第55話 報告会
月曜日。
夜の二十時過ぎ頃。
光は拓哉のサブPCからskypoでビデオ通話をしていた。
相手は唯志のアカウント内の唯志と莉緒。
そして隣にいる拓哉。
拓哉は光の横にいるにも関わらず、わざわざメインPCから自分のアカウントで通話に入っていた。
報告はyarnで簡単に済ませればいいよという拓哉の意見に異論を唱え、唯志と莉緒にskypoのビデオ通話で報告しようと光が推してこの会が実現した。
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先日の記憶喪失男性が行方不明の件。
そして時妻村であったこと。
それらを光から二人に事細かに説明した。
拓哉は黙って聞いているだけだった。
「へぇ・・・。ずいぶん面白いことになってんじゃん。」
唯志は不敵な笑みで言った。
また何かよからぬこと (主に拓哉にとって) を思いついたんだろうか。
「少しも面白くないよ!大変だったんだから!」
と光が反論した。
ふと思ったんだが、光と唯志の親密度が上がってないか?
今日のやり取りから拓哉がそう感じた。
「でも楽しそうだなー。私も行けばよかったー。」
と、莉緒も羨ましそうにしていた。
似た者カップルとはこの事だろう。
もっとも莉緒の方に悪意はなく、単純に羨ましく思っていたんだろうと拓哉は思った。
拓哉は勘違いをしているが、別に唯志にも悪意はない。
唯志が動くと相対的に自分の評価が下がると思い込んでいるだけだ。
「で、次の行動は?」
唯志が光に質問した。
「えっと、今のところは何も。間宮さんはまた行きたいみたいだけど・・・。とりあえずみんなに報告してから決めようかなって思って。ねぇタク君。」
光がそう答えて、拓哉の同意を求めた。
拓哉は「そんな感じ」と簡単に答えた。
この一件についても拓哉はご機嫌斜めの様だ。
「とりあえず身元不明で行方不明じゃ手の打ちようがないな。佐藤さんにお願いしたいところだが、そもそも情報がなさすぎる。」
流石に唯志でも身元不明男性の方は手の施しようがないらしい。
その意見を聞いて、拓哉は何故かホッとした。
「その男の情報を得るためにも、とりあえず『自称霊能力者』の方だな。そっちを少し攻めてみるか。てか俺が興味ある。」
「でも、霊能力者だよ?光ちゃんの件とは関係ないし、意味ないんじゃない?」
と拓哉は反論した。
自分が興味あるだけだろ、と内心では思っている。
「何言ってんのタク君。霊能力者だよ!?気にならないの!?」
と莉緒が語気強めに拓哉に言う。
「え?あ、その・・・」
女性に強めに言われると思わずたじろいでしまう。
そもそも女性にこんな風に会話されるのもほとんど経験が無い故に。
「でもその霊能力者・・・霊能力については光ちゃんの秘密を教えないとダメだって言ってるんだって。」
拓哉は一応反論してみせた。
いや、言い訳だろうか。
「そうなの。話しちゃっても大丈夫かな?」
「いや、話さなくて正解だろ。霊能力についてだって今のところ自称だろ?信用できるかもわからないし。」
と唯志は光の判断を肯定してくれた。
これには光もホッとしていた。
「だが、気にはなるな。『何が出来るのか』は。」
と唯志は続けた。
「今のところ、その山田ってのの情報を持ってそうなのはその霊能力者だけだ。どんな能力を持ってるか次第では・・・」
「何か情報が手に入る?」
画面上で莉緒が唯志に質問している。
「かもな。少なくともひかりんに秘密があるってことは気づいたみたいだし。『色』が見えるんだっけ?興味あるな。吉田はどんな印象だった?その霊能力者。」
「どんな印象って・・・霊能力者とは思えない風貌だったくらいしか・・・。あと喋り方が変だったとか・・・。」
拓哉の印象には見た目のインパクトだけが鮮明に残っていた。
「他にはない?些細な事でも良いぞ。」
「うーん・・・。そう言えば、時折こっちの考えてることがわかるのか?って思う発言があったかな。」
「あ、確かに!何故か山田さんの記憶が戻ったのも気づいてた・・・と言うか確信してたし!」
「ふーん。色が見える・・・に、考えがわかるっぽいねぇ。ひかりんの秘密も面白そうとか言ってたんだっけか。」
「そうそう!絶対なんか特殊な力があると思う!」
光は先日の対話で御子に不思議な力があると信じ込まされていた。
「どうかな。それくらいなら洞察力に優れてる人なら出来そうだし。簡単な心理誘導でも出来そうな範囲だな。」
と唯志はあっさり言ってのけた。
(いや、普通は出来ねぇよ!?)と拓哉は心の中で突っ込みを入れた。
「そうなん?聞いてるだけだとなんか凄そうだけど。」
と莉緒が言うが、
「まぁ今のところ優秀な詐欺師と同レベル。それかメンタリスト。」
と唯志は未だに信じてはいない様だ。
「だいたい霊能力者だろ?ひかりんと吉田の話だと超能力者の印象なんだけど。」
「あ。」
光が思わず声を出した。
拓哉もハッとした。
言われてみれば、今のところ『霊』能力を見せられていない。
見た目と喋り方のインパクト。
加えて何か心を見透かされていそうな言動。
大豪邸に霊能力者というインパクト。
これらに『騙されて』冷静に考えていなかった。
御子は霊能力者っぽい事を何一つしていない。
普通の霊能力者っぽい事がどんなことなのか。
それについては全員があったことないからわからないのだが、映画や漫画に出てくる霊能力者とはイメージが違うのは確かだった。
「確かに唯志君の言う通りかも。じゃあ御子ちゃんは超能力者?」
「さぁどうだろうね。会ってみないとわからないな。」
と唯志は言っている。
会う気満々の様だ。
「私も会ってみたい―」
莉緒もノリノリだ。
「とりあえず、次の機会は作ろう。その際は俺も行くわ。」
「もちろん私も行くぜ!」
と唯志と莉緒が言う。
「本当!?やったー!」
光は二人の参戦に喜んでいる。
「それに、その環境・・・。もしかしたら理想的かもしれないな。」
「理想?何の?」
唯志の発言に光が質問をする。
「んー。実際見てみてから良さそうだったら話すよ。今は関係ないから無視しといて。」
「ラジャー!」
と光は唯志の指示に従い敬礼の様なポーズをした。
めっちゃ可愛いと拓哉は思った。
光はだいぶ現代の言葉遣いに馴染んできている。
莉緒の影響だろうか。
次回の機会については別途間宮と相談する (唯志談) ・・・と言うことで、この日の報告会はお開きとなった。
拓哉は光が唯志・莉緒と更に仲良くなっている事の方が気になり、もやもやしていた。
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