第56話 光の日常
普通の平日。
光の朝は拓哉より早い。
居候の身と言うこともあり、家主より遅く起きるわけにはいかない。
・・・と考えてるかどうかはわからない。
だが、少なくともリビングで寝続けている姿を見せたくはないと思い、早めに起床している。
拓哉としては、朝に女性をを起こしてあげるというイベントをやってみたいようだが、朝に弱い拓哉にそのチャンスは無さそうだ。
寝てる彼女でもない女性にこっそり近づいて起こしてやろうなどと考えているのは、普通に気持ち悪いが。
今日の朝は、拓哉に朝ごはんを作ろうと考えていた。
普通の目玉焼きとサラダとライス。
自炊をしない拓哉だったが、フライパンくらいはあった。
それに光の料理の腕だと、朝ごはんはこの位しか思いつかなかった。
食卓(ただのテーブル)に並べて、拓哉の起床を待つ。
その間に簡単な化粧だけは済ませる。
少しだけ余暇が出来た。
光はまだ現代に慣れていない。
それに居候の身だ。
余暇の時間はとりあえずスマホをいじって過ごしている。
主にニュース系のアプリを中心に。
並行してタイムスリップについて調べていた時もあったが、ネットで簡単に出てくる情報は眉唾物か作り話だけでもう見尽くした。
今は主に唯志の動向に合わせて調べ物をしている感じだ。
・・・宮田からおはようyarnが来ている。
最近は毎日だ。
光は律儀に返事を返している。
恐らく何の役にも立たないであろうことは光も理解している。
とは言え、拓哉の善意で得た人脈だし泥を塗るわけにもいかない。
万が一何かの役に立つかもしれない。
そんな思いで返事を怠らずに返していた。
元々の光の性格もあるのだろうが。
そうこうしている間に拓哉が起きてきた。
「おはよー、タク君!」
光は元気に挨拶をする。
相変わらず朝には弱いようだが、食事の用意されているテーブルを見て驚いていた。
嬉しそうに食べてくれたので、光も思わず笑顔になった。
そして拓哉を見送り、光はまた一人の時間になった。
いつもなら調べ物をするか、近辺の散策をして過ごすのだが、この日はイベントがあった。
莉緒が見つけてきたアルバイトに二人で参加する予定なのだ。
莉緒の伝手で、莉緒の大学の学生イベントのアルバイトがあるとのことで参加することにした。
拘束時間は約5時間程度で一万円も貰える。
その上、給料は手渡し。
莉緒と参加なので身分証明も不要な様だ。
今の光には嬉しい仕事だった。
この手の細かい仕事は今後も良いのがあったら紹介してくれるそうだ。
長期となると、中々条件に見合わない様で難航しているが、その代わりと言っていた。
光にとってはありがたい限りだ。
光は準備を整えて莉緒との待ち合わせ場所に向かった。
光も日々の散策の成果もあって、難なく一人で出かけれるようになった。
(とはいえ、長距離でも梅田辺りが一人で行ける限界だが。)
「まぁ気楽にいけば良いよ。ひかりん可愛いから寄ってくる男多そうだし、それだけ注意ね。」
仕事内容は莉緒の大学のサークルイベントの案内役だった。
イベント開始前から終了くらいまで、来客を案内するのが仕事だ。
莉緒に言われた意味がよくわかっていなかったが、仕事を始めたらよくわかった。
連絡先を聞かれた回数十数回。
この後一緒に飯でも・・・と言われた回数が八回ほど。
無駄に話をされる回数、数えきれない。
自分でも予想していなかった余計な仕事が度々あった。
それでも光はその全てを袖にして、仕事を全うした。
----
--
「お疲れー」
仕事が終わり、莉緒が話しかけてきた。
「お疲れ様、莉緒ちゃん。思ってたよりも疲れたー。」
「ひかりん、無駄な仕事多かったもんね。モテすぎ。」
莉緒は笑いながら茶化してきた。
「もー、なんで男の人あんなに連絡先聞いてくるのー?」
それを聞いて莉緒は更に大笑いしていた。
二人とも主催者から直接バイト代を貰い、帰る事にした。
主催者は光に「また機会があれば来てね。」と言っていた。
光としては仕事を認められた気がして嬉しかった。
(実際は男受けが良かったから呼んだんだろうと思うが。)
莉緒の大学付近の喫茶店。
打ち上げと言うわけでもないが、バイト終わりに軽く莉緒と休憩していた。
「どうだった?現代の人力な仕事は。」
「ほんと、ああいうのを人の手でしてるってのがビックリ。あと、男の人寄ってき過ぎ!」
莉緒はまた笑っていた。
「ひかりん可愛いからしょうがないよ。宿命だね。」
「でも莉緒ちゃんだって可愛いし、寄ってくるでしょ?」
「あー、私は寄ってくるなオーラ出してるから」
と、莉緒は笑いながら言っていた。
「あ、そうだ!最近霊能力者について色々調べてるんだよね。とりあえずまた会うことになるだろうし!・・・大した情報は無いけど、唯志君に報告した方が良いかな?」
「うーん、どうだろ。普通の人が調べれることは、あいつ自力で調べてると思うよ。気になる事があったら報告したらいいんじゃない?」
「そっか。そうだよね。わかった!もっと調査頑張るね!」
「調査よりも、未来の霊能力者事情とか教えた方が喜ぶかも。」
「未来の・・・?そっか。じゃあ未来との違いについて調べてみる!」
光は自分に出来ることが見つかって笑顔だった。
「唯志君、最近どう?私のこと迷惑じゃないかな?」
「全然!仕事が少し忙しいみたいだけど、暇さえあればひかりん関係の調査してるよ。」
「そうなんだ・・・。今度改めてお礼言わなきゃね。」
「良いって。あいつお礼言われるのとか慣れてないし」
莉緒は笑いながら言っていたが、光は本心で感謝していたし申し訳なく思っていた。
「莉緒ちゃんにもだけど、唯志君にも何かお礼でもしなきゃだよね。」
「私は要らないよ。唯志も要らないと思う。気にすんな!」
莉緒はそう言っていたし、莉緒がそう言うんだから唯志もそうなんだろう。
そう思っていても、何かできることはしたい。
光は律儀だった。
莉緒と別れ、拓哉宅に戻った光は、早速調べ物をしていた。
色々と調べてみたが、自分の知っている霊能力者と大した差は無い。
強いて言えば、未来の方がほんのり霊だの悪魔だのについては否定的なくらいで、ホラーというジャンルは健在だ。
ガチャ
玄関の開く音がした。
拓哉が帰ってきたようだ。
「タク君、おかえりー。」
「ただいまー」
心なしか笑顔の拓哉が玄関側から現れた。
「今日はどうだった?バイト行ったんだよね。」
「うん、今日はね--」
こうして光の日常は過ぎて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます