはこの子の方だ。


何も怖がることはなかった。

優位は揺るがない。

計画に支障なんてない。


ーー


「唯志。久しぶりに会ったんだし色々話したいところだけど・・・、俺は今この子と大事な話中なんだよね。今度時間作るから今日のところは・・・」

宮田はそう言って、唯志をこの場から立ち去らせようと企てた。


「へぇ、そうなんだ。そりゃあ邪魔して悪かったな。・・・ちなみにその『大事な話』って何?」

唯志は先ほどまでの冷めた顔つきが一変して、笑顔になっていた。

「だ、大事な話は大事な話だよ!・・・唯志だってわかるだろ?察してくれよー。」

宮田は懇願する様に唯志に言った。

これだけでも大学時代の唯志と宮田の関係性が少し垣間見れた。


「ははっ。野暮だったよな。すまんすまん。」

「そうだよ。唯志ならなんとなくわかるだろ?ここは、な?」

宮田は引きつった笑顔で何とか唯志が引き下がる様に懇願していた。


引き下がるわけもないのだが。


「そうだな、わかるよ。ストーカーが相手を脅してる場面だろ?」


一瞬。

宮田の表情が凍り付いた。


光も目を見開いて驚いていた。


--沈黙。

ほんの数秒程の沈黙。

発言した唯志以外は呼吸すらしていないかのような沈黙が訪れた。


「は?」


そう言ったのは宮田だった。

精一杯振り絞った言葉がその一文字だったのだろう。

それしか言えなかった。


「ん?もう一回言おうか?ストーカー野郎。」

唯志は畳みかける様にそう言い放った。


またも宮田は驚愕の表情を浮かべながら青ざめていた。


「は?いや、どういうこと?俺がストーカー?」

「違うのか?」

「いやいやいや。違うけど!?この子と俺は友達で、結構仲良いんだよ!?」

宮田は唯志に懇願するかのように弁明していた。


光は相変わらず唯志の指示を守って黙っていた。

それだけのことなのだが、宮田には否定しない=勝機はあると錯覚させた。

だがその錯覚は完全に勘違いだった。


「仲が良い?思いっきり迷惑だと言われてただろ、お前。」

「え?・・・は!?お前、聞いてたのかよ!?」

宮田は明らかに狼狽えていた。


「聞いてたけど?」

「・・・ッッ!」


----

こいつ、聞いてやがった!

状況もわからない癖に、会話を聞いてたから割って入ったんだ。


冷静に考えろ。

今のところ先ほどの会話を『ある程度』聞かれているだけだ。

まだ大丈夫。


最悪警察を呼ぼうとして、光ちゃんに止めさせれば良い。

それですべて解決するはずだ。

困るのは光ちゃんなわけだから。

----


「あれは・・・会話の中でそうなっただけで・・・。本心じゃないんだよ、ねぇ光ちゃん?」

宮田は光に回答を促した。

これで光が肯定すれば良し。

否定する様なら警察を呼ぶ方向で『脅せば良い』。


だが、光は答えなかった。

沈黙。

それが答えだった。


「答えないけど?次の言い訳は?」

「なっ!?なんでだ!?答えるのは簡単だろ!?」

宮田は狼狽えながら光に大声を張り上げた。


だが光は答えない。

更に言うと先ほどまでと違って全く臆さない。

何故なら唯志が一緒にいるから。

それだけで安心感に満ちていた。


「で、言い訳は終わり?」

「--ッッ!」


宮田は考えた。

『この唯志』を言いくるめて、この場を納める方法を。


--だが、思いつかない。


良い言い訳が思いつかない。

光を利用するしかないのだが、当の本人がだんまりだ。

どうしていいかわからなくなっていた。


--こうなったら『最後の手段』しかない。


「--ははっ。はははははっ!俺はこの子を脅してなんかいない。それがわかれば良いわけだろ!?」

宮田が苦し紛れの様に言い放つ。

「・・・」

唯志は無言だった。


「簡単な話だぞ。警察でも呼べよ。俺がストーカーだと言うなら俺が逮捕で終わり。でも違うから『警察なんて呼べないよね』?光ちゃん。」

宮田は光の方を向いてそう言った。

光が警察を呼べないと言うことを利用した宮田の策だった。


(この人・・・。唯志君、どうしたら良い!?)

光は心の中で唯志の指示を仰いだ。

唯志ならこの状況も何とかしてくれる。

そう信じて。

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