第75話 勘違いのセレナーデ5

十五時。

宮田は行動を開始した。

拓哉の部屋には大学卒業後、何度か来ている。

つまりバレている。


自らの行為に何の問題も無いと思っている宮田は、ただ悠然と家を出た。

電車に乗り、尼崎の拓哉宅最寄り駅に到着する。

ここまで約四十五分。

時刻は十六時に差し掛かろうとしていた。


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さて、ここまでは予定通り。

吉田の家はうろ覚えだが、部屋番号はしっかり覚えている。

確かこっちの方だったな。


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宮田は拓哉宅に向かって歩を進めた。

そしておぼろげな記憶を頼りに拓哉のマンションまで辿り着いた。

辿り着いてしまった--


宮田も記憶を頼りに考えながら歩いていたので、時刻は十六時を回っていた。

とは言え拓哉の帰宅までまだ一時間以上がある。


ピンポーン。


宮田が拓哉の部屋の呼び鈴を鳴らす。

拓哉のマンションは曲がりなりにもオートロックの物件だ。

当然ながら部外者は立ち入れない。

呼び鈴を鳴らして部屋側から開けてもらう必要がある。


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部屋には光が一人でいた。

今は絶賛ネットサーフィン中だ。

就籍について調べていた。


唯志に頼りっきりで自分は何も出来ていない。

そんな自責の念から、少しくらい自分でも調べるべきだと考え今後の事について調べていた。

--結果はちんぷんかんぷんだった。

小難しい感じに書いてあるが、いまいち意味が分からない。

と言うか光の様なケースは稀過ぎて細かく手順が載っていない。

唯志はこんなのを紐解きながら、スムーズな流れを作っていたのかと驚いた。


そんな時に呼び鈴が鳴った。


N〇Kの場合は即断って良い。

それ以外もセールスは断って良い。

たまに荷物が届いたりするからそれは受け取って欲しい。

これらは拓哉からの要望だ。


だから出ないわけにはいかない。

出ない事には相手がわからないから。


それともう一つ。

唯志からも忠告があった。


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近々宮田絡みで悪いことが起こるかもしれない。

それはひかりんにとって怖い事だと思う。


万が一宮田がマンションまで来るようなことがあったら、部屋に入れるの禁止。

話があるなら外でするのを推奨。


いざという時は俺と莉緒がついてる。


----


唯志の言うことは全面的に信じて良い。

光はそう思っていた。

後半の話に少し恐ろしさもあるが、その場合も想定しているんだろう。

想定しているなら何とかしてくれる・・・はず。

光は唯志を信じることにした。


そして唯志が言うからには近いうちに宮田絡みでその様なことが起こるんだろう。

それも確信していた。

確かにそう確信して、覚悟はしていたのだが・・・


--鳴った呼び鈴に答えて、拓哉の部屋の画面付きインターホンで応答する。


「はい。」


そして画面に映る画像を見てギョッとする。

唯志の忠告があったからある程度は覚悟していた。

だが、そこに映っていたのは今一番見たくない人物だった。


「光ちゃーん、俺だよー宮田ー。ちょっと会って話したいから入れてよー。」


光は寒気がした。

時刻は十六時を回ったころだ。

拓哉が帰ってくるのはまだ一時間以上も先になる。


そして今は一人だ。


近々何かあるだろうと考えていた矢先だったが、こんなに早くとは思わなかった。

余りにも早すぎる。

唯志や莉緒はこの状況を予測できているのだろうか。


「えっと・・・今タク君いなくて--」

「そんな事はわかってるよ。光ちゃんに会いに来たんだから!」


光は更に恐怖した。

光のいた未来では恋愛意識が低くなっている。

故にストーカーなどの事件も少なくなっていた。

光本人が被害にあうことはもちろん、周りの人間どころかニュースなどでもあまり話を聞かない。

つまり未知に近いものだった。


人間は未知のものには恐怖する。

幽霊などが良い例だ。

今の光は幽霊に遭遇したかのような恐怖であろう。


「で、でも私、宮田さんに用事ないですよ・・・?」

「俺の方があるから来たの!いいから開けてよー!」

当たり前だが、宮田は引く気が無かった。


「でも・・・」

光は考えた。

怖い。

--怖い。


拓哉か唯志か莉緒に電話しようか。

でも拓哉も唯志も仕事中だし迷惑がかかる。

すぐに抜けられるわけでもないだろう。

それに唯志の場合、ここまですぐに来れるわけじゃない。


--莉緒はどうだろうか?

だが、莉緒も学校が無ければ基本的に唯志の部屋だ。

同じくすぐには来れない。


唯志と莉緒にはyarnでメッセージを送っておくくらいにした方が良いだろう。


光は更に考えた。

考えているうちに少し冷静にもなってきた。


--故に少し思った。

怖いが、これは逆にチャンスじゃないか、と。

ここでちゃんと話をつければ、今後付きまといもなくなるかもしれない。

何より、唯志たちにこれ以上負担をかけずに済むかもしれない。


唯志からの忠告を思い出す。

部屋には入れたらダメだ。

話をするなら外でしなくては。


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--

「わかりました。でもこの部屋はタク君の部屋だから勝手に入れるわけにはいきません。今から外に出ますので外でお会いしましょう。」

「んー、まぁ良いか。話をしたいだけだし。話をすれば『全て解決』するから。」


宮田の言葉にはゾッとした。

だが光は意を決して外で会うために部屋を出ることにした。


念の為唯志と莉緒に宮田の襲来を連絡しておく。

そして光は拓哉の部屋を出た。

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