第76話 勘違いのセレナーデ6

マンション入り口のオートロックの前。

満面の笑みを浮かべる宮田が待っていた。


「遅いよー、光ちゃん。」

宮田は不気味なほどに笑顔だ。

光は思わずたじろいでしまう。


「急だったから・・・何の用ですか?」

光は若干引きつった顔で応対した。


「だからー、会いに来たんだって!まぁちょっと話でもしようよ!」

宮田は相変わらず満面の笑みだ。

「えっと・・・少しなら。そこの公園でも行きましょうか。」

光は少しでも人目に着く場所でと思い、拓哉のマンションの目の前にある公園への移動を促した。

「いいね、公園。行こうか!」

宮田も乗り気なようで助かった。


--公園。

拓哉の家の前にある公園だが、結構広い。

駅近と言うこともあり、この時間でも子供連れ主婦や小中学生で賑わっている。

人が多いこともあり、光も少し安心した。


公園に着くなり、宮田はベンチを指さした。

「あそこで座って話そうか!」

だが、光は座って話すことに乗り気ではなかった。

今の状態の宮田と長く話すこと自体が不安でならない。


「あの、話ならここで良いですよ。」

光はさっさと話しを始めたかった。

「ふうん・・・。まぁ良いか。ここで話そうか。」

宮田は不敵に笑った。

心なしか、その不敵な笑みは唯志が稀に見せるものと近かった。

だが、光には全く別物・・・いや、別の生き物にさえ見えた。


--宮田の目的はわからない。

唯志の様に頭が回るわけでもない。

嘘を吐いたりするのも苦手だ。

唯志の様に上手く立ち回る事は出来ないだろう。


--でもきっと、本心でちゃんと伝えればわかってくれるんじゃないか。

相手も同じ人間だ。

迷惑だと言うことをちゃんと伝えれば、引き下がってくれるんじゃないだろうか。

光はそう思って正直に伝えることにした。


光の前向きな性格が裏目に出てしまっている。

確かにそれが通じる人間は多いだろうが・・・


--

「で、光ちゃんはいつまで吉田の家にいるつもりなの?」

宮田は笑顔で、それでいて目は笑っていなかった。


「えっと・・・。もう暫くは。」

就籍の件や御子の引っ越しなどの件は伏せ、多くの情報は与えない様に配慮した。

「ふーん・・・。それで良いの?」

「良いって、どういう意味ですか?」

「わからない?」

宮田はにやにやしながら言っている。


もちろん光自身良いとは思っていない。

拓哉に色々と迷惑をかけているからだ。

だが、この男(宮田)は恐らくそういうことを言っているんではないだろう。


「まぁ光ちゃんにはまだわからないかな?世の中には、勝ち組と負け組がいるんだよ。」

この男は何を言い出しているんだろう?

光は戸惑いを覚えた。

「光ちゃんは色々と大変なんだろ?だったら、当然勝ち組についていった方が良い。それはわかる?」

「えっと、言いたいことは・・・少しだけ。」

「だよね!」

宮田は満面の笑み--否、不気味な笑みを浮かべた。


「今、一番光ちゃんを助けることが出来るのは俺だ。吉田じゃない。」

「え?」

「わからない?俺の方が吉田より勝ち組だってことだよ。」

光は宮田の話の意味が分からなかった。

話してる内容はわかるが、理解しがたかった。

何より宮田が自分を助けることが出来るとは思えなかった。


「あれ?わからないかな?つまり、吉田よりも俺のところに来た方が良いって言ってるの!」

なかなか話を理解しない宮田はイライラし始めていた。

「えっと・・・それは、ちょっと・・・」

光の顔は引きつっていた。


「ちょっと?ちょっと何?」

宮田は明らかにイラついている。

「その・・・ちょっと無理です。」

この言葉に宮田は血管が切れる程に怒りがこみ上げた。


「なんで?吉田より俺の方が上なのはわかるよね?それなのに無理?どういう理屈で?吉田に弱みでも握られてるの?」

宮田は物凄い剣幕でまくし立てた。

「弱みは握られてないです。でも、宮田さんとタク君どっちが上とかはわかりません。」

「なんでだ!?明らかに俺が上だろう。金は俺の方がある!陰キャな吉田より俺の方が見た目も面白さも上だ!その上吉田より行動力もある!光ちゃんの為になるのは俺のはずだ!」

宮田は光の肩に掴みかかりながら声を荒げた。

その剣幕と抑えつけられたことで、光は恐怖していた。

「離して・・・!」

振りほどこうとしたが、光より宮田の方が力が強く全く動かなかった。


「タク君はそんな悪い人じゃないです!少なくともこんな怖い事はしない!」

「怖い!?俺が!?君の為にやってやってるのに!?」

宮田はますます語気を荒げ、目は血走っていた。


「離して!!」

光は思いっきり宮田を突き飛ばし、何とか離れることに成功した。


(どうしよう・・・怖い怖い怖い。タク君まだ帰ってこないの?唯志君、莉緒ちゃん助けて!)

光は宮田の豹変ぶりにただただ恐れおののいていた。


時刻はまだ十六時半を回ったころだ。

拓哉が帰ってくるはずもなかった。


光はどうしようか考えたが、恐怖で考えが纏まらない。

今下手なことを言うと何をされれるかもわかったもんじゃない。

最悪、殺されるんじゃ・・・

そんな思いすら頭をよぎった。


「なんでだ!なんでわからない!!」

宮田は狼狽えながら大声を張り上げていた。


このままじゃ、やばい。

だが、逃げても逃げ切れるかわからない。


--私は唯志君みたいに上手には出来ない。

だから、はっきりと伝えよう。

光は覚悟を決めた。


「宮田さん。あなたにはついていきません。こういうこともyarnも迷惑なんです。もうやめて下さい!」

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